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コメ価格高騰の原因として、消えた21万トンのコメが議論されている。

政府は備蓄米を放出することを決定し、業者に引き渡すよう進めているが、入札価格の高騰や生産調整政策の批判もある。

コメ生産者の関心や生産現場を支援する法律の必要性も指摘されている。

(要約)

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消えた21万トン…備蓄米放出で本当に解決? 

 

 多くの消費者が困惑するコメ価格の高騰。農水省は21万トンの備蓄米の放出を決めた。現在、3月半ばをめどに業者に引き渡せるよう進めており、すでに卸売業者の中には、コメの在庫をスーパーなどに売り出す動きがあったという。 

 

 そもそもなぜこんな騒動が起こったのか。背景の1つと見られているのが“消えた21万トン”。実は去年のコメの生産量は、前年と比べて約18万トン増えていた。しかし、JAなどの集荷量は前年より約21万トン減少。つまり、市場に出てきていないこの分が行方不明状態だというのだ。 

 

 17日、政府は備蓄米の放出に向け、コメの入札に参加する可能性のある集荷業者などに説明会を開催。そもそも入札は、業者が買いたい金額や量などを指定し、高値をつけたところから順番に購入できる仕組み。そのため、入札価格自体も高くなる可能性があり、ネットでは「業者が値段をつり上げたらなんも意味ないじゃん」「高いままじゃスーパーで売れ残るだけだよ」などの疑問の声も上がっている。 

 

 一方、現在コメの生産に関しては、国が需給の見通しを策定。これに基づき、JAなどが農家に生産を指示する仕組みを取っており、この生産調整とも言える政策にも「コメの生産調整政策の失敗が価格高騰の原因」「国による生産の調整は『減反政策』に他ならない」という声があがっている。 

 

 備蓄米放出で、問題は解決するのか。『ABEMA Prime』で議論した。 

 

コメ5kgの販売価格は約1.8倍に 

 

 21万トンを中間業者が売り渋っているとの政府見解について、自民党で元農水官僚の進藤金日子参議院議員は、「全国を回って農家の声をお聞きすると、通常は集荷団体に出していた生産者が、“中間団体に出す金額よりも高いお金で売ってくれ”と庭先に来るという話は聞く。2つ目に、流通不足になった時に備えておこう、価格が上がった時に出そう、という農家は正直いると思う。3つ目に、作況指数というものがあり、令和6年産は全国で101(平年並み)。ところが、籾摺りをしてみてみると、実態はそこまで取れていないのではないかという人もいる。これら複合要因の中で、21万トンが集荷団体に集まっていないのではないかと捉えている」と話す。 

 

 一方で、足りないことを認めたくないために、誰かが隠しているという“フィクション”を作ったとも指摘。21万トンは最大手コメ卸売業種の年間販売量に匹敵し、21億円の保管料がかかり、中小企業には負担も隠すこともできないこと。現在足りていないのは新米40トンを先食いしたため、との理由をあげる。 

 

「民間在庫は、令和6年の6月末で153万トン。9月になると新米が出てくるので、7、8月に150万トンあれば極端な不足はないだろうと見ていた。ところが、南海トラフ地震に関連する情報が出てスーパーからコメがなくなり、生産者の在庫はあるものの、流通に回らなかったというのが正確なところだと思う。食料法に基づいて、農水省も流通を毎月調査しているが、大規模な集荷業者や卸業者に限られる。今回の事態を踏まえて、1月末から規模の小さいところも調査しようと言っていて、全体を追いきれていないのは確かだと思う」 

 

 

コメの流通(「稼げる農家」徳本修一氏、左列中段) 

 

 Uターン就農の米農家で、「稼げる農家」としてノウハウを発信する徳本修一氏は「率直にコメ農家として、作況指数101というほどよくない。特にこの2年は本当に夏が暑くて、品質と収量含めてとれていない。関西のある産地では、作況指数が60、70ぐらいじゃないかという農家もいる。また、それらを精査する仕組み、見込みが甘かった。そして、あまりメディアで言われていないことだが、縁故米の存在。コメが高いから、親戚や都会に行っている子どもなどに送る量が例年より増えていると、農家仲間からの話で感じる」と説明。 

 

 コメの卸しは、集荷団体に出す、直接販売、縁故米の3パターンがあるとし、「集荷団体に出されるのは大体46%だが、それが集まっていない。どこかに売ったか、出す量がなかったか、農家が売っていないということだと思う」と、所感を語る。 

