( 269951 ) 2025/02/25 17:51:28 0 00 (c) Adobe Stock
「103万円の壁」の引き上げを掲げ昨年の衆院選で大勝した国民民主党だが、次の重点政策として、氷河期世代向けの支援策を打ち出した。厚生労働省が発表する「大学等卒業者の就職状況」によると、2024年の内定率は98%だ。初任給を上げる企業が続出しており、時事通信の「初任給引き上げ、30万円台続々 人材獲得競争が激化 大手企業」と言う記事によると、「東京海上日動火災保険が来年4月、転勤と転居を伴う場合の大卒で最大約41に増やす」という。
ちなみに氷河期世代、2003年の内定率は55.1%だった。他の世代と比べて雇用機会に恵まれなかった彼らは、非正規や低賃金での労働を余儀なくされた。自身も氷河期世代当事者であり、人気ネット論客のポンデベッキオ氏は「日本社会や政治に対する氷河期世代の怒りは大きい」と話すーー。
2024年、あの男がアメリカに帰ってきた。4年前の大統領選挙で敗れたドナルド・トランプがアメリカの大統領の座に返り咲いたのである。
止まらないインフレ、増え続ける不法移民、どんどん息苦しさを増すポリティカル・コレクトネス、失われた「古き良きアメリカ」......。
それらに疑問を抱く多くの国民たちが、偉大なアメリカを再び取り戻すために、もう一度トランプにアメリカを託したのである。
とりわけ熱狂的にトランプ大統領を支持しているのが、発展するアメリカから取り残された人々、ラストベルトを代表とした製造業が衰退した地域に住む貧しい白人たちだ。
街の中核産業であった製造業を国外に奪われたせいで稼げる仕事がほとんどなく、街には薬物が蔓延し中毒者たちが次々と命を落とす。本来であれば労働者の党であった民主党が彼らを救ってくれるはずであったが、彼らは今やテック企業や金融業界への投資に熱心で、古くから党を支持してきた白人労働者たちの困窮を無視し続けてきた。
そんな現状に絶望していた白人労働者たちが、一票の力で『街に雇用を取り戻す!』と約束するトランプを大統領へ押し上げたのである。
そんなアメリカの困窮する白人中年たちと重なる存在が日本にもある。それが氷河期世代だ。
氷河期世代はラストベルトの白人たちと同様に、経済や社会のパラダイムシフトによって苦しめられてきた人々だ。
日本という国は、戦後から高度経済成長期にかけてほとんど落ち目になることなく成長し続けていた。その恩恵を最も受けてきたのが団塊の世代だ。団塊の世代は常に数の力で政治的イニシアティブを握り、社会をコントロールしてきた。
氷河期世代が20代の頃は団塊の世代の雇用を守るために就職氷河期に晒され、働きだせば「お前の代わりはいくらでもいる」と脅されブラック労働を強要された。就職氷河期とブラック労働によって多くのロスジェネたちが脱落し、先に待っていたのは抜け出せないフリーター、派遣社員という非正規雇用の沼であった。なんとか正社員の椅子を確保した氷河期世代は高齢者となった団塊の世代を支えるために、給与から多くの社会保障費を天引きされ続けている。平成の失われた30年の間、氷河期世代は常に悲鳴を上げてきたが、政治も社会もどこまでも彼らに冷淡であった。
平成後期から令和にかけてようやく、アベノミクスによる久方ぶりの好景気、コンプライアンス意識の向上による労働環境の改善、少子化による人手不足を背景とした給与の上昇という好循環が生まれた。しかし、これらはすべて氷河期世代が通り過ぎた後に起きたことであり、彼らはその恩恵を受けることができなかった。氷河期世代は政治だけではなく、社会の変革からも取り残されてしまった世代なのだ。
若いうちは「まだ若いからなんとかなるよ」と言われ、アラフィフになったら「もう手遅れだから」と言われ、氷河期世代は政治や社会から徹底的に無視され続けてきた。
この植え付けられた「学習性無力感」こそが、氷河期世代、特に困窮層が政治から距離を置く最大の理由となっていると筆者はみている。長すぎた10年間の就職氷河期と、その後の失われた30年は、氷河期世代から政治に参加して社会を変えることへの熱を完全に奪ってしまったのである。
しかし、そんな氷河期世代にも、大きな変化の機会が訪れようとしている。それが団塊の世代の退場と急激に進む少子化、そして氷河期世代へ目を向ける政党の出現だ。
氷河期世代はおよそ2000万人。少子高齢化で出生数がいよいよ70万人を割り込んだ日本において、氷河期世代は団塊の世代に代わる新たな最大の人口集団となりつつある。その数はラストベルトの白人たちと同じく、政治を動かせるほどの規模だ。
氷河期世代には、分厚い壁によって分断された3つの階層がある、と言えよう。大企業で出世を果たしたエリートやIT革命の波に乗って成功した起業家たちからなる「勝ち組層」。中小企業で地道に働き、なんとかそれなりの生活を築き上げた「なんとかなった層」。そしてフリーターや派遣社員として非正規雇用を続けてきた「どうにもならなかった層」だ。
特に政治への不信感が強いのが、「どうにもならなかった層」だ。この層に多いのが、年収200~300万円代の非正規雇用を続けてきた人々であり、結婚すら叶わなかった人も少なくないだろう。
氷河期世代の頃は年間の出生数が150万人~200万人程度で、2024年の出生数68万人程度と比較して約2倍~3倍もいた。そこから考えると、1700万人近くいる氷河期世代の困窮層は、今後生まれてくる子供たちの何倍もいる一大政治勢力なのだ。
団塊の世代が去り、少子化による若者の人口減によって、困窮する氷河期世代が自分たちの力で政治を動かせる時代がついにやってきたのである。
これまで氷河期世代は、政治に見捨てられ続けてきた。しかし皮肉なことに、少子高齢化という日本の新たな構造的な問題が、彼らに新たな可能性をもたらそうとしている。政治は今、氷河期世代の声に耳を傾けざるを得なくなっているのだ。
昨年行われた衆院選では、与党の自民党が過半数割れの大敗を喫した。それとは対照的に躍進したのが、103万円の壁の打破をスローガンに社会保険料の増加などによって苦しむ現役世代の救済を掲げた国民民主党だ。
高齢者である団塊の世代が徐々に減り出した今、ゆとり世代とZ世代、そして氷河期世代の現役世代の一票が政治を変えることができるタームが始まっていることが、先の選挙で証明されたのである。
国民民主党の玉木代表は、「氷河期世代を救う」と明言し、今夏の参院選での目玉政策の一部になることを表明した。政治家たちもこれからの日本で氷河期世代の一票を無視できないことを肌で感じているからこその発言であることは間違いないだろう。
日本の繁栄と共に生きた団塊の世代も、これからの日本を支えるゆとり世代、Z世代、α世代も、そして社会から疎外され続けてきた氷河期世代も、民主主義のもとに公平な一票を持っている。
25年前、日本社会は氷河期世代の背中にナイフを突き刺した。そのナイフはまだ半分も抜けていない。自らが持つ一票でナイフを抜くことができるのかは、氷河期世代自身にかかっている。
ポンデベッキオ
|
![]() |