( 269314 )  2025/02/24 04:44:53  
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地方の鉄道網が縮小する中、ネット上では「赤字路線は廃止すべき」という意見が多いが、この意見は現実とは異なり、「正論」を述べたいだけのものが多い。

赤字だから廃止が唯一の解決策ならば議論の余地はないが、実際には議論が必要だ。

移行方式や第三セクター化、観光資源化など多様な解決策がある。

赤字ローカル線を廃止すると、地域の社会や経済に深刻な影響が及ぶ可能性もある。

議論は多様性を確保し、「正論」だけでなく地域の未来を考慮すべきだ。

(要約)

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ローカル線(画像:写真AC) 

 

 地方の鉄道網が縮小を続ける中、ネット上では「赤字路線は廃止すべき」という意見が多く見られる。「鉄道会社は営利企業なのだから、採算が取れなければ撤退は当然」「存続を求めるなら利用者が増えなければ話にならない」といった主張は、一見もっともらしい。しかし、こうした意見は社会の現実を踏まえたものというより、「「正論」を言ってスッキリしたい」という欲求から生まれていることが多い。 

 

 もし「赤字だから廃止」が唯一の正解なら、誰も悩む必要はない。自治体も鉄道会社も利用者も、感情を交えず経営数値だけを見て判断すれば済む話だ。しかし、現実にはそう簡単に割り切れないからこそ、各地で議論が続いている。 

 

 「正論」を語ること自体は否定しない。ただ、それが現実を動かす力を持つかどうかは別の話だ。「赤字だから廃止」と口にする人は多いが、その先にどのような影響があるのか、実際にどうすればいいのかまで考えず、思考を止めてしまっている。ローカル線の問題を語るなら、経営の収支だけでなく、地域社会全体の仕組みを見据えた議論が求められる。 

 

 ネット上の議論では、「赤字なら廃止」「存続を求めるなら乗れ」といった単純な二元論に陥りがちだ。しかし、実際の鉄道政策には、より多様な選択肢がある。 

 

 例えば、「上下分離方式」への移行が挙げられる。この方式では、鉄道インフラを自治体や公的機関が保有し、運行のみを民間企業が担う。欧州では一般的な手法であり、インフラ維持の負担を公共と民間で分担することで、鉄道会社の収支悪化を防ぐ効果がある。 

 

「第三セクター化」も選択肢のひとつだ。国鉄分割民営化時に多く採用された方式だが、自治体と民間の役割分担をより柔軟にすることで、新たな活用方法を模索できる。 

 

 また、「観光資源化」によって鉄道の価値を高める方法もある。通勤・通学需要だけでは維持が難しい場合でも、鉄道自体を観光資源として活用することで、新たな収益源を生み出せる。多くのローカル線は風光明媚なルートを持っており、その魅力を発信することで観光需要を喚起できる。 

 

 さらに、「地域の交通ネットワークの再構築」も重要だ。ただ鉄道を廃止するのではなく、バスやオンデマンド交通と組み合わせることで、より合理的な移動手段を整備できる。 

 

 これらの方法にはそれぞれ課題があるものの、「赤字なら廃止」という単純な思考停止に陥るより、はるかに現実的な議論といえる。 

 

 

ローカル線(画像:写真AC) 

 

「赤字だから廃止」と主張する人の多くは、その言葉がもたらす影響を深く考えていない。 

 

 例えば、ある地域で鉄道路線が廃止されたとしよう。その影響は、単に鉄道がなくなることにとどまらない。公共交通がなくなれば、住民は車に頼らざるを得なくなる。しかし、高齢化が進む地域では、すべての人が車を運転できるわけではない。移動手段が限られることで、買い物や通院が困難になり、生活の質が低下する。 

 

 鉄道がなくなれば、通学や通勤の利便性が損なわれる。結果として、若者は交通の便が良い都市部へ移住し、地域の人口減少がさらに加速する。 

 

 鉄道は単なる交通手段ではなく、地域経済の基盤でもある。物流や観光、地域企業の人材確保など、さまざまな分野に影響を及ぼす。鉄道がなくなれば、地域の衰退はさらに進む可能性が高い。 

 

 こうした事実を理解した上で「それでも赤字だから廃止すべき」と主張するなら、ひとつの立場として尊重できる。しかし、ただ「正論」を唱えるだけで議論を終わらせるのは、あまりにも思考が浅い。 

 

 ルポライターの昼間たかし氏が当媒体で「「赤字だから仕方ない」 そんな“ローカル線廃止論者”に、私が1ミリも同意できないワケ」(2025年1月5日配信)という記事でマックス・ウェーバーに触れていたが、筆者も改めて、「正論」すなわち剥き出しの合理性の危険性について書くことにする。 

 

 問題の本質は、鉄道の存廃を単なる収支計算や効率性の尺度だけで判断する思考の枠組みにある。このような思考は、近代社会学の創始者のひとりであるドイツのマックス・ウェーバー(1864~1920年)が指摘した「鉄の檻(Iron cage)」の概念と深く関係している。 

 

