( 270689 ) 2025/02/27 16:49:31 1 00 日本では備蓄米が放出され、お米の価格が上昇している状況になっています。
また、日本の米の輸出を重視し、産業として強化する必要性も指摘されています。 |
( 270691 ) 2025/02/27 16:49:31 0 00 (c) Adobe Stock
備蓄米がついに放出される。スーパーによっては税込みで5キロ5000円を超すような状況にもなっている。日本人の食事に欠かせない米の大騒動になぜ政府はここまで放置したのか。経済誌プレジデントの元編集長で作家の小倉健一氏が解説するーー。
お米が足りないせいで、お米の値段が上がり続けており、農水省の「減反政策」に批判が集まっている。
過去に、石破茂首相も、麻生太郎政権の農林水産大臣として、減反をやめるべく動いていたことがある。以下は、2009年(平成21年)9月15日付で、当時、農水大臣だった石破首相が『米政策の第2次シミュレーション結果と米政策改革の方向』と題して発出されたレポートである。
「我が国が食料自給力を向上し、食料の安定供給を確保していくためには、私は、現在の農政、とりわけその根幹である米政策を見直し、これら生産調整をめぐる問題を払拭しなければならない」
「私は、このような(農家の自主性や経営の自由度が高まるように、 生産調整の仕組みを緩和する方向で見直す)政策こそが、米政策のあるべき姿であると考えている」
首相就任を前後して、すべての持論を放棄した石破首相が、今、どんな考えにあるのかまったくわからないが、14年も前から危機を知っていて何もしてこなかったのが自民党であり農水省である。
当時から減反政策の代替案として出ていたのが「農業戸別所得補償制度」である。自由に農家にお米をつくらせる一方で、農家に一定のお金を渡すという制度だ。考え方としては、ベーシックインカムのようなものであろう。
メディアに登場する有識者は、右から左まで一様に、減反政策を改めて農業戸別所得補償制度に進めばよいと言っている。一見して、社会主義政策のような制度を日本に導入して、本当に大丈夫なのだろうか。
まずは減反政策だ。この政策の破綻は、誰の目にも明らかになりつつある。日本国内で米の品薄や価格高騰が起こっているのは、自民党と農水省が続けてきた減退政策のせいだ。昨年の収穫量は、全体として凶作と呼べる状況ではないのに、総務省が2月21日に発表した1月の全国消費者物価指数(2020年=100)は、生鮮食品を除く総合が109・8となり、前年同月比で3・2%上昇した。
食品価格の高騰が影響し、特にコメ類は7割以上の値上がりを記録し、過去最大の上昇幅となった。
減反政策は、米の生産量を意図的に抑え、市場価格を維持するための政策である。農家がコメ以外の作物へ転作することで補助金を受け取る仕組みになっており、日本の水田の約4割が休耕または転作に回されている。1970年代には1445万トンだった生産量は現在700万トン弱まで減少。わずかな需要の変動で、価格が高騰してしまう脆弱な供給体制になってしまった。政府は2018年に減反政策を廃止したと発表したが、実際には「生産数量目標」を撤廃しただけであり、減反政策そのものは維持されている。生産を減らした農家に補助金を支給する仕組みは変わっていない。
減反政策をやめて、お米をどんどんつくっておき、平時は海外へ、緊急時は国内へとお米を供給することを目的にすべきなのに、自民党と農水省は内向きの理屈を変えていない。
日本の米を国の重要な輸出産業として位置付けるべきである。例えば、トルコはパスタ産業を国策として推進し、大規模な生産体制を整えることで世界市場での競争力を高めている。日本の米も輸出を重視し、政府は日本食を世界に広めることで、市場競争力を強化する必要がある。
海外には、日本と同じ短粒種のお米が生産されているが、実際のところ、日本産より硬くて美味しくないし、日本産米同様の食感にするには調理に手間がかかる。政府がこれまで以上に日本食を広めれば、世界中の人が美味しい寿司やおにぎりを食べたくなるのであるから、高品質の日本産米の輸出も盛んになるだろう。
