( 270669 )  2025/02/27 16:24:47  
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行田市でのスターバックス出店計画が一部市民の反対によって中断された件について、公園内への民間企業の進出に対する疑念や公共施設である公園への影響への懸念が挙がっている。

公園における民間企業の活動が増えつつあり、官民連携による公園の変化が進んでいる中で、公共性を損なう可能性や施設の運営に対する疑義が指摘されている。

一方で、民間資本の活用によって公園の活気が生まれ、公共的な施設としての役割を果たす事例もある。

今後は、より丁寧な説明や対話が求められるだろう。

(要約)

( 270671 )  2025/02/27 16:24:47  
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(一部の?)市民の反対でスタバが出店を中断したことが話題になっている。なぜこのような事態が起きたのだろうか?(撮影:梅谷秀司) 

 

国内で約2000店舗にまで増え、多くの人に愛されるスタバ。しかし、いくらスタバとは言っても、誰もが「自分が住むエリアにも来てほしい」とは考えていないようだ。 

現在起きている、スタバ出店中止騒動について、新著『ニセコ化するニッポン』を上梓した、チェーンストア研究家の谷頭和希氏が解説する。 

 

 埼玉県行田市のスタバ騒動が話題となっている。  

 

 ざっくりいえば、一部住民の反対によって市内公園内へのスタバ出店が頓挫した。これを見て私が感じたのは、ここ数年で起こっている公園の変化とその受け止めについてだ。 

 

 どういうことか。騒動を説明しつつ、その裏で起こる「公園の変化」について解説する。  

 

■街のにぎわいのためにスターバックスを  

 

 騒動が起こった行田市は、埼玉県東部に位置する人口約8万人の市。市の中心部にある忍城(おしじょう)は映画『のぼうの城』の舞台にもなり、それ以外にも稲荷山古墳や古代蓮の里などの観光地がある。 

 

【画像9枚】市民の反対でスタバが出店中断となった埼玉県・行田市。一方、カフェ出店でにぎわう公園も各地で増加中だ 

 

 一方、他の地方都市と同じく中心市街地の荒廃が進み、商店街はシャッター通りになってしまっている。スターバックスはそんな中心市街地にある水城公園に作られることになっていた。  

 

 元はといえば、2024年8月に「水城公園飲食施設出店者募集事業」によって公園内への飲食事業者の募集が行われたのが始まりだ。  

 

 応募要項には「水城公園を市民や観光客の交流拠点とし、地域の活性化と水城公園の更なる魅力向上の創出を推進する」とあり、これを叶えるために民間事業者の募集が行われたわけである。 

 

 この結果、手を挙げたのがスターバックス。市による審査を通過して晴れて協定締結となり、2025年12月の開業に向けて2025年2月から工事が着工する予定だった。  

 

■この街にスタバはいりません!?  

 

 しかし、である。  

 

 ここで市民団体からの反対が起こる。行田市民8名からなる「行田の明日を考える会」によって出店反対の署名が300件ほど集まったのだ。  

 

 行田市は反対署名を行った人々を尋ねて事業概要の説明をするなどの対応策を行ったが反対運動は収まらなかった。 

 

 

 「行田の明日を考える会」がスターバックスの日本法人本社にも嘆願書を送ったことにより、スターバックスコーヒージャパンが計画の見直しを発表。今回の頓挫に至ったわけだ。  

 

 反対運動の理由として「行田の明日を考える会」は「スターバックスが作られることにより公民館の駐車場の駐車台数が減少し、渋滞や事故の危険性が高まる」「新設される駐車場を作るために樹木が伐採される」「事業者決定までの手続の不透明性が高い」といったものを挙げている。 

 

 特に行田市が反対署名を行った人々の自宅を尋ねて事業の説明を行ったことについては「憲法21条『表現の自由』の侵害にあたる」としている(この件は東京新聞が昨年報じている)。  

 

 行田市は、今回の頓挫の経緯を説明する文書の中で、樹木の伐採や「表現の自由」の侵害については明確に否定している。  

 

 市と市民団体で主張する内容が異なるため、何が事実なのかはわからない部分が多いが、このような状況の中でスターバックスとしては事業を進めることはできないと判断したのだろう。 

 

 市民団体がスターバックス誘致に反対する理由にはさまざまあるが、その根幹には「公共施設である公園に民間企業が入り込むことに対する違和感」があると感じられる。 

 

 民間企業の利益のために市が公共スペースである駐車場を貸したり、公共財である樹木の伐採をしているのではないか?  公共空間である公園への設置だからこそ、今回の反対運動は起こったのではないか。  

 

■官民連携で変わりゆく公園  

 

 騒動を見て感じたのは、今後はこうした対立が増えていくのではないだろうか、ということだ。 

 

