( 268506 ) 2025/02/21 18:12:08 0 00 プロ野球選手会が新庄監督のソフトバンクへ移籍した上沢に関する発言にクレームがつけた(写真・黒田史夫)
プロ野球選手会がポスティングによるメジャー挑戦後にソフトバンクに移籍した上沢直之(31)に関する日ハムの新庄剛志監督(53)の発言が誹謗中傷につながったとのクレームをつけた。沖縄発で各紙が報道したものだが、SNSやネット上で大きな波紋を呼んでいる。新庄支持の意見が圧倒的だが、制度の見直しを求める声も広がっていて球界大御所の巨人OBでヤクルト、西武で監督を務めた広岡達朗氏(93)もその一人。ただ制度の見直しにはリスクもある。球界全体での議論が必要だろう。
選手会がいまだに燻る上沢のソフトバンク移籍問題に立ち上がった。 スポーツ各紙の報道によると、キャンプ中恒例の選手会とNPBの協議の中で、上沢が制度上何ひとつ違反を犯していないことを再度主張すると同時に、新庄監督の批判発言を示唆して、誹謗中傷につながる影響力のある人の発言の自粛を求めた。NPBが上沢擁護の姿勢を強く示さなかったことも疑問視したという。 上沢は2023年オフにポスティングにより、マイナー契約でレイズ入りしたが、開幕メジャーを勝ち取れず、レッドソックスに移籍し、5月にメジャー昇格したが、2試合に登板したのみで再びマイナー降格したため日本復帰を決断。日ハムの施設を使ってトレーニングを行っていたが、争奪戦の末、ソフトバンクと推定4年10億円とされる大型契約を結んだ。選手会の主張の通り、上沢は制度上なんら違反も犯していない。ただ1年で帰国することにより、国内でまだFA権を取得していなかった上沢が、事実上のFAでライバルチームへ移籍したことに対し日ハムファンの間から批判の声があがった。ポスティングによる譲渡金がわずか100万円程度だったことなども手伝い、上沢バッシングに火がついた。ファンの感情論だ。 そのタイミングで新庄監督が「悲しい」「育て方が違ったのかな」などと本音をぶちまけた。メジャー経験のある新庄監督は、マイナー契約でのメジャー挑戦の厳しさを身をもって知っていただけにマイナー契約ならばいくべきではないと移籍に反対していた。しかも上沢はあと1年NPBでプレーすれば国内FA権を獲得する。日ハムで1年プレーした後にFAでソフトバンクへ移籍すれば、批判もなかったのではという親心からの発言だった。SNSやネットでも「あの発言で批判の波が収まった」との指摘があったが、この発言は、誹謗中傷につながったというより、日ハムファンの意見を代弁したことで、むしろ上沢バッシングの空気は収束に向かった。 さらに新庄監督はその後の12球団の監督会議でも「ポスティングで行って1年でダメでソフトバンクに行くという、この流れはやめて欲しい」と訴えた。 日ハムでは同じくポスティングでメジャー挑戦した有原航平が2年プレーした後に帰国し、ソフトバンクへ移籍したという経緯があり、上沢の決断を批判したのではなく、現状のポスティングによるメジャー移籍がFA権取得の新しい“抜け道”となっている制度に問題提起しただけだった。 この選手会のクレームを受けてSNSやネット上で様々な意見が飛び交った。 「誹謗中傷は論外だが批判が出て当然」「新庄監督は日本ハムファンを代表して発言した。上沢個人への誹謗中傷ではなく制度の問題点を指摘している」「自由に発言できないのはおかしい」「選手会は自分たちの利益を主張しているだけ」「選手会の意見は正論だが、プロ野球はファンがあって成立していることを考えよ」 「上沢選手もルール違反していないけれど新庄監督の発言もルール違反ではない」 新庄監督の発言や行動を支持する声が圧倒的だった。 「制度を見直すべき」の意見も多くみられた。一方で「上沢選手の人生。その決断について周りがどうこういう必要はない」「選手の選択肢としてキャリアの中で最適な場所でプレーすることが重要」などの声もあった。
選手会の立場から上沢を擁護するのは理解できる。だが、新庄監督は、一連の発言で一度も制度の違反などを指摘していない。メディアに大きく取り上げられる新庄監督のコメントの影響力は無視できないが、選手会が、言論統制ともとれる要望をするのは、いかがなものか。 球界大御所の広岡氏は、上沢問題にこんな意見を口にしていた。 「たった1年で日本球界に帰ってきて、しかも、高額な条件で、いきたい球団に行けるのは、そういう制度を認めているコミッショナーに問題があるが、新庄が怒るのも理解できる」 そしてこう持論を展開させていた。 「こんなことがまかり通っていれば日本球界はダメになる。過去にメジャーでの経験をチームに持ち帰り勝利に貢献したという選手がいないわけではない。ソフトバンクの有原航平や引退したヤクルトの青木宣親、広島の黒田博樹もそうだろう。だがほとんどのメジャー帰りの選手が高額な契約にふさわしい結果を残していない。その典型が松坂大輔だ。将来的に日本に帰ってくる際にもなんらかのルールを作っておく必要があるのではないか。そして契約について言えば、出来高払いに大きくシフトした契約にするべきだ」 選手会が、NPBに持ちかけるべきは、メジャー移籍に関する制度の見直しだろう。 新庄監督は、ポスティングによるメジャー移籍後に、日本球界に復帰する際、最低1年は、元球団でプレーすることを制度化することを提案した。だが一方である球団の幹部は、その制度の見直しのリスクをこう懸念した。 「元の球団にNPBだけに関して保有権が残るようなルールを作れば、メジャーでダメでも、元の球団でプレーできることが保証されることになり、ポスティングでのメジャー移籍を要望する選手がますます増える可能性がある。そうなると有望選手のメジャー流出がさらに増えて問題となり、NPBの存在意義が問われることになる。ほぼ全球団がポスティングを容認する流れができつつある動きが、ストップする可能性もある。制度の見直しには、あらゆるケースを想定して、何が選手と球団の両方にとってベストの妥協点になるかを議論しなければならない」 これも正論。有識者を集めての議論を早急に行う必要があるだろう。 (文責・駒沢悟/スポーツライター)
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