トルコのパスタ産業は政府の輸出支援を受け、物流ネットワークやインフラ整備が進められている。輸出に対する税制優遇措置が導入され、効率的な輸送体制が整っている。日本も政府が積極的に輸出支援策を打ち出し、輸送コストの軽減や販路拡大を後押しするべきである。
トルコ国内のパスタ消費量は輸出量に比べて少なく、パスタは輸出を主軸とした産業として成長している。国内消費だけに依存せず、輸出を軸に生産を拡大することで、産業の安定と成長を両立している。日本の米も国内市場に依存するのではなく、輸出を成長戦略の柱とすることで、持続可能な産業基盤を確立できる。
日本は、農業で栄えるニュージーランドやチリをお手本にすれば良い。農家を補助金でガチガチに守るといっても、非効率な部分が残ってしまい、国際競争力を失ってしまう。長期的にみて品質や効率が悪くなってしまうのだ。ここは多くの自民党政治家が間違っているし、補助金をもらっている農家も勘違いしやすい点なので強調しておきたい。
農業は、たしかに工業や商業と違って、コストも高く、リスクも高く、国による保護政策のすべてを一気に無くして仕舞えばよいというのではない。農家への補助金が一定の役割をすることも否定しない。しかし、保護をすればするほど、競争力が弱くなってしまうのも事実だ。
政府の役割は、規制緩和と食料安全保障の役割に絞るべきで、供給サイドにおいて明らかに増産効果のある公共事業については実施してもよいだろう。農家とて、国に頼ることなく、自立しているという誇りをもって、堂々と農作物を供給していくことを目指した精神衛生上もよいのではないか。自分たちでは何一つ作物をつくらない農協職員、役人、自民党の政治家が偉そうに補助金をバラまいている社会が健全とは、筆者にはまったく思えない。
その点で、減反政策の放棄と一緒に提案されている「農家戸別所得補償制度」の導入は、慎重に検討したほうがいい。「悪夢」と自民が揶揄してきた民主党政権でも導入され、すぐに撤回された。ヨーロッパでは導入が進んでいるが、実態として上手くいっているのだろうか。
例えば『パラメトリック・アプローチによる規模効率の測定と説明: ギリシャのタバコ生産者の事例』<2005年、マケドニア大学 (ギリシャ)、アテネ大学 (ギリシャ)、国際連合食糧農業機関 (FAO)>には、EU共通農業政策の「直接所得移転」が行われたギリシャのタバコ生産者への影響がレポートされている。EU共通農業政策の「直接所得移転」とは、農家が作物を育てるかどうかに関係なく、お金をもらえる仕組みで、日本の「農家戸別所得補償制度」と近しい考え方だ。
EU共通農業政策の一環として、1992年以降、ギリシャのタバコ農家に直接所得移転が導入された。土地の休耕や公式価格の引き下げに対する補償として支給された。
1991年には60千ドラクマだったが、1995年には285千ドラクマまで増加した。技術効率への影響を分析した結果、直接所得移転の増加により農家の生産努力が低下し、技術的効率が悪化したことが示唆された。補助金の存在が生産活動へのインセンティブを減退させる可能性が指摘された。
日本で検討されている農家戸別所得補償制度は、ギリシャのタバコ農家に対する直接所得移転の影響を踏まえると、生産意欲の低下を招く可能性が高い。農家戸別所得補償制度が導入されると、農産物の市場価格と無関係に補助金が支給されるため、生産効率の向上よりも補助金への依存が強まる。ギリシャのタバコ農家と同様、経済的安定が確保されることで、経営改善や技術革新への取り組みが減少することが懸念される。
農業の持続的発展には、生産者の自主的な努力と競争力向上が不可欠である。制度設計において、補助金依存を防ぎ、技術向上を促す仕組みを構築する必要がある。
小倉健一
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