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トヨタ「メガウェブ」跡地にある「シティーサーキット東京ベイ」で、BYDが事業方針発表会を行った。

BYDは昨年、世界で約427万台の販売を記録し、国内外での販売台数が急成長している。

BYDは日本でも着実に市場を拡大しており、電気バスの導入やPHEVの展開などで注目を集めている。

BYDのアプローチはテスラとは異なり、地道な取り組みやモビリティ視点で新しい暮らしを提案する姿勢が特徴的である。

(要約)

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トヨタ「メガウェブ」の跡地である「シティーサーキット東京ベイ」で事業方針発表会を行った(筆者撮影) 

 

 いまや中国を代表する自動車メーカーといってもいいBYDは昨年、グローバルで約427万台を販売した。 

 

 前年からの伸び率は41%と驚異的で、ホンダや日産を抜いた。多くを自国内で販売するが、輸出も約42万台と1割近い。輸出国のひとつである我が国での昨年の販売台数は2223台で、こちらは58%アップだった。 

 

 日本自動車輸入組合(JAIA)が発表した年間登録台数ランキングでは、外国メーカーでシトロエンの次、アバルトの前となる14位につけている。 

 

【写真】4月に発売予定の新型クロスオーバーにEVバスも! BYDの「今」を見る 

 

■実は創業30年、日本進出20年 

 

 そのBYDが、1月下旬に事業方針発表会を行った。場所はトヨタ自動車のショールーム「メガウェブ」の跡地にできたシティーサーキット東京ベイ。会場前には、日本に導入される車種が並び、テント内は500名を超える報道陣が集まっていて、注目度の高さがうかがえた。 

 

 説明会に立ったBYD側のメンバーも、日本法人であるビーワイディージャパン代表取締役社長の劉学亮(りゅう・がくりょう)氏、乗用車部門を担当するBYD Auto Japanの代表取締役社長を務める東福寺厚樹氏、商用車部門の責任者といえるビーワイディージャパン執行役員副社長の石井澄人氏と、3トップが顔を揃えていた。 

 

 このうち石井氏は、かつてゼネラルモーターズ・ジャパンの代表取締役社長を務め、最近ビーワイディージャパンに加わった人物であり、昔からクルマを取材してきた人たちにとっては驚きの人選でもあった。 

 

 最初に登壇した劉氏は、冒頭で書いた実績に続いて、今年はBYDが創業して30周年であり、日本に進出して20周年という節目の年であることを紹介した。 

 

 「そんなに昔から進出していた?」と思う人がいても不思議ではない。同社は2次電池メーカーとして30年前に創業しており、日本でも携帯電話などに電池を供給するために上陸していたからだ。 

 

 

 続いてBYDは2010年に、群馬県館林市にあるTMC(TATEBAYASHI MOULDING)を金型製作工場として傘下に収め、同社で作った金型を乗用車で使うことにした。 

 

 そして2015年に、まずバスの輸入を始める。その理由について劉氏は、「EVは公共交通から」と語った。 

 

■バスがEVになるメリット 

 

 EVというと、今でも航続距離の短さや充電時間の長さ、充電スポットの少なさが課題に挙がる。 

 

 しかし、仕事で決められたルートを走るトラックやバスでは、さほど気にならない。日本に輸入されているのは路線バスなので、なおさらだ。 

 

 むしろ、路線バスは低速・短距離の走行であるため、低回転で大トルクを出す電気モーターのほうがエンジンよりも効率がいいし、沿道の住民への騒音や排出ガスの影響を抑えられる点も大きい。 

 

 そして事業者にとっては、騒音や排出ガスを含めて、環境対策につながる点も忘れてはいけない。 

 

 日本でも、地球温暖化がさまざまな気候変動を及ぼしているが、乗用車を走らせる個人の自由を奪うわけにはいかない。そうなれば、企業がその責務を担っていくのは当然の流れだ。 

 

 日本の発電のおよそ7割は火力発電だから、「EVを走らせてもカーボンニュートラルにはならない」と主張する人もいるが、そんな人でも、多くの火力発電所が立地する風通しの良い海沿いでCO2を出すことと、住宅地で出すことの影響の差ぐらいは理解できるはずだ。 

