( 271059 )  2025/03/01 05:07:19  
00

CoCo壱番屋では値上げを繰り返しているが、顧客離れが起きており、特に2024年8月からの値上げが影響していると考えられる。

顧客は他の店舗に流れる傾向があり、さらにカレー以外のトッピングも値上がりしている。

競争も厳しくなり、価格的に劣勢に立たされていると感じられる。

しかし、 CoCo壱番屋は高付加価値の商品提案を目指しており、群雄割拠のカレー業界でのリブランディングを試みている。

この方向が成功するには、消費者に納得感のある高付加価値商品を提供することが必要だとされている。

(要約)

( 271061 )  2025/03/01 05:07:19  
00

相次ぐ値上げで、客離れが起こり始めているCoCo壱。3度目の値上げが要因と考えられるが、致し方ない面もある(筆者撮影)  

 

 「CoCo壱離れ」が進んでいる。 

 

 カレーチェーンとして国内で最も多い店舗数を誇るカレーハウスCoCo壱番屋(愛称ココイチ)。そんな同店だが、実は2024年9月から前年に比べて客足が落ち続けている。 

 

 運営会社の壱番屋の2025年2月期第3四半期決算によれば、客数(9-11月)は前年同期比で4.9%の減少。第1四半期が3.1%の増加、第2四半期が1.5%の増加だったのに対し、9月から減少が始まっているのだ(月次の最新発表は1月までだが、5ヶ月連続で前年割れ)。 

 

 いったい、なぜCoCo壱は失速し始めたのか?   そしてそれはCoCo壱番屋にとってはどのような意味を持つのか。カレー業界の現状も踏まえつつ、レポートする。 

 

■客足減は値上げの影響が大きい?  

 

 同社は、今回の客足の減少に伴う利益減の理由について「配達代行やテイクアウトの注文数が減少」したことを挙げている。 

 

【画像12枚】すっかり高くなった感もあるCoCo壱のカレー、現在のメニュー表の様子 

 

 一方、第2四半期までは好調だった業績が突如として第3四半期の9月から停滞したのには、2024年8月からの一部商品の値上げが影響していると見ることができる。 

 

 この値上げによって、同社のメニューの中でもっともシンプルなポークカレー(ライス300g)は、東京都・神奈川県・大阪府で591円から646円と55円の値上げ。その他の地域では570円から646円と76円の値上げになっている。 

 

 かなり攻めた値上げ幅である。ちなみにこの8月の価格改定に伴って、これまでは地域別に料金が異なっていた価格が全国一律になった。簡単に言えば、すべての店が「大都市価格」に合わせられた形だ。 

 

■トッピングもどんどん値上がりしている 

 

 また、カレー以外のトッピングも、50種類のうち45種類が平均13.5%の値上げとなり、トッピングとカレーを合わせるとさらに値段は高くなる。 

 

 2024年9月からの第3四半期の客足が顕著に減ったことを見ると、この8月の価格改定によってCoCo壱番屋へと足が向かなくなった人が増えたことが予想できる。 

 

 これは壱番屋が発表したことではないのであくまで筆者の推測にはなるが、大都市に比べて賃金等が安い傾向にある地方部においては、その価格上昇がより顕著に客足に反映したと見ていいだろう。 

 

 

 CoCo壱番屋は地方・郊外にも満遍なく出店をしているため、地方部での客足減少は同社全体に大きな影響を及ぼすものと思われる。 

 

■値上げをしても使われる店だったCoCo壱番屋  

 

 そもそも、CoCo壱番屋は2019年あたりから断続的に値上げを行っており、その際には大きな客離れは見られなかった。むしろ「値上げをしても客足が減らず、利益もしっかり出す」優等生のような店として見られていた節がある。 

 

 CoCo壱番屋は2024年2月期決算において前期比30.5%増の約47億円の営業利益を上げており、値上げの影響を比較的感じさせない店だった。簡単にいえば「値上げされても行きたい店」として消費者からイメージされているということだ。 

 

 単純な話であるが、企業としては最終的に「利益」がどれほど出ているかでその事業の成否は決まる。客足が落ちたとしても値上げを行い客単価が上がっていれば、今まで以上の利益を出すことは可能だ。 

 

 CoCo壱番屋がこれまで成し遂げていたように「値上げしても行きたい店」のポジションを取っていれば、客足が落ちようが値上げしようが特に問題はないのだ(しかもCoCo壱の場合、2025年2月期の第3四半期以前は客足も伸びていた)。 

 

 しかし、それが今回の値上げによって崩れてしまった(と見ることができる)。 

 

企業調査の分析広報研究所・小島一郎チーフアナリストは日経ビジネスの取材に対して「ココイチは外食業界の中でも先んじて値上げを実施してきたが、消費者側が上昇する価格に追いつくことができなくなっているのではないか」と述べている(ココイチ、カツカレー1000円で遠のく客足 限界近づく外食の値上げ)。 

 

 ある意味、値上げが限界値に近づいたということか。 

 

■CoCo壱番屋の値上げは悪手だったのか?   

