( 266099 )  2025/02/16 14:40:55  
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女性にAEDを使用する際に生じる心配や課題について紹介された。

実際に強制わいせつで訴えられたケースはないが、女性へのAED装着率が低いことが指摘されている。

救命措置には男性の力が必要であるとされ、女性に対しての救命処置が男性よりも少ない現状が示された。

AEDの使用時にはブラジャーを外す必要はないが、服を脱がせて確実にパッドを装着することが重要である。

そして、AEDは生存率を高める有効な器具であり、周囲の人を呼び集めて救命措置を始めることが重要である。

 

 

(要約)

( 266101 )  2025/02/16 14:40:55  
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AEDの使い方、あなたは正しく知っていますか?(写真はイメージ/gettyimages) 

 

 心肺停止状態の女性にAED(自動体外式除細動器)を使うと、「セクハラで訴えられる」と心配する人がいるようだ。だがよく聞いてほしい、実際にそんな事例はない。にもかかわらず、女性のAED装着率が低いというデータがある。救急救命の専門家に話を聞いた。 

 

*   *   * 

 

■AEDで「強制わいせつ」? 

 

 インターネットテレビ局「ABEMA」は、報道番組「ABEMA Prime」の1月20日の放送で、Xにこんな投稿をした男性を取材した。男性はAEDを使用して女性の命を救った後、強制わいせつで被害届を出されて、警察が受理した、という。 

 

 放送直後からSNSでは、こんな投稿が溢れた。 

 

<悲しいけど、これが現実なのよね> 

 

<倒れている女性は見捨てるべきと思わせるに十分な話> 

 

<女性へのAEDの使用で警察が「被害届受理」した事実は重い> 

 

■「ありえない」の声が多数 

 

  一方で、「男性の話はあり得ない」という声も消防や医療の関係者から上がっていた。この番組に出演した「RESCUE HOUSE(レスキューハウス)タイチョー」こと、消防防災アドバイザーの兼平豪さんもそのひとりだ。 

 

 兼平さんは番組スタッフに、「男性の話を鵜のみにして、事実確認がされていないのでは」と、尋ねたところ、「取材班ではないのでわからない」と返されたという。 

 

 兼平さんとのやり取りや、男性の証言の裏取りを含めた取材の経緯について、ABEMAに問い合わせたところ、広報からは「番組制作の過程については、回答を差し控えさせていただきます」と回答があった。 

 

 記者は警察庁に対して、以下の質問を送付した。 

 

<心肺停止状態の女性に対して男性がAEDを使用した後、女性側が男性に強制わいせつで被害届を出し、警察が受理したケースはこれまでにあったか> 

 

 すると、「このような事例は把握しておりません」と回答があった。 

 

 現在、証言した男性のXの投稿は非公開になっている。 

 

■女性へのAEDは男性の半分以下 

 

 取材を進めると、AEDによる救命措置を女性に行うことの課題が見えてきた。 

 

 旭化成ゾーンメディカルが2023年、一般市民約500人に対して行った「一次救命処置およびAED使用に関する意識調査」によると、女性に対する救命処置について「抵抗がある、できない・したくない、わからないと思う理由」(複数回答)で、最も多かったのは「衣服を脱がせたり、肌に触れることに抵抗がある」で53.8%、次いで「セクハラで訴えられないか心配」が34.0%だった。 

 

 京都大学などの研究グループは08~15年に学校で心停止になった児童・生徒232人について、救急隊が到着する前にAEDのパッドが貼られたかを調査した。小学生では男女差はほとんどないが、中学生から差が広がり始め、高校生では、男子生徒の83.2%にパッドが装着されたが、女子生徒は55.6%と、3割ほど低かった。 

 

 熊本大学病院などが05~20年の約35万例の心停止を調査したところ、AEDが使用されたのは男性3.2%、女性は半分以下の1.5%だった。 

 

 実際、兼平さんは大阪市消防局の救助隊員だったころ、女性への救命措置は男性ほど行われていないことを肌で感じてきたという。 

 

 

■救命措置には「力」が必要 

 

 救命措置には、男性の「力」は必要だと、兼平さんは言う。 

 

 呼吸がないことを確認した人に対しては、まず胸骨圧迫を行い、AEDが届いた後も自発呼吸が戻るまで胸骨圧迫を続ける。毎分100~120回のペースで、胸を約5センチ(乾電池1本分の長さ)、繰り返し押し下げる。「救急隊員でも5分ごとに交代する力がいる作業です。一般の男性なら2分くらい、女性なら1分も続けられない。女性だけで十分な救命措置を施すのは困難です」 

 

「ためらい」が生じるのは、AEDの装着時だ。 

 

 AEDが届いたら、対象者の服を脱がせ、胸まわりの状態を確認したうえ、「右の鎖骨の下」と「左のわき腹あたり」の素肌にパッドを貼るのが、装着の手順だ。 

 

■ブラジャーを外す必要は「ない」 

 

 電気ショックの効果を最大限発揮するためには、(1)湿布や鎮痛剤などを剥がす(2)ブラジャーの金具やペースメーカー(皮膚の下の硬いこぶのようなもの)からずらしてAEDパッドを貼り付ける――。不慣れな人ほど、この「基本」を守ることが重要だという。 

 

 救命措置とはいえ、女性の「服を脱がせる」ことに心理的抵抗がある人もいるということだろう。実際、どういった手順が正しいのか。女性の下着を外す必要があるのか。兼平さんに聞いてみた。 

 

「下着を外す必要はありませんが、確実にAEDパッドを装着するためには、服を脱がして貼り付け箇所にブラジャーの金具やペースメーカーなどがないか、状態を確認することは重要です」 

 

 倒れている人を、周囲の人が背中を向いて囲めば、人目を避けられる。 

 

 AEDの作業手順は、機器のスイッチを入れれば、自動で音声指示が流れる。使用者はその指示に従うだけでいい。119番通報してスピーカーフォンにしておけば、消防指令室の指示を仰ぎながら作業ができる。 

 

■周囲の人を呼び集めて 

 

 AEDはとても有効な救命器具だ。 

 

 総務省によると、22年、救急車が現場に到着するまでの所要時間は全国平均約10.3分。心停止から1分経過するごとに生存率は約7~10%低下する。そこに居合わせた人が救急隊の到着を待っているだけだと、1カ月後生存率は7.3%だが、AEDを使用した場合は54.2%と、7.4倍も生存率が上がった(23年)。 

 

 兼平さんは、倒れている人を見つけたら、「一歩踏み出す勇気を持ってほしい」と訴える。大切なのは、倒れている人を見つけたら、すぐに周囲の人を呼び集めることだ。 

 

「1人で抱え込まないで、一刻も早く、声を上げる。救命措置に自信がなくても、人が集まれば誰かがリードして救命措置が始まる確率が高まります」 

 

 記者は毎年、AEDや人工呼吸などの心肺蘇生法の講習を受けている。その際、消防署職員から「セクハラで訴えられた人はいませんし、その心配もありません」と、伝えられる。 

 

「セクハラで訴えられた」は、明らかなデマだ。それによって、命が失われるようなことはあってはならない。 

 

(AERA dot.編集部・米倉昭仁) 

 

米倉昭仁 

 

 

 
 

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