( 271386 ) 2025/03/02 06:33:28 0 00 レストランの自席での決済などで利用することが多い、クレジットカードのサイン決済。それが3月いっぱいで終了する。今からやっておくべき対策とは?(写真:naka/PIXTA)
かつてクレジットカード決済の代名詞だった行動がなくなろうとしている。
レストランなどでの支払いをクレジットカードで行った際、自席でサインする形で決済したことがある人は多いだろう。このサイン決済が、今年3月をもって原則終了するというのだ。
■なぜサイン決済が認められていたのか
わざわざ席から離れて暗証番号などを入力しなくてもいいため、便利な手段として用いられてきたサイン決済。本来であれば暗証番号の入力が必要なところ、番号を忘れた場合などに備えて一時的な救済手段として用意されていた「暗証番号スキップ(PINバイパス)」の仕組みを活用して行われていた。
あくまで番号を忘れた救済手段として用意されていた「暗証番号スキップ」が、日本ではレストランなどでのサイン決済に幅広く用いられていた、というわけだ。
暗証番号スキップには、レストランなど店舗向けの救済という側面もあった。
日本では、カードに金属製の「ICチップ」を搭載し、セキュリティー面で磁気型に優るICカードへの対応が欧米に比べて遅れていた。だが、2020年の東京五輪開催に向けて、急ピッチでICカードへの対応が進んだ。その中で、店舗にもICカードへの対応義務づけが行われ、決済端末の切り替えなどが求められた。
ただ、その設備投資の金額は小さくないうえ、サイン決済が普及している中で暗証番号決済に一気に切り替えることは容易ではない。そのため、全取引での厳格化はIC取引普及を阻害してしまうとの判断から、レストランなど一部の取引形態ではサイン決済が許容されたもようだ。
しかし、ICクレジットカードの普及に伴い、もはや暗証番号取引が一般的になってきた。そうしたことも鑑み、クレジットカードの業界団体である「日本クレジット協会」が、2023年3月に「暗証番号スキップ」を廃止する方針を発表。各社がそれに従う形で、今年3月にはサイン決済が終了する見通しだ。
■サイン決済が完全になくなるわけではない
広く普及し、便利なサイン決済だが、その終了の背景にはやはり「不正利用被害」がある。
クレジットカードの裏側に、自筆のサインをしている人は多いだろう。日本では、本人確認の手法として長らくサインが重用されたため、裏側のサインパネルの署名と決済時の署名を照合することで不正利用防止に努めてきた。
ただ、その実効性は乏しく、裏側の署名欄をまねてサインすれば、不正にクレジットカードを入手した第三者が簡単に利用できてしまうのが現実だ。2023年の国内のクレジットカード不正利用被害額(キャッシング含む)のうち、約33億円がカード紛失・盗難を中心としたもので、サイン決済を悪用したケースも多分にあるとみられる。
そうしたセキュリティー面の課題から廃止される暗証番号スキップだが、すべてのサイン決済がなくなるというわけではない。ある大手クレジットカード会社社員は「加盟店によっては機器導入が追いつかなかったり、運用上の問題でサイン決済がしばらく残ることも想定している」と話す。
また、今回の措置はカードに金属製の「ICチップ」が搭載されているクレジットカードのみを対象としており、ICチップを搭載していない磁気カードでは今後もサイン決済が利用できる見込みだ。
ただ、国内で新規発行されているクレジットカードは、ほぼすべてがICチップ付きとなっている。一部のプリペイドカードなどを除き、今後サイン決済がなくなっていくことは間違いない。
4月以降は、今までサイン決済を行っていたレストランでも、レジ前での暗証番号入力が求められたり、テーブル決済を続ける場合は持ち運び可能な決済端末を利用したりする光景が一般的になるだろう。
■注意しておきたい「不正利用時の補償」
では、レストランなどでうっかり暗証番号を忘れてしまった場合、救済策はあるのだろうか。答えは残念ながら、「決済することができない」ということになる。
ICカードにおける暗証番号スキップの機能そのものが廃止されることから、暗証番号がわからない場合でもサイン決済することはできない。
注意したいのが、不正利用時の補償だ。サイン決済が主流だった際には、簡単にサイン偽造が可能だったため、裏側の署名欄が不記載だったといった過失のケースを除き、基本的に補償の範囲内とされていた。
しかし、故意や過失により暗証番号が知られた場合、不正利用の補償対象にならないことが大半だ。そのため、暗証番号を裏面にメモするといった行動で暗証番号が流出してしまえば、不正利用の補償を受けられないことが想定される。暗証番号を第三者が見られる場所にメモするのは厳禁だ。
とはいえ、すべてのクレジットカード決済で暗証番号が求められるというわけではない。昨今普及しつつある「タッチ決済」などでは、本人認証なしに決済することが可能だ。店舗やブランドにもよるが、おおむね1万5000円未満の決済では暗証番号の入力など不要で決済することができる。
逆にいえば、1万5000円を超える決済の場合、必ず暗証番号など本人認証が求められることになる。自身の暗証番号に不安がある人は今のうちに確認しておきたい。
布村 昌俊 :ライター
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