( 269154 ) 2025/02/23 17:10:15 1 00 日本維新の会と自公との間で高校授業料無償化や社会保障改革に関する合意が成立し、維新の衆議院議員38人が賛成に回ることで2025年度予算の成立がほぼ確実となった。 |
( 269156 ) 2025/02/23 17:10:15 0 00 記者団の質問に答える日本維新の会の前原誠司共同代表(中央)。自公との電撃合意は党内での前原氏の求心力を高めるかもしれない(写真:時事)
日本維新の会と国民民主党を“天秤”にかけた結果に違いない――。自民党と公明党、維新の3党は2月21日、高校授業料の無償化と社会保障改革などに関する文書に合意した。
高校授業料の無償化については、2025年4月から公立・私立を問わず一律で11万8800円を支援し、2026年4月からは私立高校生に対する支援額を現行の最大39万6000円から45万7000円をベースに所得制限なしで引き上げるとした。
また、社会保障改革についても「国民医療費の4兆円削減」や「現役世代1人当たりの社会保険料負担を年間6万円引き下げる」との文言が入った。
これで維新の衆議院議員38人が賛成に回ることになり、2025年度予算の今年度内の成立はほぼ確実となった。前原誠司共同代表が率いる日本維新の会にとって、まずは“及第点”の合意だったに違いない。
■溝が広がる国民民主党との関係
一方、国民民主党が主張する「103万円の壁」問題については、昨年12月11日に自公国3党の幹事長合意で「178万円を目指して引き上げる」としたものの、自民党は及び腰。2月18日には、年収200万円以下の場合には基礎控除(58万円)に37万円を恒久的に上乗せするとともに、年収200万円超500万円以下については2025年分と2026年分の2年間に限定して基礎控除額に10万円を上乗せするという「自民党案」を提示した。
しかし、国民民主党はこれを拒否し、公明党も難色を示した。公明党は2月21日、年収200万円以下の非課税枠を政府が提示した123万円から37万円を上乗せして160万円にするとともに、2025年分と2026年分の2年限りで年収200万円超475万円以下の控除額を153万円、年収475万円超665万円以下を133万円、年収665万円超850万円以下を128万円とする案を提示。これで納税者の8割強が減税の恩恵を受けると胸を張った。
だが、国民民主党の古川元久代表代行は「苦労された跡は見えるが、税というのは公平、中立、簡素が基本原則。これにますます離れているのではないか」と批判的だ。
国民民主党が主張してきたガソリン税の暫定税率の廃止についても、ゼロ回答だった。石破茂首相は2月21日の衆議院予算委員会で、「誠意を感じない」と憤慨する同党の長友慎治議員の質問に対し、「(ガソリン税は)道路の整備にあてがわれており、地方はそれを望んでいる」と反論した。
■各党の政策の背景にある「哲学」
政策の背景には、それぞれの政党の「哲学」が存在する。日本維新の会は教育無償化について、教育を受ける子どもの「人権」として考える。それなら親の収入は無関係となり、通う学校が私立であれ公立であれ、差をつける必要はない。
一方、こうした政策を「福祉」として捉える場合、低所得層に厚く、高所得層には薄くすべきという考えが出てくる。ゆえに、2月18日に自民党本部で開かれた文部科学部会などの合同部会で、所得制限なしの高校授業料無償化に対して異論が相次いだ。
所得税の控除問題についても、低所得層に恩恵を与える「福祉」政策として、対象とする所得層に限定を加えようとする自民・公明両党に対して、国民民主党は「経済活性化」政策として、対象所得層に限定を付さない。
その背景にあるのが「高圧経済」の理論だ。同党代表(3月3日まで役職停止)の玉木雄一郎氏が2021年5月31日のブログで、ジャネット・イエレン元FRB(アメリカ連邦準備制度理事会)議長の講演(2016年10月14日)を紹介している。
高圧経済とは、総供給を上回る総需要を作り出すことで経済を活性化し、投資や技術革新のインセンティブを高めるとともに、労働市場外に出ていた労働力を呼び戻し、それらが循環することで景気回復を実現するものだ。そのためには、まず過剰な需要を作り出す必要があり、そのために「103万円の壁」を打破し、「手取りを増やす」というわけだ。
