( 268454 )  2025/02/21 17:27:03  
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BYDが中国市場の乗用車販売で首位に立ち、フォルクスワーゲンを抜いた。

これまでブランド力で1位だったフォルクスワーゲンにとってBYDの競争力は高い。

中国市場で初めての販売首位を獲得したBYDの成功要因は、中国政府の新エネルギー車促進政策により、バッテリーメーカーであるBYDが有利な立場にあり、BEVとPHEVの両方を展開している点が大きい。

BYDは2025年にPHEVを日本市場に導入する予定であり、これが成功するか注目されている。

(要約)

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中国市場における乗用車販売で、BYDが首位となった(Photo:humphery/Shutterstock.com) 

 

 日本経済新聞の報道によると、2024年の中国市場における乗用車販売でBYDが初の首位に立った。前年比46%増の約365万台を販売しフォルクスワーゲン(国有企業との合弁)の約298万台を抜いたという。これまでブランド力などを武器に乗用車販売で1位であったフォルクスワーゲンだが、それ以上に中国市場においてBYDの競争力は高いようだ。勝敗のポイントを見ていきたい。 

 

 もともと中国市場ではどのような競争が繰り広げられてきたのでしょうか。近年は、世界中の自動車メーカーが中国に進出していますが、その先陣となっていたのがフォルクスワーゲンだったのです。 

 

 フォルクスワーゲンが中国に進出したのは1984年。地元中国の国営企業である上海汽車とジョイントベンチャー契約を結び、翌1985年から、中国でフォルクスワーゲン車の生産を開始しました。 

 

 まだまだ自動車を開発する技術が育っていない1980年代の中国に、世界最先端を走るドイツの自動車メーカーが進出し、現地生産を始めたのですから、地場のメーカーが敵うわけもありません。 

 

 また、当時の中国にはライバルとなる欧米や日本メーカーは存在しませんでした。そうなれば、街行くクルマはフォルクスワーゲンだらけとなります。ブランド力は絶大です。また、中国人は口コミを大切にするというのも、先行者であるフォルクスワーゲンには有利に働きました。 

 

 まさに先行者利益を得ていたのが中国のフォルクスワーゲンだったのです。その牙城をBYDが切り崩したのですから、話題にもなるというわけです。 

 

 それでは、なぜBYDが首位に躍り出ることができたのでしょうか。その理由はいくつか考えることができます。 

 

 その中でも大きな理由は、中国政府による新エネルギー車推しという政策です。「新エネルギー車」というのは、電気自動車(BEV)やプラグインハイブリッド(PHEV)、燃料電池車(FCV)を指します。 

 

 これらの新エネルギー車に対して中国政府は、補助金の支給を筆頭に、ナンバープレートの優先交付や、充電インフラの拡充などの優遇措置を実施しています。充電インフラは、集合住宅などにも一定数の設置を義務付けるなど、非常に徹底したものとなっています。 

 

 そうした国策を背景に、中国市場において新エネルギー車の販売が大きく伸びました。テスラが近年、大きく成長できたのも、そうした中国市場の国策が関係しています。つまり、今の中国市場は“新エネルギー車であること”が自動車メーカーの成長のカギとなるのです。 

 

 そうした中で、バッテリーメーカーでもあるBYDは非常に有利な立場となります。一般的に、BEVやPHEVは、バッテリーの値段の高さにより、車両価格が押し上げられてしまい、それが弱点となる傾向があります。ところが、BYDはバッテリーメーカーですから、どこの自動車メーカーよりも安価に、かつ自由にバッテリーを手に入れることができるのです。 

 

 現在の中国のEV市場は、熾烈な値引き合戦の真っ最中。だからこそ、コスト勝負に有利なBYDが大きく販売台数を伸ばすことができたと考えられます。 

 

 また、BYDは、BEVとPHEVだけで、コンパクトカーからSUV、セダン、ミニバンまで幅広く、数多くの車種を用意します。その充実度は、エンジン車を主力としてきたブランドとは、比べものにならないほどです。 

