( 271341 ) 2025/03/02 05:38:31 0 00 トンネルを通行する北陸新幹線=福井県敦賀市(甘利慈撮影)
北陸新幹線の敦賀(福井)―新大阪間延伸を巡り、現行計画の「小浜・京都ルート」について、膨らむ建設費や工期の長さなどを理由に見直しを求める声が噴出している。京都府内では工事による地下水への影響を不安視する声もあり、計画を「千年の愚行」と非難する地元仏教会は撤回を求める署名活動を開始。ルート選定を主導する与党整備委員会は地元住民向けの説明会で理解を得たい考えだが、着工時期も含め、計画には早くも暗雲が漂っている。
■ルート決まらず来年度着工を断念
「科学的知見に基づいた正しい情報を知っていただくことが重要だ」。整備委の西田昌司委員長(参院議員)は2月10日、京都府庁で面会した西脇隆俊知事と松井孝治・京都市長を前に語気を強めた。
北陸新幹線の敦賀以西の延伸を巡り政府・与党は平成28年、福井県小浜市から南下して京都市を経由する「小浜・京都ルート」を決定。また整備委は昨年8月から京都市内の詳細ルート案について、京都新駅を①京都駅南側の東西(東西案)②京都駅南西側の南北(南北案)③京都駅から南西約5キロのJR桂川駅近く(桂川案)―とする3案の検討に入った。ただ、その後もルートの選定は難航。整備委は同年12月、ルートを「南北案」と「桂川案」の2案に絞るにとどめ、来年度中の着工を断念した。
2月10日の面会で西田氏は、住民や自治体に向けた説明の実施について府市に協力を求めた。西脇知事は「府民の理解と納得、沿線の市町の協力が不可欠だ」と応じ、今後、説明会実施に向けた協議を進める考えを示した。
■各業界の不信感根強く
各地で大規模災害が頻発する中、代替輸送ルートの確保は喫緊の課題となっている。特に北陸新幹線の新大阪延伸は、災害時のリダンダンシー(代替機能)が高まることに最大のメリットがあるとされる。
一方で沿線の京都府では、計画に対する府民の不信感が高まっているのも事実だ。
まず動いたのは地元の酒造業者だ。京都府酒造組合連合会などは昨年12月、府と京都市に対し、酒造りに利用する地下水に影響を及ぼさないルート設定を求める要望書を提出。連合会の大倉博会長は「酒の品質は地下水の水質に大きく左右される。慎重なルート選定をしてほしい」と求めた。
宗教団体も続いた。約1100カ寺が加盟する京都仏教会も同月、西脇知事と松井市長のもとを相次いで訪れ、「計画は千年の愚行であり、再考を強く求める」とする申し入れ書を手渡した。環境問題への懸念を示したほか、「京都の名刹(めいさつ)の真下を通るルートが設定されており、到底看過できるものではない」と強調した。さらに同会は今年2月から、現行の延伸計画の白紙撤回を石破茂首相らに求める署名活動も始めた。
現行計画のルート上にある自治体も声を上げた。南丹市の西村良平市長は、事業主体の鉄道建設・運輸施設整備支援機構に、地域住民の理解が得られるまでは工事を着工しないことを求める要望書を提出。同様の動きが他の自治体に広がる可能性もある。
■混乱で再燃、「米原ルート」
物価高などのあおりを受け、建設費も膨らむ見通しだ。国交省などが示した延伸区間の概算建設費は、南北案で最大5・2兆円、桂川案で最大4・8兆円と当初の試算より大幅に跳ね上がっている。
建設費は新幹線を運行するJRが国に貸付料(施設使用料)を支払い、残額の3分の2を国が、3分の1を沿線自治体が負担する。自治体側の負担増を懸念する声もあり、今後、貸付料の算出方法や国と自治体の負担割合についても議論が本格化しそうだ。
西脇知事は、京都にはすでに東海道新幹線が敷設されていることに触れ、「従来の制度に捉われずに、負担について検討してほしい」と述べた。
延伸を巡る混乱と並行し、石川県では敦賀から米原(滋賀)を通り京都、新大阪に抜ける「米原ルート」を推す声が再燃。これに対し、福井県内では小浜までの先行開業を求める声も浮上している。(入沢亮輔)
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