( 270259 )  2025/02/26 16:29:41  
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韓国人の英会話力が日本人よりも上だという見解が広がっている。

1997年に韓国では小学校3年生から英語が必修科目になったり、TOEIC Speaking & Writing(S&W)というテストが普及したことが理由とされている。

日本ではTOEIC L&Rに偏っており、スピーキング力を伸ばす努力が不足していると指摘されている。

特に韓国の大手企業サムスンが、TOEIC L&Rのスコア提出を必須から外し、スピーキングテストを導入するなど、英会話力の向上に取り組んでいる点が注目されている。

(要約)

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写真はイメージです Photo:PIXTA 

 

 「韓国人のほうが日本人より英会話力がある」――こんな見解が、半ば常識になっているようだ。格差が付いてしまったのはなぜか。実は韓国は極めて冷静に、理にかなった方法で、国と企業が率先して英会話力を伸ばしたのだ。韓国の財閥系大手企業サムスンが思い切って行った、人材育成の施策にもヒントがある。(パタプライングリッシュ教材開発者 松尾光治) 

 

● 韓国人と日本人、英語力に差が付いたワケ 

 

 「なぜ韓国人は日本人よりも英語が話せるんだ?」「韓国の若い世代は英語にとても慣れているよね」 

 

 ニューヨーク在住の筆者の周りでは最近、日本と韓国の両方を旅してきたアメリカ人が増えているのだが、よくそんな質問をされる。「韓国人のほうが英語を話せる」というのは、両国を知っている外国人にとっては常識になっているようだ。 

 

 20年前までは「勤勉で勉強熱心なのに英語の話せない国民」の双璧を成していた韓国と日本。いつの間にか大きく水をあけられてしまった。なぜ、こんなことになってしまったのか。残念で仕方がない。 

 

 韓国は1997年に小学校3年生から英語を必修化した。このスパルタ早期教育のおかげだろうか?それとも、国土が狭いからビジネスのグローバル化を日本より先に進めざるを得なかったから?日本人に比べると自己主張が強く、英語においても発音や文法の間違いを恐れないから? 

 

 答えは、どれもイエスだろう。ただし、これらとは異なる「あっけないほど単純な理由」もある。極めて冷静に、理にかなった方法で、国と企業が率先して英会話力を伸ばしたのだ。 

 

 この方法は、日本でもすぐにまねできる。別に国や企業任せにしなくたって、個人でも可能だ。 

 

● TOEIC Speaking & Writingの早期導入と浸透 

 

 韓国人の英会話力が爆上がりした理由は、日本で「TOEIC」を指すTOEIC Listening & Reading(L&R)だけでなく、TOEIC Speaking & Writing(S&W)が浸透しているからだ。 

 

 日本と同様、韓国も学歴が重視される社会だ。その競争の熾烈さは日本の比でない。就職や大学受験で重要視される英語関連テストでは、高スコアを獲得するために努力を惜しまない。そして、英語競争は就職後も続く。中堅社員であっても英語力を上げ続けなければ出世に響く。 

 

 日本と並ぶTOEIC大国の韓国だが、TOEIC L&Rでは実践的なアウトプット力が身に付かないことにも早くから気づいていた。そこで、TOEIC S&Wを普及させたのだ。 

 

 公表数字でも、韓国と日本の差は明らか。TOEIC S&Wが韓国に導入されたのが2007年で、即座に採用した企業は150社以上、12年には1300社以上の企業に広がっている。それに比べて日本は、15年時点で採用企業がようやく250社、学校が130校となっている。 

 

 韓国でのTOEIC S&W受験者数は約30万人(15年)に対して、日本での受験者数は2万6300人と一桁違う。韓国の人口が日本の約半分であることを考えると、普及度のギャップは歴然としている。 

 

 日本におけるTOEIC S&W受験者数は、TOEIC L&R受験者数の50分の1に過ぎない(22年)。韓国がアウトプットスキルも重視することに舵を切ったのと対照的に、日本ではTOEIC L&Rに極端に偏っていて、インプット中心の歪んだ英語テスト志向が、今日まで続いているのである。 

 

 

● TOEIC L&Rのスコアを提出不要としたサムスン 

 

