( 267636 ) 2025/02/19 17:01:54 0 00 開業からまだ時間が経っていないのに、早くも「ガラガラ」との声が出ている渋谷のサクラステージ。その中でも「スタバ」は人気で、"穴場化"しているようです(筆者撮影)
再開発が進む東京。「ハラカド」など、今までになかったコンセプトの商業施設が話題になる一方で、出遅れてしまったり、魅力が伝わりきっていない印象のビルも存在する。例えば、「Shibuya Sakura Stage」はその1つかもしれない……。 新著『ニセコ化するニッポン』を上梓した、都市ジャーナリストの谷頭和希氏が解説する。
昨年渋谷に全面開業したShibuya Sakura Stage(以後、サクラステージ)の記事を書いた。
開業して間もない施設だが「ガラガラ」という報道も目立っており、その理由を渋谷再開発全体の流れから考察したものだ。
関連記事:渋谷サクラステージ“閑散”に見る「再開発の現実」 渋谷の再開発はもう失敗してしまった…のか?
この記事には大きな反響があった。同記事ではサクラステージの施設に絞った考察を行ったが、そのときの反応として見られたのが「渋谷駅」との関係からこの施設の使いにくさを語るもの。たしかに、利用者からすれば駅から行きやすいかそうでないか、はとても重要な要素だろう。
そこで今回は「渋谷駅」との関係でサクラステージについて考えてみたい。
■渋谷駅から桜丘には行きづらい?
前回の記事では渋谷駅からサクラステージへの動線については触れていなかったが、やはり記事への反応を見ていると、渋谷の中における桜丘地区の行きづらさがサクラステージへの客足を遠のかせているのではないか、という反応が多くあった。
【画像20枚】人が少ない、店も入ってない…ガラガラ報道が出る「渋谷・サクラステージ」はこんな感じ
実際、駅との関係で見るとサクラステージが不利な点は、桜丘と駅との関係、そして渋谷駅自体の問題の2つから指摘できる。
1つ目は、駅からサクラステージへの動線が悪い(と思われている)ということだ。
以前より桜丘地区は国道246号線、そして鉄道駅からのアクセスが悪く渋谷の中で孤立した地区のように思われていた(がゆえに、ひっそりとしたいいエリアでもある)。「渋谷の片田舎」なんて言われ方もしていて、今でもそのイメージが強いのか「サクラステージは行きにくい」という話もある。
しかし実は、昨年の7月21日にJR渋谷駅新南改札が誕生。それまでの改札を移設する形で誕生したが、こことサクラステージは直結していて、駅を降りたらすぐに施設に行くことができる。
だが、まだこの改札自体が新しく、その認知度は低いのかもしれない。
加えて地下鉄の駅からだとやはりいまだに桜丘地区は遠い。それぞれの建物をつなぐ歩行デッキは作られているものの、ルートを熟知していないとスムーズに行くことはできない。
このような渋谷駅からの行きやすさ(のイメージ)がその人出に影響しているのだろう。
■再開発をしてもまだ「迷宮」な渋谷駅
また、そもそも渋谷駅自体がいまだに「迷宮」と言われている。
特に2013年の東急東横線の副都心線直通運転に伴う東横線ホームの地下化は、多くの不満が噴出した。実生活に影響を及ぼしただけでなく、コンテンツの中でも様々な語られ方をしている。
例えば、『カルテット』『花束みたいな恋をした』などで知られる脚本家・坂元裕二の著書『往復書簡 初恋と不倫』の中では、「東急東横線が副都心線との乗り入れを開始し、それ以来渋谷駅はもうひどい有様になりました」「あなたのご親族に東急東横線渋谷駅の移設に携わった人がいらしたら心苦しいのですが、あの駅は馬鹿が作りました」「乗客に遠回りを強い、迷わせ、前二分で乗り換えできた場所に、今十五分かかる」などと、登場人物によって強い不満が述べられている。(同書籍内収録「カラシニコフ不倫海峡」より)
渋谷駅の再開発はこの東急東横線の地下化より始まったといわれている。この再開発は、さまざまな鉄道路線がバラバラに開発され、駅自体が「迷宮」といわれた渋谷駅の動線を整理し、安全性と回遊性を高めるためのものであった。
こうした改良工事により、かつてに比べれば駅の中の動線は改善傾向にあるものの、それでも複数路線が立体的に交わる渋谷駅そのものに対して苦手意識を持つ人はまだまだ多いはずだ。
これに加えて再開発に伴う工事がいまだに行われ続けており、この間まで使えていた道が封鎖されている……ということも日常茶飯事だ。最近でも、埼京線ホームの移設やハチ公改札の移転などなど、さまざまな改良工事が行われている。安全性を保つには重要なわけだが、結果的に、渋谷駅のわかりにくさに拍車をかけているのは間違いないだろう。
なお、上記の坂元の書籍では、セリフは「ヒカリエはわたしの中で光っていません。わたしの中でカゲリエです」と続くのだが、本書の発売は『花束みたいな〜』公開より前の、2017年のこと。そこから10年近く経過したわけだが、今もなお「ヨコからタテ」へと変化(進化? )する渋谷駅に対し、「カゲッている」と感じる人が増えるのも仕方ないだろう(もちろん、東急が悪いというわけでもない)。
そんな「迷宮」を移動するわけだ。効率よく移動して桜丘地区まで、となればそのハードルは高いだろう。
■サクラステージのスタバは穴場?