 

 価格面で言えば、フォルクスワーゲンのSUVであるID4が現地価格で15万元~(日本円で300万円程度と非常に安い)なのに対して、BYDのATTO3(中国名:元PLUS)は12万元~と低価格になっています。これはBEVだけでなく、PHEVも同様です。ランナップが多くて、しかも安いのですから、売れて当然でしょう。 

 

 

 加えてBYDは、イメージとは異なり、BEV専業の企業ではありません。 

 

 PHEVも数多く販売しています。2024年の実績で言えば、販売のうち約58%がPHEVで、約42%がBEVでした。このバランスのとれた販売力は、大きな強みと言えるでしょう。 

 

 中国は充電インフラの普及が進んでいますが、長距離ドライブで継ぎ足し充電をしようとすると、やはり時間がかかってしまいます。バッテリー容量が大きいほど、充電時間が長くなります。正直、どんなにEVに慣れていようが、充電のために待つのは嫌なものでしょう。 

 

 

 そうした中、普段の近距離の移動はEVと同じのようにバッテリーを使用した走行ができ、いざという時の長距離ドライブは充電を必要としない仕組みのPHEVは非常に便利な存在であり、充電インフラが普及していても選ばれる理由となっています。だからこそ、BYDの取り扱い車種の中でも、多く売れているのがPHEVなのでしょう。 

 

 もしも、BYDがBEVの専売であれば、中国市場での首位はなかったはずです。BEVとプラグインハイブリッドPHEVの両輪だからこそ、成功したのです。 

 

 しかも、BYDは2025年末に、PHEVを日本に導入すると予告しています。コスト勝負に強いBYDですから、きっと日本にもお買い得感の高いPHEVを持ち込むことでしょう。どんなモデルになるのかに期待です。 

 

〔参考文献一覧〕 

 

・中国車市場、BYDが初の首位 官から民へ主役交代.日本経済新聞. 2025年2月11日,https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM2734M0X20C25A1000000/?fbclid=IwY2xjawIb0wVleHRuA2FlbQIxMAABHZCKaExaBuXKAeKDV3ie3W1z88ri8mk-fZpOSXDBHGveeuL8T38IAI3Lig_aem_Kv-euWswah8IINqKoUmYKw 

・上海汽車、2024年に新エネルギー車463万9000台を納入、新記録樹立.SAICモーターHP.2025年1月1日,https://www.saicmotor.com/chinese/xwzx/xwk/2025/60391.shtml 

・【中国】BYDの24年新車販売、上汽抜き国内トップ.NNA ASIA アジア経済ニュース. 2025年1月6日.https://www.nna.jp/news/2745244 

・フォルクスワーゲン、中国進出20周年 ─ サンタナからトゥーランまで 上海で20周年記念式典を開催.フォルクスワーゲンプレスリリース.2004年11月2日,https://www.volkswagen-press.jp/app/medialib/press/000282.pdf 

・ID.4Xの価格.フォルクスワーゲンのHP,https://www.svw-volkswagen.com/id4x/?fbclid=IwY2xjawIfxM9leHRuA2FlbQIxMAABHeZIiA9vsr3-CgEqKGKfy91Cx6Rn3ozN9XLW9BOJR6M3fmUyxmGWUfVy5A_aem_KCqcMuxmN_TiuZ9-sTR2xg 

 

・ATTO3の価格.BYDのHP,https://www.byd.com/cn?fbclid=IwY2xjawIfxUZleHRuA2FlbQIxMAABHe2OFZzAyRFaV_-UGdpbD1ingXqhbOdOsg7438MOIcYPVI8LjNnJK0-YHg_aem_fCTq9VH8wIYjIMknMxSTpg 

 

執筆:モータージャーナリスト 鈴木 健一 (鈴木ケンイチ) 

 

 

 
 

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