 というのも、公園における民間企業の役割はここ10年ほどで大きく進展しており、今後全国各地でこうした公園が増えていくと思うからだ。現在の公園を見ていくと、官民の連携はますます盛んになりつつある。 

 

この背景には、従来の公園は行政が管理することを前提として、公共財として最低限の維持管理をするスタンスがあったため「誰にも、何にも使われない」公園ばかりがあるという状況があったと国際文化都市整備機構理事の松岡一久氏は指摘する(「池袋や渋谷の「公園」で起きている画期的な変化」)。 

 

 

 さらには地方自治体の財政が厳しくなったために公園の維持管理を民間に任せようという動きが重なったこともある。 

 

■「公園×カフェ」で激変したところもある 

 

 実際、公園はどのように変化しているのか。 

 

 例えば2016年にリニューアルオープンした南池袋公園。もともと鬱蒼として治安的にも不安視されていた公園が改装され、中にはカフェが作られたり、芝生が作られたりして見違えるように変化した。 

 

 その結果、都市再生の事例として「芝生広場を中心とした魅力ある空間によって地域外からも人が訪れる人気スポットとなった」と取り上げられることになった(国土交通政策所研究紀要「公園空間活用事例調査研究(中間報告)」による)。 

 

 都市公園について定めた都市公園法ではもともと、公園内の設備について民間事業者にその管理を任せることができる項目があった。  

 

 こうした制度を利用して、南池袋公園のように、集客エンジンとしてカフェなどを誘致する例が増えてきた。今回の水城公園のスターバックスもこの制度に則ったものだ。 

 

 さらにこうした流れは加速し、2017年には、通称Park-PFIと呼ばれる「公募設置管理制度」が誕生。 

 

 これは、従来よりも民間事業者が公園内で行える事業の幅を広げたもので、施設の設置期間が10年から20年に延長されたり、土地の中での施設の設置可能面積(建蔽率という)が増えたりした。 

 

 例えば、公園内にカフェを設置する場合、そのカフェは少なくとも20年営業ができるし、これまでよりもカフェの面積を広くとることができるようになったわけだ。 

 

 これによって民間事業者にとっては公園への投資を強めようという意識が強くなる。そうして、全国各地にこの制度によって整備された公園が誕生することになった。  

 

■「公共」機能は損なわれるか?   

 

 ここで、民間企業が公園の運営や管理に携わると「公共」の機能が損なわれてしまうのではないか? という疑念が持ち上がる。 

 

 

 ただ、民間が積極的に公園に介入することで、結果的にその公園に人が集まり、それが街のにぎわいや公共施設として多くの人を受け入れる施設になる「結果的な公共性」が生まれている公園があることも確かだ。 

 

 例えば渋谷のMIYASHITA PARK。ここは民間の施設と公園を共に整備できる制度である立体都市公園制度によってリニューアルされ、1〜3階は三井不動産によるショッピングモール、屋上はスターバックスを中心に配置した公園となった。 

 

 ここでは、リニューアルにあたり前身となる宮下公園のホームレスを追い出す形で開発が進められたことから、公共施設としての公園のあり方について大きな議論が巻き起こった。民間企業の公共施設への介入の悪しき事例として、開業当初の評判は散々だったのだ。 

 

 しかし蓋を開けてみれば、いまやMIYASHITA PARKの屋上は若い人が集ってTikTokを撮影する「TikTokの聖地」になっている。それだけでなく芝生に寝っ転がって思い思いに過ごす若年層を中心に、渋谷の中でもきわめて活気に溢れた場所が広がっている。 

 

 元々の宮下公園に活気がなかったわけではないが、少なくともリニューアル後もそこを好んで使う人がおり、渋谷という街の活気に貢献しているのは確かである。  

 

 MIYASHITA PARKはPark-PFIの事例ではないものの、この制度では事業者が上げた利益の一部は公園内の一帯的な整備に充てることが定められており、公園内に人が集まれば集まるほど、公園の整備も進んでいく。 

 

 そうすればさらに公園は広く人々に使われることになり、むしろ開かれた施設になっていく。 青森県むつ市にある代官山公園はPark-PFI制度によって、それまで年間300人ほどだった来園者が1万6000人になったというデータもある。 

 

 つまり、官民連携によって公園内に活気が生まれ、結果的に公共的な姿を持つ公園もあるのである。少なくとも財政的に公園運営が厳しく、ほとんど放置状態になっている公園より、民間資本を入れ、公園の運営費をまかなうほうが公園本来のポテンシャルが活かせる。 

 

 このようにして、現在の公園は民間の力も借りつつ、徐々に変貌を遂げつつある最中なのだ。  

 

■より一層の丁寧な説明が求められている  

 

 全国的に地方自治体の財政難が進んでいる現在、こうした官民連携の流れはどんどん進んでいくだろう。その際、今回行田市で起こったような、一部市民と行政の間での摩擦はどの自治体でも起こりうることである。 

 

 

 
 

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