このように渋谷駅との関係性においてもサクラステージはどことなく 「行きにくさ」がある。これは、サクラステージの中にあるスタバを見るとよくわかる。
この前私が書いた記事には「サクラステージのスタバは空いてて穴場」といった反応があった。
確かにサクラステージの中にはスターバックスがあり、実際に現地を訪れてみると、中の混み具合は8割程度……といったところ。スクランブル交差点周辺や渋谷スクランブルスクエアのスタバなどがどこも行列であることに比べれば確かに「穴場」である。
かねて私は「渋谷のカフェ混みすぎ問題」について言及しており、特に渋谷にスタバは20軒弱もあるにもかかわらず、平日・休日を問わず長蛇の列ができている。みんな渋谷にスタバを買いにきているのかと思うほどだ。
私はこの原因について、現在の東京ではカフェ以外で「何もしなくていい滞留できる空間」が減ってきているからではないか、と考えている。
特に渋谷駅周辺で進む再開発でインバウンド観光客が増えたり、少し値段が高めの店が増えたりして、ある程度安い価格で街でだらだらといることができなくなってしまった。
ベンチのような、ガードレールのようなものはあるが、ここに座っているのはインバウンド客ばかり。日本人が座るには、少しハードルが高い。
そんなわけで特に渋谷ではどこのカフェも激混みなのだが、そんな渋谷にあってさえサクラステージのスタバは「そこそこ」の混みぐあいなのである。
これは逆に桜丘地区がいまだに渋谷の中で特殊な区域であることを表しているかもしれない。
■桜丘の独特な歴史の1ページにサクラステージはどんな役割を果たすのか
一方、こうした「動線の悪さ」自体が桜丘の魅力を作ってきたのもまた事実である。
桜丘地区はもともと明治維新のときに、薩摩軍の隊長の一人がこの地に桜を植えて住宅地としたことがはじまりで、1980年代ごろよりマンションが増え、それに伴い個人経営の小さなレストランなどが集まるようになった。
また専門学校も多く集まってきたり、イケベ楽器店をはじめとして音楽関係の店なども集積する。
渋谷という立地ながらどこか静謐な雰囲気で穴場的な場所だったのが特徴で、再開発以前から大人たちが隠れ家的に使っていた場所でもある。今でもサクラステージから少し歩けばこうした趣深いエリアが残っており、当時の面影を今に伝えている。
■まだまだ変化の途中、これからのサクラステージに期待!
街の雰囲気は一朝一夕に出来上がるものではなく、さまざまな影響を受けながら徐々に作られていくものである。
そんな街区をいきなり建物や動線の力で変化させていく、というのも難しい話なのかもしれない。
東急を批判したいというわけではなく、さまざまな街づくり、再開発案件を手がけてきた東急であってさえ、攻略するのに難易度の高い土地が桜丘だった……といえるかもしれない。
とはいえ、サクラステージは全面開業して日が浅い。また、テナントもまだ十分には入っていない。
これからさまざまな店が軒を連ね、さまざまな人がここを訪れて歴史を紡いでいくことで、サクラステージも含めた桜丘の新しいイメージが生み出されていくのかもしれない。
【もっと読む】銀座に爆誕「余白だらけのビル」一体何が凄いのか 近年の再開発のあり方にデカい一石を投じている では、銀座に誕生したソニービルの凄さについて、都市ジャーナリストの谷頭和希氏が詳しく解説している。
■その他の写真はこちら
谷頭 和希 :都市ジャーナリスト・チェーンストア研究家
|
![]() |