( 266454 )  2025/02/17 04:43:41  
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日本の人口減少社会において、日本は従来の大量生産・大量販売モデルから脱却する必要があると指摘されています。

少子化が進む中、仕事量や働き方を変えずに続けることはできないため、「戦略的に縮む」成長モデルが提唱されています。

具体的には、全体で仕事の量を減らし、労働生産性を向上させることが重要とされています。

オランダのワークシェアリングなどヨーロッパ諸国の働き方改革を参考に、働く時間の自由度を高めることで、生産性を向上させつつ人々に時間を与え、家族や趣味に充てる時間を増やすことが提案されています。

(要約)

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〔PHOTO〕iStock 

 

人口減少日本で何が起こるのか――。意外なことに、多くの人がこの問題について、本当の意味で理解していない。どう変わればいいのか、明確な答えを持っていない。 

 

100万部突破『未来の年表』シリーズのベストセラー『未来の地図帳』は、20年後の日本人はどこに暮らしているのか?人口減少が10〜20年後の日本のどの地域をどのような形で襲っていくのか?についての明らかにした必読書だ。 

 

※本記事は『未来の地図帳』から抜粋・編集したものです。 

 

第3の視点は、働くことに対する価値観の見直しだ。令和は高齢者の激増と勤労世代の激減への闘いの時代となる。勤労世代が激減しても暮らしが機能するようにするには、少しでも人手をかけずに社会が回っていく仕組みづくりが急がれる。 

 

少子化がもたらす真の危機についていま一度、考えていただきたい。子供向け玩具が売れなくなるとか、18歳人口が減るから大学が倒産するといったことを思い浮かべる人も少なくないだろう。 

 

そうした業界で働く人にとっては深刻な問題だが、社会全体として考えたときには「遊ぶゆとり」がなくなることこそが、わが国にとって最大の危機だと認識すべきだ。 

 

「遊ぶ」といっても、もちろんサボったり、享楽にふけったりということではない。ただちに利益を見込めない研究であったり、見聞を広めるための留学体験だったりというトライアル&エラーのことだ。どんな社会にあっても、多くの無駄と思えることや、失敗の積み重ねの上に新しい価値や便利な発明品、カルチャーが誕生してきた。 

 

ところが、少子化で若い世代が減っていくのに、これまで通りの仕事量、これまで通りの働き方を続けていったならば、働く人全員がフルパワーで社会を支える側に回らなければならなくなる。絶えず“結果”を求められ「遊ぶ」ことが許されない社会になってしまったのでは、イノベーションも新たな文化も、流行も生み出されず、社会の進歩は終わる。 

 

いつの時代もみんなでカバーすることで、若き優秀な社員に「遊ぶ」時間と機会を与えてきた。彼らのうち、一握りどころか、ひとつまみともいえる人の成功が日本人の暮らしを向上させ、社会全体の活力となっていたのである。 

 

少子化とは、こうした「遊ぶゆとり」を奪い取ることに他ならず、真の怖さはここにある。彼らがもたらすイノベーションなくして、人口減少に伴う新たな社会課題の解決はない。日本は確実に衰退の道を歩み始めるだろう。 

 

 

私は、人口減少社会においても日本が豊かさを維持するために、「戦略的に縮む」という成長モデルを提唱してきた。「戦略的に縮む」ための具体策を推進するには、働くことに対するわれわれの価値観を劇的に転換しなければならない。 

 

「遊ぶ」ことが許されない社会を避けるには、日本全体で仕事の総量を減らすしかない。頭の体操をしよう。仮に勤労世代が1000万人減るならば、社会全体で1100万人分の仕事をなくしてしまうことだ。こうすれば労働力不足が起こらないどころか、100万人の「遊べる人材」を捻出することが可能となる。 

 

では、具体的にどうすべきなのか。 

 

私は「残業のない国」であるオランダを参考にしたいと考える。オランダでは1980年代以降の働き方改革によって、フルタイムとパートタイムの待遇に差がなくなり、働く時間を選択する際の自由度が飛躍的に高まった。結果として、短い時間でも十分な所得が得られるようになり、ワークシェアリングが広がったのだ。 

 

改革が進められた背景には、「オランダ病」と呼ばれた不況があった。通貨の高騰や賃金の上昇によって製造業の国際競争力が著しく低下して失業率が上昇し、深刻な危機に見舞われたのだ。こうした状況を克服する切り札がワークシェアリングだったのである。 

 

業務範囲は明確化されており、自分の仕事で成果を出していれば、自分のライフスタイルやスケジュールに合わせてさまざまな働き方が認められている。 

 

それは、とりわけ女性たちの選択肢を広げることに役立った。自宅勤務やパートタイムを選択することで、家族との時間も大切にしながら収入を増やせるようになったのだ。 

 

オランダには、日本人が驚くばかりの光景が広がっている。仕事が残っていてもきっちり定時に帰宅する。「週休3日」という人もいる。長期休暇も当然のものとして取得する。 

 

夜間は多くの店舗も閉まるので、アフターファイブは自宅で家族との時間を大切にする。趣味やボランティア活動、地域活動に汗を流す。人生の優先順位を考え、「人生を楽しむ」ために働いているのだ。 

 

だからといって生産性が低いわけではない。むしろ、逆である。日本のほうが低いのだ。公益財団法人日本生産性本部の「労働生産性の国際比較2018」によれば、時間当たりの労働生産性(就業1時間当たりの付加価値)は、日本が47.5ドル(OECD加盟36ヵ国中20位)なのに対し、オランダは69.3ドル(8位)だ。また、ひとり当たりの労働生産性(就業者ひとり当たりの付加価値)も日本の8万4027ドル(21位)に対し、オランダは10万5091ドル(10位)だ。 

 

 

日本は人口減少社会になってもなお、「大量生産・大量販売」という成功モデルから脱却できないでいる。少し成功したり、儲かったりすると、さらに売り上げを伸ばそうと設備投資を急ぎ、必死に人手をかき集めようとする。しかしながら、今後は働くことのできる人口そのものが減っていくのだから、こうしたモデルが続くはずがない。 

 

むしろオランダをはじめとするヨーロッパ諸国を参考とし、休むことによって労働生産性を向上させるように社会をシフトすべきときだ。人々の暮らしに時間ができれば子供と向き合う時間も増え、少子化対策にもつながる。 

 

令和の課題として高齢者の激増対策があると先に述べたが、親の介護に充てる時間をとれるようになれば、令和の大きな社会課題となる介護離職も減らせる。高齢者のひとり暮らしが増える中にあって、地域ボランティアも増えるだろう。 

 

こうした働き方が定着したら、人手不足の見通しは現在の予測とはかなり違ったものとなり、各企業は若き社員に「遊ぶゆとり」を用意し続けられる。天然資源に乏しい日本では「勤勉な人的資源」こそが経済成長の源であった。オランダのモデルを日本に導入するのは簡単ではないという専門家の意見もあるが、日本の実情を踏まえたやり方にすればよいだけだ。縮みながら成長するモデルへの挑戦に、いつまでも二の足を踏んではいられない。 

 

つづく「日本人はこのまま絶滅するのか…2030年に地方から百貨店や銀行が消える「衝撃の未来」」では、多くの人がまだまだ知らない「人口減少」がもたらす大きな影響を掘り下げる。 

 

河合 雅司(作家・ジャーナリスト) 

 

 

 
 

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