( 266484 ) 2025/02/17 05:11:18 1 00 フジテレビの女性アナウンサーを巡る問題がメディア業界を揺るがしている中、フジテレビだけでなく他の放送局でも同様の問題が浮上している。 |
( 266486 ) 2025/02/17 05:11:18 0 00 キャビンアテンダントのイメージ(画像:写真AC)
フジテレビの女性アナウンサーを巡る問題は連日注目を集めており、メディア業界全体を揺るがす問題として認識されつつある。しかし、この問題はフジテレビだけに限った特殊な事例ではない。ほかの放送局でも同様の調査が進められており、その本質には長年見過ごされてきた「女性性の商品化」という構造的な課題が存在している。
戦後日本において、女性の職業自体が「商品化」されていたものとして特に目立っていたのは、
・テレビ局の女性アナウンサー ・航空会社のキャビンアテンダント(CA)
だ。このふたつの職種は長年「企業の顔」として演出され、実務能力以上に外見やイメージが重視されてきた。
本稿では、戦後の歴史を振り返りながら、女子アナとCAというふたつの職業がどのように消費され、そして今日に至ったのかを追っていく。
ダグラスDC-3 の前に立つJALスチュワーデス。1951年8月27日撮影。
1985(昭和60)年の男女雇用機会均等法以前、働く女性に対する社会の認識は現在とは全く異なっていた。戦前の求人広告には
「女子秘書課書記、年齢20歳以上25歳位愛嬌ある社交的麗人文章堪能の能筆家」
などがあり、このような意識は戦後も変わらず続いていた。
そのため、女性たちの憧れの職業であったCA(当初は「エアガール」)の扱いも時代に即したものであった。戦後に創立されたJALが「エアガール」の募集広告を新聞に掲載したのは1951年7月のことだった。その広告には次のように記されていた。
「資格 20―30歳 身長一五八米以上 体重四五瓩―五二、五瓩迄 容姿端麗 新制高校卒以上 英会話可能 東京在住の方 採用人員12名 履歴書写真上半身全身各一 身長体重記載同封郵送」
「容姿端麗」という文言からも、この職業は最初から「見られる存在」として設計されていたことがわかる。応募者は約1300人に達した。履歴書審査で175人、面接で40人まで絞られ、最終的な採用者は15人だった。この厳しい選考の実態は、当時発行されていた女性誌『新女苑』1951年11月号の「あこがれエアガールに訊く」という座談会でも語られている。
「最初はやはり、身長が幾らで、容姿端麗で、英語が話せて、東京在住という人たちが履歴書を出しまして……」
この職業への注目度の高さは、意外な形でも表れていた。1958年から翌年にかけて、JALでは当時のスチュワーデス(現CA))の4分の1にあたる30人が一斉に退職した。その理由は全員が結婚だった。当時、スチュワーデスには独身であることが求められていたが、それ以上に注目度の高さから縁談が殺到したのである。
「「嫁をもらうならスチュワデス」という合い言葉がサンフランシスコやホノルルなど日航ラインのある外国都市の日本商社や、船会社の独身青年の間にはやっているという。(中略)結婚退職者の数をみると、一期から十期までの採用者総数143名に対して、約85名。縁談ケースの内訳は、家庭本位の結婚、職場結婚、国外商社員との結婚、外国人や二世たちとの結婚、と、四つに分けられるが、いずれの場合も、平凡な見合い結婚はきわめて少なく、恋愛結婚か、男の側の熱心な申込みによるものが大部分だったという」(「嫁をもらうならスチュワデス」『週刊女性』1959年2月8日号)
この記事からも明らかなように、CAという職業は「一時的な華やかさ」を前提にしたものとして認識され、制度設計されていた。
女性アナウンサーのイメージ(画像:写真AC)
CAの商品価値は、その後も形を変えながら維持されていった。
1987(昭和62)年、JALの機内誌『WINDS』が「第500期スチュワーデス特集」を掲載した際、発行部数49万部(国際線25万、国内線18万、定期購読6万)を誇る同誌は
「本を持ち帰る乗客が多く、月半ばで品切れになる」
という事態に陥った。同年、JALの出版関連事業(ガイドブックやカレンダー)は5億円規模に達していた。毎年発売されるCAをモデルにしたカレンダーの存在は、この職業の商品価値を端的に示している。
そんなCAに続いて「商品化」できる職業として注目されたのが、女性アナウンサーだった。戦前のラジオ時代から存在した職業だが、1980年代までは「女性アナウンサー」と呼ばれるのが一般的だった。しかし、1980年代に入ると、彼女たちをアイドルや番組の広告塔として活用しようとする動きが活発化。次第に「女子アナ」という略称が定着し、CAと並ぶ「憧れの職業」へと変貌していった。
当時の女性アナウンサーの商品化の実態を示す記事が『朝日新聞』1990年11月20日夕刊に掲載されている。フジテレビの局アナだった有賀さつき氏の証言を引用する。
