( 267214 )  2025/02/18 16:52:20  
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回転寿司チェーンのくら寿司が導入した新サービス「プレゼントシステム」について、ホールケーキやプリン、ちらし寿司がレーンを流れる仕組みや背景について紹介されています。

お客様の驚きや楽しさを追求するくら寿司のサービス精神や、アナログな演出にこだわる理由などが説明されています。

開発を担当したDX本部は最先端のテクノロジーを駆使しているが、アナログな要素も重視されており、お客様に喜んでもらえるよう工夫されています。

(要約)

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パレードのようにレーンを流れる「プレゼントシステム」のホールケーキ(写真提供:くら寿司)/配信先では画像をすべて見ることができません。本サイト(東洋経済オンライン)内でご覧ください 

 

ライター・編集者の笹間聖子さんが、誰もが知る外食チェーンの動向や新メニューの裏側を探る新連載。第1回は大手回転寿司チェーン くら寿司にホールケーキ登場のハテナに迫ります。 

 

■パレードさながらに流れてくるホールケーキ 

 

 くら寿司のレーンに異変が起きている。 

 

 気付いたのは先月末、家族で訪れたときだ。遠くから、テーマパークの「パレード」のような、にぎやかな音楽が近づいてきたのだ。それも、ファミコンを思わせる電子音で。 

 

 音のする方向を見るとレーンの上を、ピカピカと輝くガラスの汽車とメリーゴーラウンド、液晶モニターがやってくるではないか。続いて、半円形の不透明なドームがやってきた。 

 

 ドームの上にはフラワーリボンがひとつ。モニターには、注文者のテーブルナンバーらしき数字が表示されている。 

 

 「いったいこれは……」と戸惑っていたら突然、「ちゅうもーく!  ちゅうもーく!」という音声と共に、モニターに「注目!」の文字。と同時にパカッと半円形のケースが開き、中から「お誕生日ケーキ」さながらのホールケーキが姿を現した。 

 

【画像15枚】流れるホールケーキに子どもが歓喜! くら寿司「プレゼントシステム」はこんな感じ 

 

 モニターの文字は「おめでとう!」に変わり、注文者らしきご家族が、慌ててケースからケーキの皿を取り出す。そうか。通り過ぎる前に取らなければ、流れていってしまうのだ。 

 

 この寿司店らしからぬサービスの名前は、「プレゼントシステム」という。2024年11月、「日頃の感謝を伝えるサプライズサービス」として土日祝限定で10店舗に導入され、大きな反響を呼んだ。子どもはもちろん若い世代にも話題になり、SNSでも多数拡散されたという。 

 

 さらに、クリスマスにはモニターの文字が「メリー・クリスマス!」に変わって半額提供も。 

 

 そのニュースを見て、「誕生日に使いたいので入っていますか」などと各店に問い合わせが殺到。これを受けて、12月末には80店舗で毎日オーダーできるようになったそうだ。 

 

■登場するメニューは3種類 

 

 「プレゼントシステム」で登場するメニューは3種類だ。いちご、バナナ、キウイなどフルーツをカラフルにトッピングしたホールケーキと、同じくフルーツをたっぷりあしらったプリン。そして、いくらやカニ身、マグロなどを使ったちらし寿司だ。 

 

 

 オーダーは来店時にタッチパネルででき、メッセージは「おめでとう!」「ありがとう!」から選べる。価格は、ホールケーキとちらし寿司は1000円、プリンは800円と回転寿司にしては高額だ。しかしそれよりなにより、ド派手。このサービスは、いったいどのように生まれたのだろうか。 

 

 「プレゼントシステムは、商品力と並んでエンターテインメント性を重視してきた、くら寿司ならではのメニューです」と広報部 辻明宏さんは説明する。 

 

■「プレゼントシステム」が生まれたきっかけ 

 

 くら寿司は1977年、大阪に持ち帰りの寿司専門店として創業し、1984年7月、回転寿司店として再オープンした寿司チェーンだ。 

 

 創業社長の田中邦彦さんは、当時から「ゲストを楽しませる」仕掛けを考える人で、市場で買った活け海老を、そのままレーンに流してゲストを驚かせたこともあるそうだ。また、紙芝居を1枚1枚パラパラ漫画のようにレーンに流したり、「モグラ叩き」のようなおもちゃを流したこともある。 

 

 「そもそも回転寿司自体が通常の飲食店とは違う、エンタメ性が強い業態です。レーンを回ることもそうですが、『100円でお寿司が食べられる』ことも、かつてはサプライズでした。 

 

 お客様が回転寿司店に来る理由は、お寿司が好きなこともありますが、レジャーに行くような楽しさがあるからだと考えています」(辻さん) 

 

 しかし100円という価格もレーンを回ることも、いつしか「当たり前」となった。 

 