 

 「EVは公共交通から」という言葉は、こうした状況を考えると、説得力のあるものに感じられる。 

 

 バスについては、日本市場への適応も早かった。BYDが最初に導入したのは、日本では大型路線バスとなる全長12mの「K9」だったが、劉氏は導入後まもなく訪れた福島県で、12mでは大きすぎるうえに、ステップのある古い車体を使い続けていたことを目にした。 

 

 「高齢化社会にとって優しいとはいえない」と感じた同氏は、日本の地方に合った専用車種の開発を本社に打診し、実現した。これが車名にジャパンの頭文字を掲げた「J6」で、2021年に導入されている。 

 

 J6が加わったこともあり、BYDの電気バスは順調に台数を伸ばした。石井氏によれば、現在は北海道から沖縄県まで日本各地で走っており、台数は350台に達しているという。この数字は、日本の電気バスの7割強にのぼる。 

 

 

 すると、当然ながら現場などで乗用車についての質問が寄せられることになる。 

 

■「日本社会に何ができるか」を考えて 

 

 バスの台数が増えるにつれて、劉氏は「日本のクルマ社会に何ができるか」ではなく、「日本社会に何ができるか」と考えるようになり、乗用車も扱うことを決めた。それが、今回の説明会につながっているというわけだ。 

 

 今回の事業方針説明会では、少し前に発表されたクロスオーバースタイルのEV「シーライオン7」と、J6に続く日本専用電気バス「J7」をお披露目しただけでなく、プラグインハイブリッド車(PHEV)と電気トラックを導入すると発表。とりわけPHEVは話題になった。 

 

 ただし、世界的にEVの販売が停滞しているからと、PHEVを出したわけではない。BYDは2008年、世界で初めてPHEVを生産したブランドでもあるからだ。 

 

 東福寺氏は、2024年のグローバルでの販売台数でも58.5%と、PHEVが過半数を占めていることを紹介した。 

 

 このPHEVについても、「現場の声がきっかけだった」と劉氏は紹介した。ユーザーをはじめ、学校や企業などと対話を重ねる中で、「EVは航続距離や充電スポットが心配だ」という声が出た。その声に「いち早く応えたい」と思った結果だという。 

 

 BYDでは、今後も年に1車種の割合でニューモデルを発表し、乗用車については2027年頃までに7〜8車種を用意できるようにしたいと東福寺氏は語った。 

 

 車種が増えればネットワークを拡充する必要もあるが、こちらについては現時点ですでに59店舗がオープンしており、2025年中に100を目指すとのことだ。 

 

■テスラとはまったく異なるアプローチで 

 

 BYDのライバルとして、テスラを挙げる人は多い。どちらもEVを得意とする新しいブランドだからだろう。 

 

 しかし、ここまでの経緯を読んでもらえれば、テスラとは対照的なアプローチであり、むしろ日本のブランドに近い地道な取り組みをしていることがわかる。 

 

 くわえてPHEVの導入については、日本のブランドよりもフットワークの軽さを感じる。だからこそ、乗用車に参入してわずか3年で、ここまでの注目を集めるブランドに成長しているのだろう。 

 

 それ以上に印象的だったのは、「電動車を売るのではなく、電動車を使った新しい暮らしを届ける」という劉氏のメッセージだ。 

 

 

 電池からスタートし、バスで地位を築いてきた会社らしいし、クルマ視点ではなくモビリティ視点であることが伝わってくる。 

 

 かつてのいすゞや日野のように、今の日本で乗用車と路線バス車両の両方を開発生産するメーカーはない。 

 

 しかも、バスは長い歴史を持つモビリティサービスであるうえに、ここまで書いてきたように電動化のメリットも大きい。バスとの合同説明会としたことは、乗用車の電動化に説得力を持たせることができたと感じた。 

 

【写真】BYDの新型EV「シーライオン7」や新型EVバス「J7」の姿 

 

森口 将之 :モビリティジャーナリスト 

 

 

 
 

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