( 268831 ) 2025/02/22 17:08:04 0 00 森永卓郎氏
今年1月28日、経済アナリストの森永卓郎氏が死去した。
原発不明がんと闘いながらも、亡くなる直前までメディアに出演し続け、世界経済の行方に多くの警鐘を鳴らしてきた。
「AIバブルは崩壊する…」「日経平均はこれから大暴落する…」
彼がこう語った背景には一体何があるのか。そして残された私たちは、この先行き不透明な社会をどう乗り越えていくべきなのか。激動の時代を生き抜くための戦略と覚悟とは。
森永卓郎氏と、息子の康平氏がいまの日本のさまざまな病巣についてガチンコで語り合った魂の一冊『この国でそれでも生きていく人たちへ』より一部抜粋・再編集してお届けする。
『この国でそれでも生きていく人たちへ』連載第13回
『農家の時給はなんと驚愕の「10円」!?…森永卓郎さんが問題視していた「日本の農家の貧困化」』より続く。
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世の中には「自由化してはいけない職業」がある。
医療と農業は、株式会社化して利益を追求してはダメな分野だ。どちらも人間の命に関わるものだから、企業化によって安全性より利益を優先されては困るのだ。
しかしながら、近年こうした分野の自由化がどんどん進められてきた。農業はできるだけ企業化して効率的に利益を上げよう、という方向が強かったのだ。
それは要するに「農業の軽視」であり、ひるがえって「命の軽視」につながる。
2024年夏に日本全国でコメ不足が発生したのは、まさにそうした政治のツケだったと言える。
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猛暑だったとはいえ、戦争が起きたわけでもないのに、コメが急に不足して買えなくなったのは、コメの生産と供給、流通がうまくいっていないからだ。要するに、政府の農業政策に綻びが生じていることの証左だった。
近年、日本の就農人口は激減している。農業が主な収入源という人を「基幹的農業従事者」と言うが、2023年の基幹的農業従事者数は116.4万人だった。2015年には175.7万人だったので、ここ10年近くの間に約60万人も減少しているわけだ。
一方、大都市の人口は増え続けている。東京都の人口は2024年1月時点で1410.5万人と、1960年の約1.5倍近くにまで増加している。
大都市住民が増え、就農人口が激減する中で、農業・農家とつながりを持つ人が減っているため、農家の実態を理解してくれる人が減ってしまい、「食料はカネで輸入すればいい」という資本主義的な考え方が蔓延してしまった。
だが、大災害や戦争により輸入が止まる可能性もある。そうなると日本人は飢え死にを心配しなければならない。日本の食料自給率はカロリーベースで約38パーセントにしかならないが、それすら実は見せかけに過ぎないという。
日本の場合、種も肥料も燃料も輸入に頼っているので、それも加味すると真の自給率はもっと低くなる。東京大学大学院の鈴木宣弘先生の試算では10パーセント以下だという。
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真の自給率が10パーセント以下ということは、もし有事などで食料輸入が止まれば、日本はあっという間に飢えるということだ。その際、真っ先に飢え死にするのは、東京や大阪、名古屋といった大都会の人たちだ。
食料危機になると、農家はそう簡単に食料を売ってはくれない。
私は普段、畑のサツマイモを配ったりしているが、いざ食料危機となれば、私だって自分の食料確保を最優先にするだろう。
かつて、戦中、戦後期には日本全体が食料難になったので、都会の人はみな大切な着物などをリュックに詰め、地方に出かけてコメや野菜と物々交換してもらったのだ。
今回のコメ不足騒動でも、真っ先にコメがなくなったのは、大都市のスーパーだった。外食・中食など長期契約を結んでいるところや、農家とのつながりの深い地方のスーパーにはコメがあった。
「コメなんてできるだけ買いたたけばいい」と、市場原理で仕入れていたところほど、真っ先にコメ不足になったわけだ。
ウクライナ紛争以降、世界情勢は不安定化している。戦争勃発による食料危機の発生は、決して絵空事ではない。
『森永卓郎さんが最期に指摘した日本最大の問題点「東京病」とは…「官僚と政治家の抵抗」で実現に至っていない「首都機能の移転」』へ続く。
森永 卓郎(経済アナリスト・獨協大学経済学部教授)
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