( 270014 )  2025/02/26 03:17:01  
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政府がコメの備蓄米を放出し、コメ農家が赤字に苦しむ中、会社勤めで補填していた兼業農家の一人、岩見正道さんの体験が詳しく語られた。

岩見さんはコメ作りを趣味として続けており、給与を赤字補填に充てていたが、現在のコメ価格では生産者には厳しい状況が続いていることを指摘。

政府の備蓄米放出には、「コメが足りない」という言葉が必要であるとし、JAや米問屋の存在が利益を得る一方で生産者は苦しいと感じている。

結果的に日本のコメ需給バランスが崩れつつあり、農業政策の見直しが求められている。

岩見さんは最悪、自分たちが食べられる分のコメだけ作れればと述べ、日本の農業に対する考えを示している。

(要約)

( 270016 )  2025/02/26 03:17:01  
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息子に「コメ農家を継げ」とは言えないコメ農家 

 

コメの「異常高値」を是正するために政府が決めた備蓄米の放出。しかし、そもそも従来のコメの価格では肥料等の経費の値上がりとも釣り合わず、小規模生産者にとってはコメ作りは続けるほどに赤字が増える底なし沼だ。政府の無策のツケを一身に背負わされたコメ農家の悲痛な叫びは止まらない。今回は会社勤めの給与を注ぎ込んでようやく成立していた兼業コメ農家のひとり、茨城県筑西市のコメ農家・岩見正道さん(75)が自身の経験を詳細に語ってくれた。  

 

「もともと親父は専業農家で俺は会社員やってたんだけど、20年以上前に親父が亡くなったときに農業を継いだんだ。だからしばらくは兼業で、定年退職するまではいわゆるサラリーマン農家ってやつだった。 

 

50年前の親父の時代は、専業のコメ農家でも食っていけたんだが、今はとてもじゃないが食べてはいけない。俺のところは700俵(42トン)収穫できるから、個人レベルでは規模は大きい方だけど、兼業時代からずっと年間マイナス200万円くらいだったよ。 

 

だから、サラリーマンで稼いだ給料を米作りにかかる費用に充てていたんよ。コメ作りで出た赤字分をサラリーマンの給与所得と損益通算すれば還付金が戻ってくるから、兼業ならなんとかやっていけるレベルだ」 

 

年間200万円もの赤字を給与で補填してまで米作を続けたモチベーションは何だったのか。 

 

「はっきり言っちまえばただの道楽だ。趣味がゴルフの人が金かけてゴルフやるのと一緒。俺の場合は、体を動かして健康維持にもなってるし、これで金を儲けようなんて思ってない。 

 

コメ作りが楽しくてやっているわけでもなくて、まあ、俺ら世代だと代々の先祖から受け継いだって思いもあって、そういうのは大切にしなきゃいけないって考えがまだあってさ……。だから体が動かなくなるまではやろうって思ってるよ。 

 

ただな、ここまで利益を出せないってなってくると、サラリーマンやってる息子に『コメ農家を継げ』とは間違っても言えないな。だから俺の代で終わりかと思ってる」 

 

 

岩見さんは作ったコメをJAには出さず、米問屋と取引をしている。 

 

「去年の『コメ騒動』以降は問屋から30キロ2万円くらいの金額で買ってもらったけど、それまで何十年もだいたいその半額くらいの値段で推移してたからな。 

 

若い子がコメ農家専業で普通のサラリーマンくらいの生活をしたいとなると、(買い取り価格が)30キロ2万円でも厳しいよ。田んぼの規模にもよるから一概には言えないけど、個人でやるなら30キロ5万円くらいになったとしたら年収500万円くらいの生活ができるんじゃないかな。 

 

JAや米問屋は買い取った金額にプラスするだけだから儲かるんだよ。彼らが自分でコメを作らないのは儲からないのを知っているからさ。これまで名だたる大手企業が米作に参入してこなかったのは儲からないってわかってたからだ。 

 

米の買い取り価格が安かったわけだから、規模が大きくなったところでたいした利益は出ないんだよ。それにコメ農家が年々減少しているから、少ないパイから利益を出すために農機具メーカーはどんどん値段を吊り上げていく。 

 

コメの世界においては生産者だけが儲からないって感じだな。まあ農業全般そうなんだろうけどな」 

 

政府の決めた備蓄米放出についてはどんな思いを抱いているのか。 

 

「投機目的、買占めと、いろいろな要素があるのはあるんだろうけど、そんなのは微々たるもんだろう。政府も『もうコメが足りません』って言っちゃえばいいのにね。ただただ生産量が減ってコメがないってだけの話だと俺は思ってる。 

 

もちろん消費者がパニックを起こすから国もそんなこと言えないだけで、本当はそういうことなんだと思うよ。コメの年間生産量が700万トンって言ったって過去から見れば半分近くと大幅に減っているわけだ。そのうえでコメの需要は上がっている」 

 

訪日外客数、いわゆるインバウンドが昨年約3680万人と前年比4割増で過去最高を記録した日本では、コメの需給バランスも急激に崩れたようだ。 

 

「外国人観光客が殺到して来てみんながコメを食いたがる。それに高品質の日本米は人気があるから海外への輸出も増えている。そういった需要が増えている中、コメ農家は年々減少しているわけだからそりゃ足りなくなるよ。 

 

それにこれからコメ農家を増やそうにも、サラリーマン並みの年収を得るのが大変なのはさっき言った通りだから。 

 

国の補助金を活用することもできるけど、例えばトラクターを買うために補助金を受けようとすると、条件として飼料用米や蕎麦などを作ったりしなきゃいけなくなる。コメだけじゃなくて何品目も作らなきゃいけなくなるんだよ」 

 

コメだけでも赤字なのに、他の作物にまで手を広げたら赤字が拡大するだけだ。 

 

「そうなると補助金もらってもマイナスだな。だったら大規模にと思うかもしれないけど、そうなれば設備代や人件費が発生する。やっぱりそこに米価が追いつけないって話になっちゃうんだよ。 

 

今後もコメの値段が上がり続けるかどうかはわからないけど、少なくとも備蓄米の放出で落ち着くことはないと思うよ。本当はJAとか米問屋とか間に入れず、農家と消費者が直接やり取りするのが一番いいと思うんだけどさ。 

 

このままコメ農家が減っていけば、将来的には金持ちは直接農家に依頼して日本のコメを作ってもらって、それが出来ない人は輸入米を食べるなんてことにもなりかねないと思う。それはもうコメだけの話ではなくて、農業や漁業など第一次産業全般に共通することだと思うけどさ。 

 

俺はもうコメでお金を儲けようなんて思ってないし、最悪、自分たちが食べられる分のコメだけ作れればいいんじゃないかと思うしな。 

 

20年近くコメの値段は安いままだったわけだし、そういう風に思うコメ農家も多いんじゃないかって思うよ」 

 

岩見さんのように、会社勤めの給料を補填してようやく成立する兼業農家ひとりひとりの努力がこの国の米作を支えてきたが、それも限界ではないか。日本の農業政策を考え直す時が来ている。 

 

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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班 

 

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