もし国民民主党の案が採用されると7兆円ほどの税収減になるが、一方で民需拡大に動けば経済効果は大きい。しかし、これに財務省は大反対で、同省出身の宮沢洋一・自民党税調会長を使って“骨抜き”に動いた。その結果が、昨年12月の「控除額の10万円の上乗せ」と、今年2月18日に国民民主党に提示した前述の「自民党案」だった。
公明党は国民民主党とともに自民党案に反対した。しかし、2月21日に出した同党の独自案の上乗せ減税規模は6200億円程度。国民民主党の古川代表代行は同日の会見で「予備費の枠で収めようという思惑が見える」と辛辣に語っている。
これに出口が見えるかどうかは週明けの3党協議次第となるが、自公維の合意によって2025年度予算の年内成立のメドが立ったことも影響するだろう。そういう意味で、日本維新の会は自民党に大きく恩を売ったことになる。
■急転直下で自公維が合意したワケ
それにしても不思議なのは、2月21日午前には自公維の政策責任者間の合意に至らず、日本維新の会の青柳仁士政調会長は記者団に「(3党間の溝が)埋まりつつあるというほどの進捗はない」と述べたほどだったが、午後になって一転して合意したことだ。その背景には次のような事情が存在した。
1つは日本維新の会の党内事情だ。昨年10月の衆議院選挙の敗退の責任を取る形で馬場伸幸前代表が退任し、吉村洋文・大阪府知事の「1頭体制」が発足。その吉村氏の意向で、前原氏が昨年12月に国政担当の共同代表に就任した。
これによって馬場派は中枢から追いやられ、党内は中間派を含めて3つに分かれているといわれている。2月13日には馬場氏に近い浦野靖人衆議院議員が、「一部の人間だけで政策を決めている」と批判する騒動まで発展した。
こうした中で前原氏が求心力を高めるには、自民党にその主張を飲みこませるしかない。幸いにして前原氏は石破首相と「鉄道ファン」という共通点があり、従来から気脈が通じていた。
また、馬場氏に近い遠藤敬・前国対委員長に、自民党とのパイプ役を務めてもらった。前原氏は1月27日、遠藤氏と自民党の森山裕幹事長と会食しているが、この頃から自民党本部で遠藤氏の姿をよく見かけるという話が入ってきていた。
そして高校授業料の無償化については、私立高校の年間授業料の全国平均である45万7000円で合意した。日本維新の会にとって、大阪府と同額の63万円という「満額回答」を得られないまでも、十分な合格水準といえるだろう。
一方、政府・自民党にとっては、高校授業料無償化の予算額は5500億円で、「103万円の壁」突破に必要な予算額(7兆円)よりはるかに安い。しかも、医療費4兆円削減については実施時期を明記しないままで合意できた。
なぜ、維新は自民党との合意に応じたのか。日本維新の会は昨年6月、調査研究広報滞在費(旧・文書通信交通滞在費)の使途公開などの実現に向けた党首間合意を自民党に事実上反故(ほご)にされた経験がある。このときの自民党側の言い訳が「具体的な時期の記載がない」というものだった。
■「予算が通らなければ困るのは維新」
もっとも、医療費4兆円削減の内容の具体性についても、十分に詰められているとはいいがたい。にもかかわらず、合意したのはなぜか。これについて、「年度内に予算が通らなければ、困るのは維新のほうだろう」と、ある関係者は語る。
内閣官房国際博覧会推進本部事務局 経済産業省商務・サービスグループが2月4日に公表した資料によると、「大阪・関西万博の準備等に直接資する事業」として2025年度予算に計上されている費用は、「日本政府館の建設等のための費用」が6億円、「途上国等の出展支援等のための費用」が45億円、「会場内の安全確保に万全を期するための費用」が1000万円、「全国的な機運醸成等に要する費用」が34億円で、合計85億1000万円。国の予算としては大きくないが、4月13日に開会する万博にとっては遅滞なく執行されなければならないものだ。
自民党のみならず、各政党はさまざまな利害を天秤に乗せて判断するが、国民の生活が載せられた皿がいつも跳ね上がるのはなぜか。
安積 明子 :ジャーナリスト
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