( 267999 )  2025/02/20 16:57:54  
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コストコは、値上げを通じて低価格で商品やサービスを提供するためのコストを確保し、価値と品質を高めていく考えを示している。

同様に、サブスク型ビジネスも値上げが相次ぎ、ユーザーからは賛否両論の声が上がっている。

サブスク型ビジネスは継続的な収益を得るために、値上げや新たな取り組みが必要とされており、顧客との接点を最大限に活用することが求められている。

(要約)

( 268001 )  2025/02/20 16:57:54  
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年会費を値上げしたコストコ(出展:コストコの公式Facebook) 

 

 コストコが5月1日より年会費を値上げすると発表し、大きな話題を呼んでいる。個人向けのゴールドスター会員は440円値上げされ5280円に、購入金額の2%を還元するエグゼクティブ会員は660円上がり1万560円となる。同社は「年会費を改定することで、これまでのように低価格で商品やサービスを提供するためのコストを確保し、今後も価値と品質を高めていく」と説明している。 

 

 一方、米国をはじめとするグローバル企業が提供するサブスクリプション(以下、サブスク)型ビジネスでも、同様の値上げが続いている。Netflixは2024年に最大月額310円、Amazonプライムは2023年に年会費を1000円値上げしており、ユーザーからは「サービスが充実するならば致し方ない」「給料が上がらないなかでの負担増は厳しい」と賛否両論の声が上がっている。 

 

 本稿では、このサブスク型ビジネスにおいて、なぜ値上げが行われ、どのようなリスクが想定されるのか、そして値上げによる顧客離れを最小限に抑えるためには何が必要かを、ビジネスの収益機会となる5つの接点を基に考察してみたい。 

 

 サブスクと聞くと、「定額で映画や音楽が見放題」「一定の年会費を払えば対象店舗で買い放題」といったイメージがある。加えて、継続的に会員費を得る仕組みゆえ、単価こそ低く見えても、大量の会員を長期間囲い込めば大きな収益が見込めるビジネスモデルである。 

 

 ただし、近年はインフレやコンテンツ制作コストの高騰、人件費や物流費の上昇などを背景に、従来のサブスク料金だけでは採算が合わなくなるケースが増えている。Netflixであればオリジナル作品の制作費が、Amazonプライムであれば動画配信やプライム・リーディング、当日・翌日配送など多岐にわたるサービス強化に伴う投資コストがかさんでいる。コストコも例外ではなく、巨大倉庫型店舗を多数運営し、豊富なアイテムをリーズナブルかつ大容量で提供するには相応のコストが必要となるのだ。 

 

 そのため「値上げすることでサービスの質を維持、向上させる」ことが不可欠という結論に至ったのだ。これは多くのサブスク企業が直面するジレンマであり、実際、NetflixやAmazonプライムといった強力なプラットフォーム企業ですら値上げに踏み切ったのは、コストアップを吸収しきれない事情が背景にあると推察される。 

 

 

 価格が上がると、当然ながら一定数のユーザーや会員が離脱するリスクが高まる。しかし、サブスク型ビジネスの重要なポイントは「継続課金を基軸としながらも、それだけに依存しているわけではない」という点である。 

 

 ビジネスにおける利益を生み出す顧客との主な接点は、以下の五つに整理できる。 

 

1.ライフステージ需要 

 

 進学、就職、結婚、出産などのライフイベントに加え、ホームパーティーを開く、旅行に行くといった「ちょっとしたきっかけ」で新たに購入・契約する需要のことである。コストコであれば、大人数が集まるパーティー用の食材の大容量購入や、引っ越し時の生活用品大量買いといった場面で利用されやすい。 

 

2.クロスセリング 

 

 ある商品を購入・契約する際に、関連商品やオプションを合わせて提案し、追加で購入させることである。Amazonプライム・ビデオなら「無料コンテンツで囲い込んだうえで、同じ監督の有料レンタル作品も見る」という流れが該当する。 

 

3.アップセリング 

 

 より上位のプランや高価格帯の商品に買い替え、買い増しを促すことである。例えばコストコの場合、ゴールドスター会員がエグゼクティブ会員になるパターンや、Netflixで広告なしプランからプレミアムプランへの切り替えなどが挙げられる。 

 

4.アフターマーケティング 

 

 購入後のサポートや消耗品の追加販売などにより、顧客から長期的に収益を得る取り組みである。サブスクでは、月額・年額の継続課金がまさにこれにあたる。コストコも会員になった人が定期的に店舗に足を運び、日用品や食品をまとめ買いすることで安定収益を確保している。 

 

5.紹介利益 

 

