( 271376 ) 2025/03/02 06:21:40 0 00 ファスナー合流のイメージ(画像:写真AC)
日本の道路事情にはさまざまな課題があるが、なかでも最大の問題は「渋滞」だろう。新たな高速道路や幹線道路が次々と開通しているものの、日本全体で見ると渋滞の根本的な解決には至っていない。
国土交通省をはじめ、道路を管理・運営する各団体は、渋滞緩和に向けた施策を進めている。ドライバー側もこうした取り組みを理解し、実践することで、渋滞の軽減につながるはずだ。
近年、道路関連のニュースや高速道路の情報掲示板などで目にする
「ファスナー合流」
も、その一環といえる。これは、渋滞中の高速道路や幹線道路で合流する際、本線と合流車線の車両が1台ずつ交互に譲り合いながら合流する方法だ。さらに、合流車線を可能な限りフルに活用し、本線との合流地点ギリギリで合流するのが望ましいとされている。
しかし、この方法には肯定的な意見がある一方で、否定的な意見も少なくない。渋滞緩和に一定の効果があるとされるファスナー合流に対し、なぜ賛否が分かれるのか。そのメリットと課題について考えていきたい。
交通渋滞が緩和されれば、経済にもプラスに働く(画像:写真AC)
ファスナー合流が推奨される理由はいくつかある。
まず、渋滞緩和による所要時間の短縮と生産性向上が挙げられる。ファスナー合流は、最も効率的な合流方法のひとつとされており、スムーズな交通の流れを確保できる。本線と合流車両が交互に譲り合うことで、合流のタイミングが明確になり、無駄な停滞を防げる。これにより、ドライバーの負担が軽減されるだけでなく、物流や観光の所要時間短縮につながり、経済的なメリットも大きい。
次に、燃費向上と環境負荷の低減が期待できる。車の燃費を最適化するには、停止と発進を繰り返さず、一定速度で走行し続けることが重要だ。そのため、信号のある一般道よりも、高速道路のようにノンストップで走行できる環境が望ましい。渋滞が発生すると、頻繁な停止・発進によって燃費が悪化するが、ファスナー合流を徹底すれば、その回数を減らせる。結果として、燃料消費が抑えられ、経済的負担が軽くなるだけでなく、環境負荷の軽減にも貢献できる。
さらに、道路整備費の最適化にも寄与する。日本では渋滞対策として、新たな道路の建設や拡張が進められている。しかし、なかには
「本当に必要なのか」 「他に優先すべき整備があるのではないか」
と疑問を抱くケースも少なくない。ファスナー合流が普及し、渋滞が緩和されれば、大規模な道路整備の必要性も見直され、より効果的なインフラ投資が可能になる。
ファスナー合流はドライバーにとって心理的に受け入れがたいものだ(画像:写真AC)
ファスナー合流には否定的な意見も少なくない。その背景には、
・運転者の心理的特性 ・認知度の低さ ・状況判断の難しさ
がある。運転中は「譲りたくない」「先に行きたい」という心理が働くことがある。ファスナー合流では、合流車線をギリギリまで使って本線に入るため、本線側のドライバーにとっては「自分が先に進むべきなのに、合流車が割り込んできた」という感覚になりやすい。こうした心理的な抵抗感が、ファスナー合流の受け入れを難しくしている。
また、ファスナー合流という概念自体が十分に浸透していない。知っている人と知らない人が混在しており、実践するかどうかが個々の認識に委ねられているのが現状だ。このばらつきが渋滞を悪化させる要因のひとつになっている。道路管理者による周知不足に加え、ドライバー自身の関心の低さも影響している。高速道路のサービスエリアや電光掲示板などで、ファスナー合流の案内をもっと強化すべきではないだろうか。
さらに、ファスナー合流を適用すべき状況の判断が難しいという問題もある。本線や合流車線のどちらか、あるいは両方が渋滞している場合に効果的だが、その見極めはドライバー個人の判断に委ねられている。例えば、合流地点を過ぎた直後に渋滞が解消されるようなケースでは、ファスナー合流の効果は限定的で、むしろスムーズな流れを優先すべき場面もある。
日頃から交通状況を確認し、実際の走行経験を積むことで、渋滞の具合を適切に判断する力を養うことが求められる。ファスナー合流の有効性を理解し、適切な場面で活用できるドライバーが増えれば、渋滞緩和や交通の円滑化につながるはずだ。
ドイツの高速道路(画像:写真AC)
ファスナー合流は、諸外国でも広く採用されている。
なかでも注目すべきはドイツだ。自動車先進国のなかでも最前線を走るドイツでは、道路交通規則にジッパー方式(ファスナー合流)のルールが明記されている。安全でスムーズな交通を実現するための仕組みが整備されている点が特徴だ。
オランダでは、渋滞対策の一環として自転車移動を推奨している。自転車専用レーンの整備が進み、快適に走行できる環境が整っている。自動車の利用を抑え、交通渋滞の軽減につなげる仕組みが社会全体に根付いている。
もっとも、これらの取り組みをそのまま日本に適用できるかどうかは慎重な検討が必要だ。しかし、渋滞緩和に向けた有力な指針のひとつであることは間違いない。
テクノロジーのイメージ(画像:写真AC)
2020年代に入り、テクノロジーとAIは劇的な進化を遂げ、クルマもさらに便利で快適なシステムを搭載したモデルが次々に登場している。
例えば、ETC2.0は車両と道路間でリアルタイムに通信し、渋滞状況や迂回ルートを案内するだけでなく、安全運転をサポートしてくれる。さらに、車両自体が運転操作をせずに自動運転するシステムも進化を続けており、渋滞時の精神的・体力的な負担を軽減する機能が備わっている。これにより、ドライバーは大きな助けを得られるだろう。
今後、渋滞中の合流もテクノロジーやAIによって、より効率的で最適な方法が実現されることが期待される。しかし、それでもドライバー自身の知識や経験が依然として重要であることを忘れてはならない。
ファスナー合流に対する認識を広めることが重要だ(画像:写真AC)
ファスナー合流は、渋滞緩和を目指す有効な方法であり、経済的な効果も期待されている。
しかし、実際にファスナー合流を行う際には、ドライバーの心理的な配慮が必要である。多くのドライバーにその重要性を理解してもらうことが重要で、そのためには道路管理者からの情報提供と、ドライバー自身が情報に関心を持つことが欠かせない。
課題は多いものの、地道な努力とひとりひとりが道路事情に対する関心を高め、運転中に譲り合いの精神を持つことが、よりよい道路交通社会を作るために不可欠だ。
都野塚也(ドライブライター)
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