 

 では、これをもって「CoCo壱番屋の値上げ戦略は失敗だった」と断じることはできるだろうか。 

 

 私は、そう言うにはまだ早いと思っている。 

 

 現状では2025年2月期の第3四半期のみ突出して客足の伸びが悪く、一時的な影響である可能性も否定できない。ヒキのある魅力的な新メニューが登場すれば、また店を訪れる人もいるだろう。 

 

 加えて、より大きな視点で見ると、CoCo壱番屋の近年の動きは過熱するカレー業界の中でポジションを再定義するポジティブな動きだと思うからだ。 

 

 

 そもそも、国内のカレー市場は群雄割拠の状態がずっと続いている。 

 

 例えばチェーン店においては、牛丼チェーンのカレーへの参入が目立っている。牛丼大手の松屋は1980年代からカレーメニューを始めているが、近年では同社の別ブランドとして「マイカリー食堂」の数を増やしている。特に、松屋やとんかつの松のやとの複合型店舗の出店に意欲を見せており、1つの店舗に行けばカレーも牛丼も選べる……という状態になってきている。 

 

 ファミリー層の場合、家族の1人が「カレーでも食べたいな」となったとき、これまでであればその1人に合わせてCoCo壱番屋でみんなでカレーを食べていたのが、「牛丼もとんかつもあるから、松屋の複合店に行こうか」となる機会も増えるだろう。 

 

 しかも、マイカリー食堂のプレーンカレーは税込530円。CoCo壱番屋と100円ほど違う。松屋だけでなく、すき家・吉野家もカレーはそれぞれ税込490円と税込465円。 

 

 どうしても値段的にはCoCo壱番屋が劣勢に立たされてしまっている感がある。 さらには、吉野家は新業態を出したりもしており、相対的にCoCo壱番屋の注目度は減少していると言えそうだ。 

 

 ここに追い討ちをかけるように増加しているのが「インネパ」だ。  

 

 これはネパール人を中心とした店主が営むインドカレー屋の総称。店にはエベレストの絵などが飾られていて、メニューは税込800円のバターチキンカレー。それにナン食べ放題が付いている……なんて店を見たことがある人も多いのではないだろうか。それが「インネパ」だ。 

 

 東京や大阪といった大都市圏だけでなく、地方のショッピングモールのフードコートなどでもインネパは増加しているが、ビザ要件の緩和などを背景にここ20年で激増している(これらは室橋裕和『カレー移民の謎 日本を制覇する「インネパ」』に詳しい)。 

 

 その数の多さと圧倒的な安さで、単一チェーンではないものの、あたかもチェーン店のように全国に増殖している。CoCo壱番屋が創業したときには考えもつかなかったライバルだ。 

 

 このようにカレー業界の中ではシビアな価格競争が起こっており、大衆的な店としてポジションを取っていたCoCo壱番屋にとっては、うかうかできない状態が続いているわけだ。  

 

■「値上げ」はリブランディングの現れか 

 

 このように「価格競争」のラインに乗ると、かなり厳しい戦いを迫られるのが現在のカレー業界である。価格でなければ、やはり「内容」で勝負するしかなくなる。今流行りの言い方でいえば「高付加価値」の商品を送り出していく、という戦略が必然的に必要になっていくだろう。 

 

 

 事実、CoCo壱番屋の決算説明会資料(2025年2月期中間決算)を見ると、マーケティング戦略の1つとして「高付加価値の商品提案」という文言が掲載されている。 

 

 他のカレー店と同じような普通のカレーで勝負するのではなく、具材やトッピング等含めてより「高くてもお金を払いたくなる」商品ラインを目指しているわけだ。  

 

 一方、CoCo壱番屋の強みは地方・郊外にもくまなく出店をしていることである。それゆえ、気軽に少し特別なカレーが食べられる店として、他のカレー店との差別化を図っているのかもしれない。 

 

 狙ったのか、自然とそうなったのかはわからないが、いずれにしてもCoCo壱番屋はこれまでとは異なる道を模索している(というよりも、牛丼チェーンのように安く提供することは難しいであろう以上、そうなっていくしか生き残る道はないような気もする)。 

 

 つまり、単なるインフレに伴う値上げというより、群雄割拠のカレー業界における「高付加価値カレー」へのリブランディングを起こしているともいえるのだ。 

 

 どの企業でもそうだが、リブランディングの過程は時に消費者のイメージとのズレを起こしつつ、じわじわと起こる。今回の客足減は、そうしたリブランディングにおける成長痛だと見ることができるだろう。 

 

 だからこそ、あくまで現時点ではだが、単純に「値上げが悪手だった」と断じることはできないと私は思う。  

 

■CoCo壱番屋が向かう先は  

 

 基本的にインフレ傾向は今後も続いていくだろう。だから、それに合わせてCoCo壱番屋がさらに高級になっていく流れは間違いない。そして、それは企業間での競争戦略としてはかなり真っ当な方向だともいえる。 

 

 ただし裏を返せば、その方向が成功するには、提供される高付加価値商品が消費者にとって納得感のあるものでなくてはならない、ということだ。今回改めてCoCo壱番屋に訪れて感じたのは、やはりそのカレーはきわめて(いい意味で)家庭的な味で、ある種カレーにおける「平均」的なものだ、ということだった。 

 

 

 
 

IMAGE