( 267801 ) 2025/02/20 04:50:13 0 00 「小池精米店」には米袋がうずたかく積まれ、店員が出荷作業に追われていた=19日午前、東京都渋谷区(寺河内美奈撮影)
南海トラフ地震臨時情報の発表を受けてコメが品薄となった昨年夏以降も販売価格の高騰はおさまらず、政府の備蓄米が3月中旬にも放出される見通しとなった。背景に投機的な動きも見え隠れする「令和の米騒動」。物価高が家計にのしかかるなか、庶民の食卓を一段と苦しめているが、放出によって事態が収束するかどうかは不透明だ。
■「足りない」悲鳴上げる精米店
19日午前、東京都渋谷区の「小池精米店」では、店員が白米を計量して袋詰めする作業に追われていた。「米価の高騰以上に、コメ自体が足りないことに困っている」。店主の小池理雄(ただお)さん(53)はこう話す。
取り扱うのは、新潟県の魚沼産コシヒカリ。家庭用が5キロあたり4750円。昨年と比べて2割ほど高いという。飲食店などに卸す業務用も3割ほど値上がりしている。
現在流通しているのは令和6年産のコメだ。生産量は前年よりも約18万トン多くなる見込みだったが、6年12月末時点の全国農業協同組合連合会(JA全農)などの集荷量は約215万トンで、前年同時期に比べて約21万トン減った。
凶作でもないのに、21万トンものコメが〝消えた〟のは、一部の農家や業者がコメをため込み、高値での売り時を探っているためだと推測される。
■3月下旬~4月上旬に店頭に
値上がりを抑制するため、政府は21万トンの備蓄米を放出し、価格を安定させる考えだ。備蓄米は、10年に1度の不作や大規模災害に備えて政府が買い入れて保管しているコメ。100万トンを目安に備蓄されており、今回はその一部が、3月中旬にJAなどを通じて小売業者にわたり、3月下旬から4月上旬に店頭に並ぶ見通しだ。「備蓄米」とは表記されず、販売される。
しかし、対策が奏功するかどうかは未知数だ。
「備蓄米放出によって価格は一時的に下がるだろう」。静岡大グリーン科学技術研究所の富田因則(もとのり)教授はこう語る一方、「高い需要がありながら、特に強く気候の影響を受けるコシヒカリが日本の米の3割を占めている以上、今後も安心はできない」と指摘した。
新潟県でコメづくりに従事する男性(34)によると、昨年はゲリラ豪雨と猛暑の影響で、新潟県産のコシヒカリは例年より収量が少なく、3割ほど減った農家もあったという。男性は備蓄米放出の効果を慎重にみており、「値段はそこまで下がらないのではないか」と語る。
昨年夏にコメが品薄となって値上がりした際、備蓄米放出を求める声も出たが、政府は秋に新米が出回れば価格は安定すると見込み、放出に踏み切ることはなかった。
男性は「昨年の時点でコメ不足になっていた。備蓄米を放出するタイミングが遅かったのではないか」と苦言を呈した。
■値上がりの裏に投機の動き
農林水産省がまとめた全国のスーパーで販売されているコメの平均価格は、2月9日までの1週間で5キロあたり3829円となり、1年前と比べて9割近くも高騰している。投機の対象となっているという指摘もあり、日本人の主食はマネーゲームの波に翻弄されている感さえある。
「投機の対象だと一部で言われているが、こういったことは健全ではない」。江藤拓農林水産相は14日の記者会見でこう語り、米価の高騰に対する不安をあらわにした。
販売価格は、前年の猛暑の影響で一部産地で不作となったことなどが影響し、値上がりしつつも昨年8月までは2000円台半ばにとどまっていた。
ところが、9月になると一気に3000円台に高騰。8月の南海トラフ地震臨時情報が発表されたことで、消費者に買いだめの動きが広がったことなどが一因とみられる。
新米が出回った後も価格高騰はおさまらなかった。「『たくさん買うから安くして』という中国の人など外国人客も多かった」と話すのは、東京都北区の精米販売店「篠原ライス」の篠原秀久代表(47)。客足の増加を感じていたが、「(今月14日に)備蓄米放出が発表されてからは落ち着いた」という。(宮崎秀太、堀川玲、大渡美咲)
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