 

 集荷団体に出さないことのメリットが農家側にあるのか。「これだけ相場が跳ねると、中間流通や農家の一部でモラルの欠如ではないが、“そっちで”となってしまう。一方で、複数年契約で、相場を上げずに流通している農家、流通業者もたくさんいて、そのあたりが混同されている。中食や加工用、飲食、コンビニ、お弁当屋さんで価格がそんなに跳ねていないのは、まさに複数年契約で流通しているから。小売レイヤーのコントロールミスでスポットの価格がやたらと跳ね、そこに“コメが高い”とメディアが集中している形だ」と述べた。 

 

コメ農家の減少 

 

 コメの生産量増加で大量の在庫が発生したため、1969年に「減反政策」が開始された。その後50年経ち、生産者自らが需要に見合った生産を行える環境を整えるとして、2018年に廃止された。 

 

 徳本氏は「昨今メディアで、“長年の減反政策が悪かった”“輸出しろ”と、農水省を叩く識者がごろごろいるが、そんな単純なものではない。そもそも50年、コメはずっと余っていて、ここ何年かは地を這うような相場で同業者がバタバタ潰れていった。減反して、需要があるものを転作するのは理にかなっていることだ。“輸出すればよかった”というのも、そもそも一昔前はコメの生産コストが高すぎたし、日本の短粒種は海外ではまだまだニッチ。価格競争力がないものを輸出しても勝てない。減反政策はある種機能したもので、頭ごなしに否定するのは建設的な議論ではない」との考えを述べる。 

 

 水田を利用して飼料用米や麦、大豆などを生産した場合、交付金が支払われる(飼料用米10アール=100平方メートル当たり8万円、麦・大豆などは同3.5万円)。これまでは水張りが行われなくても交付されていたが、2027年度以降は、過去5年間に一度も水張りが行われていない農地は「交付対象農地から外す」と見直される。 

 

 徳本氏は「水田の産業政策は今まさに転換期。想像以上に農家は辞めていっていて、僕らは100町歩やっているが、翌年いきなり20町歩増えたりして、急激に田んぼが流動している。今までの水田の作り方、管理の仕方だと僕らも維持ができなくなってくるので、新しい技術革新は必要だ」とした。 

 

 

コメ・野菜農家の平均所得 

 

 備蓄米は、3月初めに入札の公告、3月上旬に入札と結果発表、3月中旬に集荷業者へ引き渡しが開始される。そこから1週間ほどで集荷業者から卸業者へ渡り、さらに数日〜1週間ほどでスーパーなどに届くとみられる。 

 

 ただ、進藤氏はコメの価値をもっと高く評価すべきだと主張。「ご飯茶碗一杯あたり25円程度であったものが、現状は50円程度になっています。これをペットボトルの水価格と比べてどう感じますか?」(メールマガジンより抜粋)と投げかけている。 

 

 進藤氏は「これが高いか・安いかはそれぞれの価値観だが、一日に何杯食べるかと聞くと多くの方が2杯で、一日に100円だ。このうち農家に行くのは一部だし、流通も必要経費でいるので、農水省では合理的費用を考慮した価格の仕組みづくりの法律を出していこうとしている。買い叩きが起きないように、そしてシステムの中身の透明性も高くしながら、生産現場を支えていくということを今回の機会にやっていただきたい」と述べた。 

 

 そんな中、徳本氏はコメ農家のスクラップ&ビルドを提唱。政府は小規模農家の利益を守る政策を展開しすぎで、兼業農家を延命するのではなく成長できる農家を支援すべきだとしている。 

 

「コメ作りも経営で、利益が出ないと生きていけない。農業だけが過保護になるのはよろしくない。撤退すべき人の延命ではなく、成長すべき人に交付金を充てるべきで、そのあたりの議論を本気でやっていかないと間に合わない。僕らも中山間地域で、水路の維持など多面的な機能については、全国では維持できないだろう。これから社会保障も大変だし人口も減ってくる中で、そういう取捨選択も必要だ。僕は去年、コメの産地8カ国に2カ月間飛んだのだが、世界のコメのマーケットは増えている。グローバルで見れば需要が足りなくなってくる中で、我々の技術は充分通用する。“世界の水稲産業を日本がリードするんだ”と、どんどんドラスティックにやるべきだと思う」 

 

(『ABEMA Prime』より) 

 

ABEMA TIMES編集部 

 

 

 
 

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