 そもそも韓国では、就職時に求められる英語テストのスコアが日本よりも圧倒的に高い。「TOEIC adds to stress for young job seekers」(TOEICは若い求職者のストレスを増大させる、2014年3月26日付The Korea Herald)という記事では、「(TOEIC L&Rが)900点以下だと、他に突出した点がなければ有利とは言えない。安全圏に入るには950点取らないと」といった声が紹介されている。 

 

 実際、サムスンではTOEIC730点が応募の最低基準だったが、応募者の平均レベルは900点超えだったという。さらに、サムスンは2010年にTOEIC L&Rスコアの提出義務をあっさり廃止してしまい、TOEIC Speakingテスト、またはOPIc(Oral Proficiency Interview:全米外国語教育協会による世界標準の会話能力テスト)の成績のみ、提出を義務づけた。 

 

 ビジネスで必要とされる英会話力があるならば、TOEIC L&Rで測るような知識レベルも高いはず、と踏んだのだろう。 

 

● テストを目標にしてスピーキングを伸ばす 

 

 筆者からすると、テスト向けの勉強でスピーキング力を伸ばそうというのは、英語学習の理想的な形ではない。とはいえ、英語を学ぶこと自体が大好きな人でない限り、テストのような分かりやすい目標がないと学習のモチベーションが上がらない。目標がないまま漫然とオンライン英会話や英会話アプリでスピーキングの練習をしていても、仕事で使える英語は身に付かない。 

 

 TOEIC S&Wのようなビジネスパーソンを対象としたスピーキングテストのスコア向上を目指して努力し、実際に話す力も伸ばすという韓国の図式は、日本でもまねできる。 

 

 良くできたスピーキングテストは、徐々にアウトプットの負荷を高める出題設定になっている。また、リスニングやリーディングのテストとは違って、唯一の正解がない問題への対策が重要だ。トレーニングを積むと、自分の言葉で話す力が自然に底上げされる。これを利用しない手はない。 

 

 

● TOEIC L&Rで培った資産を活用しよう 

 

 「そうはいっても、TOEIC L&R対策だけで忙しいのにそんな余裕はないよ…」という人も多いだろう。一つの目安だが、TOEIC L&Rが800点を超えるあたりまではひたすらL&Rに集中することをお勧めする。800点以下、つまり語彙力(単語と表現)、文法・構文力が不足しているレベルでは、アウトプットをしようにも手持ちの素材が貧弱だ。 

 

 他方で、S&W練習をすることは L&Rのスコアにも好影響がある。外国語の習得はインプットとアウトプットが絡み合い、らせん状に成長していくことで本当の実力が身に付く。TOEIC L&Rのスコアを伸ばしても、アウトプット練習をしないと、学んだ知識が記憶から薄れていくだけだ。これでは費やした時間や努力がもったいなさすぎる。 

 

● スピーキングテスト激増「前夜」か 

 

 「TOEIC L&Rで900点でも英語が話せない」という日本人はざらにいる。これが問題視され、日本でもスピーキングテストが激増することを願いたい。今は、前夜のように筆者には思える。 

 

 韓国には20年近く遅れをとってしまったが、社内公用語を英語にするなど徹底的な改革を行うケースもあるし、スピーキングテストを導入する企業も着実に増えつつある。 

 

 最後に、エントリー的なスピーキングテストを二つ紹介しよう。まずは、「Progos」。スマホで受けられる無料のテストで、数分以内に語学能力の国際指標CEFRに基づいたレベル判定と、診断結果が返ってくる。 

 

 もう一つは、有料ではあるが「Versant」もオンラインで手軽に受けられる。これもCEFRに基づいており、世界中で採用されているテストだ。やはり数分で判定と診断結果が返ってくる。 

 

 スピーキング力の確認は都度、行うと良い。自分の弱い部分を認識し、そこにフォーカスすることで効率的にトレーニングできる。自分では意識していなかった長所を診断で指摘されて、モチベーションが上がることも期待できる。 

 

 とにかく最初の一歩を踏み出さないことには始まらない。スピーキングテストを実際の会話力に効果的に直結させるためのポイントは、また別の機会にお伝えしよう。 

 

松尾光治 

 

 

 
 

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