( 266614 )  2025/02/17 15:35:44  
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2024年の自衛隊観閲式で注目されている「防衛増税」について、立憲民主党が廃止を求めており、2025年度予算案の修正を迫っている。

防衛増税は石破政権の方針であり、防衛費をGDPの2%程度へ増やすことを目指している。

阿久津幸彦議員は、税金の使途や増税に疑問を呈し、防衛増税の反対を強調している。

防衛増税の財源確保策として、法人税や所得税、たばこ税の増税が計画されているが、所得税の増税は先送りされている。

また、防衛費増加により予算の達成が困難になる可能性があり、円安やインフレも課題となっている。

(要約)

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2024年の自衛隊観閲式(写真:代表撮影/ロイター/アフロ) 

 

 論戦が続く通常国会で「防衛増税」が焦点の1つになっています。少数与党の石破茂政権に対し、最大野党の立憲民主党は防衛増税の廃止を要求。2025年度予算案の修正を迫る構えを見せています。防衛増税は岸田文雄・前政権時代に決まった政府の方針ですが、石破政権にも引き継がれました。個人の所得税の上乗せもある「防衛増税」とは、いったい、どんな中身なのでしょうか。やさしく解説します。 

 

 (フロントラインプレス) 

 

■ 「反撃力」向上へ、防衛費をGDPの2%程度へ 

 

 防衛増税はここ数年、政治の大きな課題となっています。2月14日の衆院本会議では立憲民主党の阿久津幸彦議員が登壇し、冒頭、次のように発言しました。 

 

 「所得税を含む国税は本来、国民のためにある。その実感を国民が得られないのは、税の再配分機能が十分に果たされてないからだ。税を納めても、どこに使われているのかわからない。賃金も上昇しない、社会インフラも思ったほど整わない、そもそも税の仕組みそのものが(国民には)複雑でよくわからない」 

 

 そのうえで、防衛増税に言及し、「そもそも防衛増税については、与党内でも反対の声が根強く、(2024年の衆院選の結果)衆議院では、『防衛増税反対が過半数の意思』になっている」と強調。防衛装備の充足が必要だとしても、安易に増税に頼るべきではないとして、防衛増税の撤回を政府に迫ったのです。 

 

 阿久津氏が取り上げた防衛増税の議論は、2022年12月にまで遡ります。 

 

 当時、岸田内閣と国家安全保障会議は「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」という、いわゆる「安保3文書」を改訂しました。 

 

 その眼目は、自衛隊の「反撃能力」を向上させること。仮に日本が軍事攻撃を受けた場合、それを撃退するためには自衛隊に相応の武力が必要だとして、米国製巡航ミサイル「トマホーク」など兵器の新規導入、基地の整備、弾薬・燃料・食料などの確保などを図る方針を打ち出したのです。 

 

 そのためには防衛費を増やし続けることが必要で、2027年度には日本のGDP(国内総生産)の2%程度にまで防衛費を増やす、という方針を示しました。日本の防衛費は1976年に当時の三木武夫政権が「国民総生産(GNP)比1%」という上限を政府方針として掲げて以来、1%を超すケースはほとんどありませんでした。 

 

 巡航ミサイルの保有に象徴されるように、新たな安保3文書は軍事的にも戦後日本の大転換を示すものですが、予算面でも「GDPの2%程度」にまで増額するという大きな政策変更を伴ったのです。 

 

 

■ 14.6兆円不足、財源はどこに 

 

 岸田政権が2022年末に閣議決定した内容は、防衛力を整備するため、2023〜2027年度の5年間の防衛費を総額で43兆円にするという内容でした。それまでの5年間の1.5倍という巨費で、これを実現させようとすると、14.6兆円の不足が生じます。 

 

 では、その財源をどこに求めるのでしょうか。 

 

 岸田政権は、国有財産の売却や特別会計の剰余金などの税外収入で4.6兆〜5兆円、決算剰余金の活用で3.5兆円、歳出改革で3兆円を捻出するなどとしましたが、それでも1兆円ほどが不足するとの見積もりを示しました。 

 

 「防衛増税」とは、その1兆円の不足を増税で確保しようという政策です。増税の対象は、法人税と所得税、それにたばこ税という3税です。 

 

 具体的には、法人税の増税は2026年4月から実施されます。その増税は「防衛特別法人税」として、法人税額から500万円を差し引いた額に4%を上乗せする方式で行われます。 

 

