( 266794 )  2025/02/17 18:48:10  
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日本の財政は、膨大な借金と厳しい人口減少により深刻な状況にあり、財政危機が近づいている。

専門家による『持続不可能な財政』では、現状と再建の解決策が論じられている。

経済成長や金利の影響などにより税収の伸びが変わり、高いインフレ局面では税収が増加する一方、歳出も同様に増加する必要がある。

物価連動債を除けば、国債の元本返済と利払いは、高いインフレでも国債発行時の金額で支払われる。

高いインフレで財政破綻を回避できると言われるが、その実態は、国民に重い負担を強いる放漫な財政運営だと指摘されている。

(要約)

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photo by Getty Images 

 

我が国の財政運営は、このままではこの先、何かのきっかけで、いつ何どき、行き詰まってもおかしくない状態にすでに陥っている。しかも、1,104兆円(2024年度末の普通国債残高の見込み)という天文学的ともいえる借金の大きさと、歴史上かつて体験したことのない厳しい人口減少がもたらす国力の低下を鑑みれば、ついに「行き詰まった」ときに起こる事態は、我が国自身が第二次世界大戦の敗戦直後に経験した苛烈な国内債務調整に匹敵するものにならざるを得ない。 

 

静かに迫り来る財政危機を何とかして未然に回避し乗り切るために、私たちはいま何ができるのか。財政政策と中央銀行の金融政策に精通した日本総合研究所主席研究員の河村小百合氏と前参議院予算員会調査室長の藤井亮二氏が協力して取り組んだ『持続不可能な財政』では、危機的な状況にある日本の財政の現状と再建のための解決策の具体的な選択肢にはどのようなものがあるのかを真っ正面から論じている。 

 

(*本記事は河村小百合+藤井亮二『持続不可能な財政』から抜粋・再編集したものです) 

 

「金利が上昇して利払費が増えても、税収も増えるから財政運営は問題ない」という見方を目や耳にすることがありますが、本当にそうなのでしょうか。 

 

図表2-13は、2023年度の決算ベースの税収額を出発点に、4つの各シナリオで、税収がどの程度伸びるのかを試算してみたものです。税収が経済成長率に対してどの程度伸びるのかを示す税収弾性値に関しては、主要諸外国におけるこの手の財政試算で採用されている考え方にならい、1.0と設定しました。 

 

この表から明らかなように、経済・金利シナリオによって、先行きの税収には大きな差が生じます。2033年度の税収の試算値で比較すると、0.5%成長のデフレ逆戻りシナリオでは約76兆円止まりなのに対し、5.5%成長の高インフレ招来シナリオでは約123兆円に達します。 

 

このようにみると、名目成長率が高くなれば、税収の伸びで利払費の増加分も何とかカバーできそうに見えてしまうかもしれません。しかし、ここで決して忘れてはならない点があります。歳出、私たちが国から受け取る給付等がそのときどうなっているのか、という点です。 

 

本試算においては、我が国の先行きについて、高めの潜在成長率を見込むことは非現実的であることから、名目成長率が高めで推移するケースにおいては、あくまで物価上昇率が高止まりして日銀がそれを抑えきれなくなるケースを想定しています。 

 

そうしたケースの下で、税収が高い伸びをみせる一方で、社会保障向けや教育向け、防衛費といった分野の歳出の名目の金額が横ばいのままで抑えられてしまったらどうなるでしょうか。年金然り、公務員の給与然り、高インフレが続いているのにそれに見合う金額を政府から受け取れなければ、みんな、たちまち生活に窮してしまいます。 

 

政府からの歳出を受け取る企業の側も同じです。防衛産業関係の企業も、公共工事を請け負う建設会社も、物価や人件費が高騰しているのに、政府の側からそれに見合う金額で仕事を発注してもらえなければ、とてもそれらの仕事を引き受けられなくなるでしょう。 

 

 

高インフレ局面では本来、政府の歳出のほうも、物価上昇率に見合う形で増額していかなければ、国民の側の生活が回らなくなってしまうのです。よくよく考えてみれば、政府の歳出のうち、名目金額通りを支払えば足りるのは、国債費だけです。国債の元本償還と利払いは、高インフレになろうがなるまいが、国債発行時点で決定された名目金額で支払えれば足りるからです(物価連動債を除く)。 

 

このような考え方に基づき、4つのシナリオの下で、国債費以外の政府の歳出(社会保障費等の一般歳出+地方交付税交付金等)を物価上昇率見合いで伸ばすとどうなるかをみたものが図表2-14です。とりわけ高インフレ局面においては、税収の伸びもさることながら、国債費以外の歳出の方も物価上昇率見合いで伸ばさなければ、国民の方はたまらないことは明らかです。 

 

さらに、利払費の増加が最も抑えられる「全額1年債発行」の調達パターンで、税収が最も伸びると見込める「5.5%成長の高インフレ招来シナリオ」のもとでの税収と利払費の伸び、さらには望ましい物価上昇見合いでの歳出の伸びを比較してみたのが図表2-15のグラフです。税収の伸びは、利払費と望ましい歳出の伸びには全く追い付かず、両者の差は拡大する一方となることがわかります。 

 

写真:現代ビジネス 

 

「インフレで財政破綻は回避できる」とよく言われます。しかし、その実態がどういうものなのか、この試算結果がまざまざと物語っているのではないでしょうか。 

 

高インフレ局面では確かに税収は伸びる一方、政府の側からすれば、国債費に限らず、その他の一般歳出等も、名目で同額の金額を支出し続ければ済んでしまいます。 

 

しかしそれでは、国民の側はたまりません。放漫財政国家が、増税を断行して歳入を増やしたり歳出をカットしたりする、まともな財政再建努力を行わず、高インフレでなし崩し的に乗り切ろうとする財政運営の実態とは、こういうことなのです。国民の側は、国会の議決が必要な追加増税や歳出カットは免れても、代わりに高インフレという形で重い負担を負わされることになるのです。 

 

河村小百合による、『日本銀行 我が国に迫る危機』(第45回石橋湛山賞受賞)も好評発売中! 

 

藤井亮二、河村小百合 

 

 

 
 

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