 加えてコロナ禍以降は、“ナカショク”需要の高まりを受けて惣菜のレベルが上がり、Uberなど宅配サービスも充実。回転寿司に「わざわざ足を運んでもらう」動機が一層必要となり、「楽しい仕掛けや演出」を、これまで以上に考えるようになったそうだ。 

 

 そうして、「回転寿司なのに、こんなクオリティの高いものが食べられるんだ」と驚かれるほど本格的なラーメンの開発など、ゲストの期待を裏切るサービスを模索していくなかで、「プレゼントシステム」が生まれたという。 

 

 目標としたのは、メインのゲストである家族連れ、なかでも子どもが喜ぶ演出だ。あわよくば、20代、30代の好奇心も煽って、SNSでの投稿も促進したい――。そうやって、驚き、ワクワクを追求した結果が「プレゼントシステム」だったのだ。 

 

 

 システムの登場が2024年11月になったのは、2023年に同業他社チェーンで起きた迷惑行為も関係している。これを受けて大手は軒並み、レーンに寿司を流すのをやめてしまったのだ。 

 

 しかしくら寿司は、レーン上にAIカメラを取り付けて安全性を確保し、寿司を流し続けた。そして、「ライバルが減った今こそ回転ベルトを使って、エンタメ性のあるサービスができないか」と考えたのだ。 

 

■あえて「アナログ」のこだわり 

 

 こうして生まれた「プレゼントシステム」だが、音楽も演出も、ちょっと“昭和”味がある気がする。 

 

 チープな電子音に、パカッと開くケース。汽車は既製品のフィギュアで、そこにLEDライトケーブルが巻きつけられている。手作り感が満載だ。 

 

 くら寿司にIT技術がないわけではない。むしろその逆で、業界トップクラスにデジタル化が進んでいる。前述の通り、大手で唯一寿司をレーンに流し続けられているのも、レーンをAIカメラで撮影しているからだ。 

 

■スマートにしようと思えば全然できるけど… 

 

 しかも、このAIカメラと皿回収ポケットで、ゲストが食べた皿数をダブルチェック。タッチパネルから注文した寿司とレーンからとった寿司、両方の数を正確に把握できている。これにより、人の手がまったく介在しない「無人会計」が可能となっているのだ。 

 

 入店時は無人受付機が対応しており、寿司をレーンに流す量も、ICTでコントロールしている。 

 

 それらの技術をもってすれば、「プレゼントシステム」は音楽も演出も、もっとスマート化できる。スピード感も、注文した皿を運ぶときに使われる「専用レーン」であれば、もっと素早く運ぶことが可能だ。だが、そうはしない。 

 

 「通常レーンでもたもたと近づいてきて、『遠くから何かがきたぞ』みたいな演出をしたほうが、回転寿司ならではの楽しさがあるのではないでしょうか。“気を持たせるワクワク感”みたいな部分を、日本人は好むと考えています」 

 

 

 昔話を思い浮かべてみてください、と辻さん。 

 

 たとえば桃太郎は、落ちていた桃を拾うのではなく、「どんぶらこ、どんぶらこ」と川上から流れてくる。いわば「古来のサプライズ演出」だ。このアナログなワクワク感こそ、くら寿司が大切にしているものなのだ。 

 

 根底には、「お客様に楽しんでほしい、驚いてほしい」という、田中社長のサービス精神があるという。「くら寿司は、なんかいつも変なことしている」というイメージをゲストに持たせ続けたい、とも。 

 

 田中社長はよく、「我々は外食企業の前に、人を楽しませるサービス業である」「くら寿司が目指すのは、ただのレストランではなく食のテーマパークである」と言うそうだ。 

 

 ちなみに、「プレゼントシステム」開発を担当したDX本部は、タッチパネルのオーダーやアプリ予約サービスなど、最先端テクノロジーを駆使したシステムを構築している部署だ。アナログな開発への抵抗感はなかったのだろうか。 

 

 「たしかに、IT系やテクノロジーを手がける人にすると、何作ってんねんという部分はあるかもしれない」と辻さんは苦笑するが、「サプライズ感があって、なんか楽しい雰囲気で」と、仕掛けはDX本部に一任されたという。 

 

 というのもDX本部内には、くら寿司の風土をよく知る店長経験者がいる。だからこそ、期待に応えるシステムが完成したのだ。一見アナログだが、「注文者のテーブルについたらケースがパカッと開く」演出などにITも駆使されている。すぐ取らずにもたもたしていたら流れていってしまうところも、回転寿司の良さを損なわない設計なのだとか。 

 

■一方で食材ロスには注意が必要 

 

 取材時で導入から4カ月、「プレゼントシステム」は想定していたよりも評判が良く、特に都市部で売れているそうだ。ただし、材料の在庫が必要で、売れ行きが悪いとロスが生じてしまうため、2月17日時点で68店舗にいったん整理し、ゲストの反響を見て拡大を検討する予定とのこと。クリスマスは需要が高かったので、ひなまつりなど、季節行事に合わせての展開も考えている。 

 

 

 
 

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