 ウェーバーは、近代社会が合理性を極限まで追求することで、人々が機械的なシステムのなかに閉じ込められ、社会の柔軟性や創造性が損なわれる危険性があることを指摘した。ローカル線の議論も、まさにこの「鉄の檻」のなかで展開されている。 

 

「鉄の檻」理論に照らせば、これは極めて危険な状況である。合理性の追求が社会の決定プロセスを支配すると、本来あるべき柔軟な議論が阻害され、システムそのものが硬直化してしまう。例えば、 

 

「コストカットを徹底すれば企業は成長する」 

 

という考え方が極端に進むと、従業員の幸福や企業文化の維持といった非数値的な価値が切り捨てられてしまう。同じように、「鉄道は採算が取れなければ廃止すべき」という論理が支配的になると、地域社会の持続可能性や公共交通の意義といった重要な視点が見落とされることになる。 

 

 

近代社会学の創始者であるマックス・ウェーバー 

 

 赤字ローカル線の問題は、単なる収支計算にとどまらない。鉄道の存続は、その地域の住民がどんな未来を望むかという選択の問題でもある。 

 

 ウェーバーが指摘したように、合理性が支配する社会では、人々は機械の歯車のようになり、既存のシステムのなかで決められた選択肢しか持たなくなる。 

 

 例えば、ローカル線が廃止されると、住民の移動手段は自家用車やバスに限定される。しかし、高齢化が進む地域では、車の運転が困難な人々が増えており、代替交通が十分に整備されないまま鉄道が廃止されると、移動の自由が制限され、地域の衰退が加速する。 

 

 このように、「合理性」という名のもとに強制される選択は、必ずしも最適なものではない。むしろ、合理性を追求するあまり、未来の可能性を狭めてしまう危険性がある。鉄道を存続させることが常に最適解であるとは限らないが、少なくともその選択肢を議論する余地を残すことが社会にとって重要だ。 

 

 赤字ローカル線問題を考える上で大切なのは、単なる経済的合理性だけでなく、地域社会の未来をどう描くかという視点だ。しかし、ネット上での議論は「正論」を振りかざし、「論破」することに快感を感じる人々によって支配されやすい。 

 

 彼らにとって重要なのは、問題を解決することではなく、議論に勝つことだ。その結果、「存続か廃止か」という二項対立に陥り、より多様な選択肢が見えにくくなってしまう。 

 

 ウェーバーの「鉄の檻」理論を踏まえれば、私たちがすべきことは「正論」を提示することではなく、 

 

「議論の多様性を確保すること」 

 

だ。鉄道の存廃を考える際には、短期的な収支だけでなく、地域の持続可能性や社会的コスト、さらには長期的な公共投資の視点も加えて議論を進めるべきだ。そして何より、ネット上で目立つ意見だけを「民意」として受け入れるのではなく、実際に地域で生活する人々の声を拾い上げることが必要だ。 

 

「正論」だけで問題が解決するなら、誰も苦労しない。合理性を追求するあまり、人々の選択を縛り、新たな可能性を閉ざしてしまうことを、私たちは改めて認識すべきだ。 

 

 

ローカル線(画像:写真AC) 

 

 ローカル線の存廃問題を議論する際には、「赤字だから廃止」といった短絡的な結論を避け、「どのように維持できるか」「維持が難しい場合、代替交通をどう整備するか」といった視点を持つべきだ。 

 

 現実の社会では、あらゆる課題が単純な「正論」では解決しない。むしろ、経済的な論理だけでなく、地域の事情や社会的な背景を考慮しながら最適なバランスを模索していくことが求められる。 

 

「正論」を語るだけなら簡単だ。しかし、それが現実を動かすための議論につながらない限り、単なる自己満足に過ぎない。 

 

 社会に出て働き、人生の機微に触れた経験がある人なら、それがどれほど空虚なものか、すでに理解しているはずだ。赤字ローカル線問題が「正論」だけで解決するなら誰も苦労しない。「正論」だけをいって高揚感を得ていいのは、まだ社会に出ていない子どもと学生だけだ。それでも剥き出しの合理性のみを主張し続けるなら、あなたの存在は、いずれAIによって置き換えられることになるだろう。 

 

 なお、「Yahoo! JAPAN サービス媒体資料」(2024年7月9日更新)によれば、ヤフーニュースのユーザー属性(性年代別)は以下のとおりである。 

 

【スマートフォン】 

●男性(47%) 

・10代:2% 

・20代:13% 

・30代:13% 

・40代:19% 

・50代:19% 

・60代以上:33% 

 

●女性(53%) 

・10代:2% 

・20代:9% 

・30代:14% 

・40代:19% 

・50代:20% 

・60代以上:36% 

 

【パソコン】 

●男性(67%) 

・10代:3% 

・20代:7% 

・30代:16% 

・40代:20% 

・50代:22% 

・60代以上:32% 

 

●女性(33%) 

・10代:7% 

・20代:7% 

・30代:14% 

・40代:22% 

・50代:23% 

・60代以上:28% 

 

出島造(フリーライター) 

 

 

 
 

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