 既存顧客から新規顧客を紹介してもらい、利用者をさらに広げる方法である。コストコの「お友達を連れて買い物に行く」「体験してもらい、その場で入会してもらう」システムや、Amazonプライムのクチコミ拡散などはこの典型例である。 

 

 サブスクの場合、多くはアフターマーケティングで継続的な収益を得るが、それだけでは急激なコストアップを吸収できなくなることがある。このタイミングでアフターマーケティング以外の要素を強化することで、値上げによる離反を補う戦略が必要になるのだ。 

 

 

 では、具体的にどのようにして値上げに対するユーザーの不満を抑え、解約を防ぎながら収益を上げていくべきか。以下に主なポイントを示す。 

 

1.値上げの正当性を明確に伝える 

 

 「人件費や物流費、コンテンツ制作費が高騰しており、サービスの質を維持するためにはやむを得ない」という事情を、分かりやすく腹落ちさせる必要がある。たとえば「年会費を上げないと、これまでのような低価格商品や迅速な配送が続けられなくなる」「今後の品質アップのための投資コストである」といった情報開示が有効である。 

 

2.新サービスや特典を拡充し、“見返り”を提示する 

 

 値上げのタイミングで顧客に「今後こんな新機能や新コンテンツが追加される」「これだけのリターンがある」と示すことで、不満を和らげることができる。コストコなら新規店舗や新商品の拡充、Netflixならオリジナルコンテンツの大幅強化、Amazonプライムならプライム・リーディングやプライム・ビデオなどの新規ラインアップ追加が挙げられる。 

 

3.差別化された独自の価値をアピールする 

 

 「ここでしか得られない体験」「他社にはない利便性」を打ち出すことで、値上げを許容してもらうこともできる。コストコは圧倒的な大容量・低価格のほか、倉庫型店舗という「テーマパーク的体験」も強みだ。NetflixやAmazonプライムはオリジナル作品の魅力を訴求することで、代替困難なサービスである点を強調している。 

 

4.柔軟な価格プランを提供する 

 

 離脱リスクがある顧客のために、ライトユーザー向けプランや広告付きプランなどの選択肢を用意する事例が増えている。Netflixが広告付きの安価なプランを展開し始めたのはその一例だ。コストコもゴールドスター会員とエグゼクティブ会員の比較をあらためて周知し、利用頻度や購入金額に応じてプランを選べるよう促すのが効果的だ。 

 

5.紹介キャンペーンやロイヤル顧客優遇策でリピート意欲を高める 

 

 値上げに納得して継続するほどロイヤルティーが高い顧客は、他の見込み客に対してもポジティブな口コミを発する傾向が強い。そのため、既存顧客の満足度を高める施策、あるいは既存顧客を通じての紹介インセンティブを強化し、離脱を最小限に抑えながら新規顧客を獲得する好循環を生み出すこともできるだろう。 

 

 

 サブスクは一見すると「毎月(または毎年)の定額課金を得るだけで収益を確保する」ビジネスに映るが、実際は多様な接点で収益を積み上げ、継続的に顧客を満足させる複合モデルである。値上げを行っても、クロスセリングやアップセリングの機会を創出し、「トータルでは得をしている」「ほかのサービスや店舗より総合的にメリットが大きい」と思ってもらえれば、離脱を最小限にとどめられる。 

 

 コストコの例においては、年会費が上昇しても「大容量商品の割安さ」「仲間とシェアする楽しみ」など、既存ユーザーに深く根付いた“お得感”や“楽しさ”の価値は大きい。NetflixやAmazonプライムも、広告付きプランや独自コンテンツという差別化によって「少々値段が上がっても、やはり使い続ける価値がある」と思わせる要素を強化している。 

 

 サブスクビジネスにおける最大の課題は、継続的な投資コストとユーザー数・満足度とのバランスをどう保つかである。企業側は値上げ分を単純な収益増として捉えるのではなく、その分を新たな価値創造や顧客ロイヤルティー向上へ再投資しなければならない。顧客に「値上げしたけれど、さらに良いサービスを享受できる」と感じさせることができれば、サブスクの魅力は今後も失われることはないだろう。 

 

 今後、物価上昇が続き、あらゆるサービスの値段が上がる場面が増えていくと予想される。そんな状況だからこそ、サブスク企業は安易な値上げに踏み切るのではなく、値上げを「顧客との関係をより強固にする契機」と捉え、五つの収益接点を最大限に活用していくことが求められる。コストコの年会費改定は、その象徴的な事例といえるのではないだろうか。 

 

有限会社金森マーケティング事務所 マーケティングコンサルタント・講師 

 

金沢工業大学KIT虎ノ門大学院、グロービス経営大学院大学の客員准教授を歴任。 

 

2005年より青山学院大学経済学部非常勤講師。 

 

ITmedia ビジネスオンライン 

 

 

 
 

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