 たばこ税については2026年4月から加熱式たばこの税率を引き上げ、紙巻きたばことの税負担の差を解消。そのうえで、たばこ全体の税率を2027年4月、2028年4月、2029年4月の3段階で1本当たり0.5円ずつ上げることにしています。 

 

■ 所得税の増税、先送りのツケ 

 

 一方、3税のうち、所得税の増税については開始時期の決定が先送りされ、正式決定に至っていません。政府・与党は当初、現行税率2.1%の「復興特別所得税」の税率を1%引き下げると同時に、税率1%の「防衛特別所得税」を創設。2027年1月から実施する方針でした。 

 

 給与所得者から見れば、合計の税率2.1%は変わりませんが、東日本大震災の復興に充当する目的だった税金のおよそ半分を防衛費に回すことにしていたわけです。 

 

 この方針が決定に至らなかった背景には、有権者の懐具合に直結する所得税の増税にはなかなか手を付けにくいという事情が横たわっていました。そもそも、岸田内閣が「5年間で43兆円」という大幅な防衛費増加を決めた2022年末の与党税制大綱においても、防衛増税の実施時期は明示的に盛り込むことができず、「2024年以降の適切な時期」としか書かれませんでした。 

 

 そのため、防衛増税の議論は棚上げされたうえ、2023年10月には支持率低下に悩む岸田首相が2024年度からの増税を実施しない考えを表明。現在に至るまで、実施時期を明示できないでいるのです。 

 

 2025年夏に参院選を控える与党としては、選挙後まで防衛増税に関する議論は封印すべきだとの議論も出ています。財源確保の具体化を避け、防衛費「増額」という規模の決定を最優先したツケが回ってきたとも言えそうです。 

 

 

■ 円安・インフレ・トランプ2.0の三重苦 

 

 防衛増税にはインフレと円安という2つの困難にも直面しています。 

 

 岸田政権が防衛費の増額を決定した2022年以降、円安や物価高が進み、装備品の価格は上昇しています。計画時の想定為替レートは1ドル=108円でしたが、その後、円相場は下落を続け、1ドル=150円台に。そうした結果、43兆円を確保したはずの防衛費は、計画策定時に比べておよそ3割も目減りしたのです。 

 

 そこに物価高も加わったことで、例えば、計画策定時に1機あたり224億円とされた国産の「P1哨戒機」は2024年度に345億円、2025年度予算案では421億円へと急上昇しました。米国から導入する最新鋭戦闘機「F35A」は、当初の116億円から2025年度には156億円に値上がりする見込みです。 

 

 こうした結果、当初の計画である「5年間で43兆円」という防衛費では、目標通りの装備品を調達できない可能性が高まっています。 

 

 さらに発足したばかりの米トランプ政権が、日本にさらなる防衛費の増大を求めてくることも予想されています。 

 

 トランプ氏はかねてから、米軍が他国を防衛する場合、その国はコストをもっと負担すべきだとの考えを繰り返してきました。2月7日に米国で行われた石破茂首相とトランプ氏の日米首脳会談では、米側から防衛費の増額要求はなかったと石破氏は説明しています。 

 

 ただ、日米共同声明は「2027年度以降も抜本的に(日本の)防衛力を強化していく」と明記。東アジア地域の安全を確保するために、日本にさらなる負担を求める姿勢は変わっていません。 

 

 物価高や伸び悩む賃金、増えない手取り……。日本の労働者の暮らしは一向に上向きません。そして「手取りを増やす」というスローガンを掲げた野党は勢いを増しています。 

 

 中国の海洋進出や北朝鮮の核・ミサイル開発などが止まらず、日本の安全保障環境は不安定さが増していますが、だからといって、国民の生活苦が続く現状では、増税による防衛力強化が無条件で受け入れられる状況でもありません。 

 

 防衛と増税をめぐる最適解は果たしてどこにあるのでしょうか。 

 

 フロントラインプレス 

「誰も知らない世界を 誰もが知る世界に」を掲げる取材記者グループ(代表=高田昌幸・東京都市大学メディア情報学部教授)。2019年に合同会社を設立し、正式に発足。調査報道や手触り感のあるルポを軸に、新しいかたちでニュースを世に送り出す。取材記者や写真家、研究者ら約30人が参加。調査報道については主に「スローニュース」で、ルポや深掘り記事は主に「Yahoo! ニュース オリジナル特集」で発表。その他、東洋経済オンラインなど国内主要メディアでも記事を発表している。 

 

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