( 270504 )  2025/02/27 05:16:59  
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住宅ローン利用者の約77%が変動金利型を選択しており、長年の低金利環境で月々の支払いを抑えられるために選ばれてきたが、金利上昇リスクが高まっている。

金利が上昇すると、変動金利型住宅ローンの返済額が年間約1兆円増加し、家計全体の返済額が増加する可能性があり、これは消費支出の抑制やGDPの押し下げに繋がる可能性がある。

住宅ローン選択時には金利上昇を見据えて固定金利型の検討や繰上げ返済の検討が重要であり、日本経済の課題を踏まえて資産運用の多様化が求められている。

(要約)

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住宅ローン利用者が利用した金利タイプは変動金利型が約77%を占めている。 出所:住宅金融支援機構(旧住宅金融公庫)2024年10月調査 

 

●日本の金利上昇リスクが高まる中、8割近くの人が住宅ローンで変動金利型を選んでいる 

 日本の住宅ローン市場では、変動金利型の利用が約77%と高く、固定金利を選ぶ人は少数派です。 

 

 長年の低金利環境で月々の支払いを抑えられる変動金利型が選ばれてきましたが、日本の金利上昇リスクが高まる中、この選択は将来的に大きな負担をもたらす可能性があります。 

 

●金利が1%上昇するだけで、日本全体の変動金利型住宅ローンの返済額は年間約1兆円増加する 

 金利が1%上昇すれば、月々の返済額は3000万円の住宅ローンで約2.5万円増加し、年間では約30万円の負担増となります。金利が2%上昇した場合、年間の負担増は約60万円に達します。 

 

 日本全体で見ると、変動金利型住宅ローンの総額は約130兆円にのぼり、金利が1%上昇するだけで家計全体の返済額が年間約1兆円増加すると試算されています。この負担増は消費支出の抑制につながり、日本のGDPを0.3%押し下げる可能性があります。 

 

●バブル期には住宅ローン金利が8%以上に!  0.5%前後という現在の日本の変動型住宅ローン金利は過去100年間で見ると極めて低水準 

 現在の日本の住宅ローン金利は、歴史的に見ても極めて低水準にあります。 

 

 たとえば、1970年代の住宅ローン金利は5〜6%程度で推移しており、1990年代初頭までのバブル期にはこれが8%以上もの水準に達したこともありました。また、1950年代に遡ると住宅ローン金利はもっと高く、10%以上が一般的でした。 

 

 0.5%前後という現在の日本の変動型住宅ローン金利は、過去100年間の住宅ローン金利の平均値と比較すると極端に低い状態にあることがわかります。こうした長期的な視点で見れば、現在は固定金利での住宅ローン借入れが極めて有利な選択肢と言えるのです。 

 

●住宅ローンの「5年ルール」や「125%ルール」は金利上昇の影響を根本的に防ぐものではない 

 また、金利サイクルは通常5年以上続く傾向があります。 

 

 アメリカでは1970年代から1980年代にかけて、途中で上下動を挟みながらも大局的に見れば利上げ局面が約10年間続き、2000年代初頭の利上げ局面も5年近く継続しました。 

 

 現在の世界的なインフレ圧力や円安の影響を考慮すると、日本も本格的な金利上昇サイクルに入っている可能性が高く、今後5年以上、金利上昇が続く可能性があると考えられます。 

 

 日本の住宅ローンには「5年ルール」(※1)や「125%ルール」(※2)といったルールが設けられていることが多いです。これらのルールは住宅ローン利用者の負担を短期的にはやわらげる効果がありますが、金利上昇の影響を根本的に防ぐものではありません。 

 

 (※1 編集部注:住宅ローンの「5年ルール」とは、住宅ローン金利が上昇しても5年間は毎月の返済額が変わらないというもの) 

 

 (※2 編集部注:住宅ローンの「125%ルール」とは、5年ルールによって5年間据え置かれた毎月の返済額が金利上昇により6年目に入って引き上げられる際、返済額はそれまでの金額に対して125%の金額までしか上がらないというもの) 

 

 5年間据え置かれた住宅ローンの返済額が6年目に入って見直された時、金利はさらに上昇している可能性が高く、その時点で総返済額の急増が避けられなくなります。 

 

 たとえば、5年ルール適用後に金利が1.5%上昇していた場合、月々の返済額が計算上は125%ルールの上限を超えるケースも出てくると試算されています。125%ルールがありますから、実際の返済額は125%までしか上がらないものの、結果として総返済額は増加、返済負担が中長期的に拡大し、可処分所得の減少を通じて、消費の下押し圧力が長期間続くリスクがあるのです。 

 

●低金利が長く続いた日本では多くの人が金利リスクの存在を忘れており、金利が本格上昇するとローン破綻が急増する恐れがある 

 日本は過去数十年に渡ってデフレ、低金利の状態が続いていたため、多くの人が金利リスクの存在を忘れてしまっています。 

 

 日本銀行の金融システムレポートによれば、40歳以下の世帯の約60%が「金利上昇を想定していない」と回答しており、特に若年層において金利上昇の影響が十分に理解されていない可能性が指摘されています。 

 

 こうした状況では、金利が本格的に上昇した際、ローン破綻や消費減退が急激に進むリスクが高まります。 

 

●住宅ローンの現在の固定金利は歴史的に見ても魅力的な水準 

 為替も日本の金利上昇を後押しする要因となっています。円安が進むことで輸入品価格が上昇し、日本国内のインフレ圧力が強まると、日本銀行は利上げを余儀なくされるでしょう。 

 

 たとえば、1ドル=150円を超える円安が進行した場合、日本のCPI(消費者物価指数)は1.2%押し上げられると試算されており、金融政策への影響が避けられません。 

 

 結果として、変動金利型住宅ローンを利用する世帯の負担は一層増大する可能性があります。 

 

 低金利に慣れた日本の消費者は、金利リスクを過小評価しがちですが、現在の水準での固定金利は歴史的に見ても魅力的です。 

 

 住宅ローン選択の際は、今後の金利上昇を見据え、固定金利型の検討をすることや、すでに変動金利型で住宅ローンの借入れを行っている場合は、繰上げ返済による負担軽減を真剣に考える時期に来ていると言えるでしょう。 

 

 [参考記事] 

●世界を襲うインフレの嵐は日本にもやってくる!  日本の「フラット35」は世界の他国にはない最強のインフレ対策ツールだ!  

 

●日本経済には金利上昇だけでなく、人口減少や財政問題などの長期的課題。資産運用でも日本に過度に依存せず、海外などへの分散投資が重要 

 そして、日本経済には金利上昇だけでなく、人口減少や財政問題といった長期的な課題も存在します。 

 

 こうしたマクロ経済のリスクを考えれば、資産運用においても日本に過度に依存せず、海外市場や異なる資産に分散投資することが重要になります。 

 

 投資戦略の多様化を図ることで、将来の金利変動や経済リスクへの耐性を高めることができるのです。 

 

 ●ポール・サイ ストラテジスト。外資系資産運用会社・フィデリティ投信にて株式アナリストとして活躍。上海オフィスの立ち上げ、中国株調査部長、日本株調査部長として株式調査を12年以上携わった後、2017年に独立。40代でFIREし、現在は、不動産投資と米国株式を中心に運用。UCLA機械工学部卒、カーネギーメロン大学MBA修了。台湾系アメリカ人、中国語、英語、日本語堪能。米国株などでの資産運用を助言するメルマガを配信中。 

 

ポール・サイ 

 

 

 
 

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