「職場であるフジテレビのアナウンス部のことを、「悪く言っちゃうと、置き屋みたい」。涼しい顔で、言ってのける。「だって、お呼びがかからないと、みじめというか。制作サイドは、若い子から使っていきますからね。年とったら、おしまいだ、というようなところがあるんです」「女性アナって、寿命が非常に短いんですよね。新人のころから、先輩をずっと観察していたんです。どう考えても、入って3年の間に芽がでないと、花開くことは難しい」今年がその3年目。現在、「上岡龍太郎にはダマされないぞ!」など、週に3本のレギュラー番組を抱える。18人いる同局の女性アナの中で、バラエティー番組に限れば、業界用語でいうところの「露出度」がナンバーワン。アナとして絶頂期といえるだろう。といって、失礼な言い方だが、番組の進め方が、際立って鮮やか、というわけではない。逆に、番組を見学に来た女の子のような、シロウトさん的キャラクターが時代にマッチし、人気を集めている。「上司に言われるんです。君は『生まれっぱなし』がウリで使っているんだから、アナと思わなくていい。感じたことを言いなさいって」」
この証言からも、女性アナウンサーが放送の専門職というより「商品」として扱われていた実態が浮かび上がる。
「3年で芽が出ない」 「若い子から使う」
という表現からは、「若さ」が最大の価値とされる構造が見えてくる。
アルバム『才色兼備』(画像:ポニーキャニオン)
この「商品化」は、1990年代後半になるとさらに加速する。例えば1996(平成8)年、フジテレビは女性アナウンサー17人による音楽アルバム『才色兼備』を発売。若手4人のユニットを結成し、「Knock Me!」でCDデビューまで果たした。この頃には、女子アナをアイドルの新たな形として特集する雑誌や書籍が次々と刊行されている。各局のスター女子アナがグラビアに登場し、タレント扱いされる状況は、もはやアナウンサーという職業の本質から大きく逸脱していた。
これは、制服や接客を通じて「手の届きそうで届かない」理想の女性像を演出し、カレンダーやグラビアで「理想像」を商品化していたCAと同様の構造だった。どちらの職種も、専門性よりも「若さ」や「愛らしさ」が重視される時代だった。
この商品価値を最も象徴的に示したのが、1990年代の「シンデレラストーリー」報道だった。1990年から1998年にかけて、女子アナの「華やかな結婚」が相次いだ。
・赤間裕子(東京放送) ・木場弘子(TBS) ・河野景子(フジ) ・中井美穂(フジ) ・田口恵美子(東京放送)
など、多くが野球選手や芸能人との結婚を機に退社している。
CAの世界でも同じ傾向が見られた。1993年、横浜の秋元宏作捕手とJALのCAの結婚披露宴は
「プロ野球選手とスチュワーデスの夢の組み合わせ」
として報道された。翌1994年には、大関若ノ花とJALのCA・栗尾美恵子の熱愛が報じられ、栗尾は
「モデル時代からの美人スチュワーデス」 「日航カレンダーのモデル」
として紹介された。
これらの報道に共通するのは、結婚を「おとぎ話」のように演出する視点だ。プロ野球選手や力士という「男性的職業」のスターと、女子アナやCAという「女性的職業」のエリートの結婚は、理想の組み合わせとして持て囃された。
しかし、その裏では
「結婚退社」
が当然視され、長期的なキャリア形成は阻害されていった。男女雇用機会均等法の施行後も、両職種は「見られる存在」という特殊な位置づけから抜け出せずにいた。
飛行機(画像:写真AC)
2000年代に入ると、両職種を取り巻く環境は大きく変化していった。
航空業界では、格安航空会社(LCC)の台頭が既存の価値観を揺るがした。航空会社各社は次第に身長や体重の基準を撤廃し、「見られる存在」としての縛りも緩和されていった。
放送業界でも変化は著しかった。2000年代に入り、YouTubeやSNSの普及によって情報発信の形が多様化。かつて「憧れの存在」だった女性アナウンサーの独占的な地位も相対化されていった。
今回のフジテレビの女子アナ問題が大きな反響を呼んだのは、同局にいまだ古い価値観が根強く残っていたことへの衝撃が大きかったからだろう。
「見られる存在」として女性を商品化することは、すでに時代遅れの価値観となっている。2023年に航空連合が実施した調査では、CAの
「71%」
が無断撮影などの被害を認識していると報告。「見る/見られる」という非対称な関係への問題意識は、すでに社会的な共通認識となっている。
1951(昭和26)年のJAL「エアガール」募集から70年以上。メディアや航空業界における女性の「商品化」は、時代とともに形を変えながらも続いてきた。しかし、「憧れの職業」として美化されてきたこの構造自体が、いま厳しい視線にさらされている。
なお、2024年10月28日には週刊女性PRIMEが「「CAをなんだと思ってるんだ」ANAが“乗務員アイドル化”に猛反論、公式が答えた長文説明」という記事を配信している。
昼間たかし(ルポライター)
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