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2026年以降、18歳人口が減少する中で大学進学者数も減少すると予測されている。

この人口減少社会において、日本の高等教育は新たな局面を迎えており、大学の廃止・縮小・統合などの構造的な改革が求められている。

文科省は大学の規模適正化を図るための具体策を提案しており、大学運営の根本的な変革が求められている。

『縮んで勝つ 人口減少日本の活路』の著者であるジャーナリスト・河合雅司氏が今後取り組むべき具体策を提案し、大学の"倒産"が本格化する可能性が示唆されている。

(要約)

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人口減少社会で大学の未来はどうなる(写真:イメージマート) 

 

 大学の「2026年問題」──2026年以降は大学への進学率が上昇したとしても、18歳人口の減り幅のほうが大きく、進学者数が減り続ける状況を予測した言葉だが、出生数の激減が続く中で、日本の高等教育は新たな局面を迎えている。大学の廃止・縮小・統合を含めた構造的な改革が求められているというのだ。 

 

 新書『縮んで勝つ 人口減少日本の活路』が話題のジャーナリスト・河合雅司氏が、今後取り組むべき具体策を提案する【前後編の後編。前編を読む】 

 

 * * * 

 従来の“18歳人口減少対策”の行き詰まりを意味する「2026年問題」を間近に控え、文科省は政策の舵を大きく切り始めた。統廃合や縮小などで規模の適正化を図る「大学じまい」に道筋をつけようというのだ。文部科学大臣の諮問機関「中央教育審議会」(中教審)が2月21日、答申をまとめた。 

 

 その前段として、文科省は大学の未来図を可視化すべく、昨年11月に大学入学者数の新たな推計を公表した。 

 

 文科省はこれまで国立社会保障・人口問題研究所(社人研)の中位推計をベースに予測を立ててきたが、近年の出生数下落スピードは速く、中位推計を大きく下回っている。このため、社人研の「出生低位・死亡低位推計」を用いて計算をやり直したのである。 

 

 文科省による大学入学者数の将来推計は、18歳人口を2035年が96.4万人、2045年に69.7万人、2050年に67.8万人としている。さらに、2021年の実績値で54.9%を示した大学進学率が2030~2045年は58~59%台で推移し、2050年には60.19%にまで上昇すると仮定。2023年度の入学定員に対する定員充足率を計算した。 

 

 結果は、外国人留学生が現状のままならば、大学入学者数は2035年に59.0万人(2023年度の定員に対す定員充足率93.4%)、2040年に46.0万人(72.8%)、2045年は43.7万人(69.2%)へと減っていく。2050年には42.8万人(67.7%)となり、募集人員が現状のままならば3割以上が埋まらなくなる。 

 

 外国人留学生比率が「2033年に5%」という政府目標を達成したとしても、2035年の入学者数は60.8万人(96.2%)、2040年には48.5万人(76.8%)、2045年はさらに下がって46.2万人(73.2%)、 2050年は45.3万人(71.7%)だ。状況が大きく改善するわけではない。 

 

 

 文科省の将来推計は、2040年について都道府県別の分析も試みているが、若者が多く、人気大学が集まっている東京都も定員充足率が79.1%にまで落ち込み、状況の厳しさという意味ではさして変わりない。大阪府は75.3%、京都府が72.1%といずれも8割を下回る。地方圏においては5割台となる県がいくつも登場する。 

 

 東京都の詳細に見てみると、国立大学の定員充足率は81.8%、公立大学が80.1%、私立大学が78.9%と、2割近く埋まらなくなる見込みだ。前編記事で、国公立大学の定員割れを「時間の問題」と先述したが、こうした見立てを裏付けるに十分な推計値となっている。 

 

 文科省の新たな将来推計は、2つの限界点を突き付けている。1つは、進学率が頭打ちとなるという見通しである。もう1つは、留学生数が伸びる以上に日本人の18歳人口が減るという点だ。 

 

 これまで各大学は、進学率の向上と留学生の受け入れ拡大によって18歳人口の減少によるマーケットの縮小を少しでも凌ごうとしてきたが、「こうした手法はもう通用しない」と言っているのに等しい。 

 

 国公立を含むすべての大学が、経営モデルの根本的な変革と、それができないところは市場から退場を求められる段階に入ってきたことを認識する必要があるだろう。 

 

「大学じまい」の具体策については、中教審の特別部会が検討を進めてきた。2月21日にまとめられた答申は及び腰の部分も残ってはいるが、規模の縮小に踏み込んだ内容となった。 

 

 すでに厳しい経営環境にある私立大学について再編・統合、縮小、撤退の支援といった規模適正化の推進をうたうことはもとより、国公立大学についても鋭く迫っている。 

 

 国立大学に対しては「連携、再編・統合等による基盤強化」に言及。公立大学に関しては定員規模の見直しだけでなく、地方自治体などに私立大学の安易な公立化を回避するようくぎを刺したのだ。 

 

 全体としては質を高めて規模縮小したり、学内資源を学部から大学院へシフトしたりするよう促している。これ以上の乱立を防ぐために大学設置認可の要件を厳格化する方針も示している。 

 

 文科省が「大学じまい」に大きく舵を切ったことは時代の趨勢だが、そのタイミングはあまりに遅すぎた。18歳人口が減ることが分かっていた中で大学数や学部数の増加を許してきたことが、これで帳消しになるわけではない。 

 

 

 もし30年前に「大学じまい」に取りかかっていれば、状況はまったく違っていただろうが、これまでの政策の影響もあって大学関係者たちの意識には拡大路線が染みついてしまっている。 

 

 統合と言われても、そう簡単に提携先が見つかるわけではないだろう。提携先はどこでもよいわけでもない。似た課題を抱えた大学同士が一緒になっても問題は解決しない。 

 

 地方自治体に至っては、いまだに大学を「地方創生」の重要なツールと位置付けている。文科省がいまさら旗を振ったところで、どこまで実効性があるかは不透明だ。あまりに時間が足りない。 

 

 結論を述べるならば、「2026年問題」はこれまで先延ばしにされてきた大学の“倒産”をいよいよ本格化させるであろう。 

 

 事態がここに至っては、もう無理な延命策を講じるべきではない。これからすべきは、生き残る大学を「人口減少社会にとって真に必要な大学」へと生まれ変わらせる“質の改革”である。 

 

■前編記事:【大学2026年問題】定員充足率が初めて100%を下回り「大学全入時代」に新たな局面 「激減する18歳人口の奪い合い」の行き着く先 

 

【プロフィール】 

河合雅司(かわい・まさし)/1963年、名古屋市生まれの作家・ジャーナリスト。人口減少対策総合研究所理事長、高知大学客員教授、大正大学客員教授、産経新聞社客員論説委員のほか、厚生労働省や人事院など政府の有識者会議委員も務める。中央大学卒業。ベストセラー『未来の年表』シリーズ(講談社現代新書)など著書多数。話題の新書『縮んで勝つ 人口減少日本の活路』(小学館新書)では、「今後100年で日本人人口が8割減少する」という“不都合な現実”を指摘した上で、人口減少を前提とした社会への作り替えを提言している。 

 

 

 
 

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