( 271604 )  2025/03/03 05:04:15  
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JR西日本の芸備線の赤字が問題となり、ローカル線の存続が議論されている。

芸備線は赤字が多いが、観光客の乗客数は増えており、地域住民の利用が減少している。

JR西と自治体が意見が一致せず協議が進展していない一方、他の自治体では上下分離方式を導入するなど、独自の方法で公共交通の維持を図っている。

国の姿勢も重要で、赤字ローカル線にどのように対応するかが検討されるべきだと指摘されている。

(要約)

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JR芸備線の備後落合駅に向かって新見駅を出発する列車=岡山県新見市 

 

全国の鉄道ローカル線が赤字に悩んでおり、廃止か存続かを巡る議論が活発になっている。JR西日本の芸備線の状況は特に深刻で、100円の収入を得るために1万円以上のコストがかかる区間もある。ただ赤字区間でもローカル線は学生の通学など一定の需要があり、廃止になると地方の過疎化を加速させる懸念から沿線自治体の反対も少なくない。芸備線は全国で先駆けて国の「再構築協議会」での議論が始まっており、今後のローカル線のあり方の一つの指標になりそうだ。 

 

■通勤通学の利用が減る芸備線 

 

芸備線は広島駅から備中神代駅(岡山県新見市)の約159キロを結ぶ単線の路線。JR西で営業費用に対する運輸収入の割合を示す「収支率」が最も悪いのが芸備線の東城―備後落合間で、100円稼ぐのに2021~23年度平均では1万1766円の費用がかかった計算となる。 

 

昨年に芸備線の備中神代-備後庄原間に乗車したところ、空席が目立つ車内に10人ほどの乗客がいた。平日の昼過ぎということもあり多くが観光客のようで、席を立って自然豊かな景色を眺める姿が見られた。 

 

JR西が公表した調査結果では、18年と24年の利用者数を比較すると午後2時台の備後落合-備後庄原間で平均乗客数は平日が4人増、休日が19人増となっており、鉄道ファンを中心に観光客が増えていることがうかがえる。一方で午前7時台の通勤通学時間帯の東城-新見間では平日で平均15人減と、地域住民の利用が減少している実態が浮き彫りとなった。 

 

■JRと自治体の主張かみ合わず 

 

芸備線のあり方を巡り、JR西は広島県や岡山県など沿線自治体と議論を進めるため、国に「再構築協議会」の設置を要請。24年3月から議論が始まっており、3年をめどに結論を出す。 

 

協議会では広島、岡山両県が、新型コロナウイルス禍の収束後にJR西の業績が回復していることなどを理由に、「内部補助で維持できる」と主張している。内部補助は都市部の在来線や新幹線といった高収益路線の黒字で赤字路線を維持する方法。1987年の国鉄民営化以降も、公共性から内部補助でローカル線の維持が行われてきた経緯がある。 

 

ただ、利用者が減少しているJR西の17路線30区間の赤字総額は233億円(21~23年度平均)と莫大(ばくだい)な額に上り、他路線の黒字で穴埋めできる限界を超えつつある。JR西の長谷川一明社長は「今のままでは公共交通としての持続は難しい」と話す。自治体が車両や線路などの設備を維持管理する「上下分離」という方法もあるが、そのためには鉄道会社と自治体が協力する姿勢を示すことが重要となる。 

 

 

近畿大経営学部の高橋愛典教授(地域交通論)は「日本は民間企業が優秀で鉄道やバスなどのインフラを担ってきた。しかし、少子高齢化で民間の努力だけでは厳しくなっている」と指摘。学生の通学手段を維持することで子供の流出を防ぐという観点から、「自治体、住民、鉄道会社が協力して対応しなければならない」と強調する。 

 

広島県庄原市では24年4月から芸備線の通学用定期券購入費用の最大3割を助成する制度を始めている。再構築協議会ではJR西と自治体の主張がかみ合わず議論は平行線だが、人口減少が進む中、協力していかに地方の交通インフラを維持するか考える必要がある。 

 

■近江鉄道は上下分離を導入 

 

ローカル線の赤字は、JR西日本だけでなく全国の鉄道で課題となっている。自治体が設備の維持管理を担う「上下分離」方式やバス高速輸送システム(BRT)への移行など、地域ごとにさまざまな方法で公共交通の維持を図っている。 

 

滋賀県の近江鉄道は、昨年4月から上下分離方式を導入した。滋賀県と沿線市町でつくる「近江鉄道線管理機構」が車両や線路などの設備を保有して維持管理し、鉄道会社は運行に専念する仕組み。近江鉄道は1994年度以降、営業赤字が続いており、住民の足を維持するために自治体が負担を許容した格好だ。 

 

熊本県のJR肥薩線や福島県のJR只見線など、上下分離へとかじを切るローカル線も増えてきている。 

 

一方で鉄道事業が廃止となるケースも少なくない。宮城、岩手の両県にまたがるJR気仙沼線と大船渡線は2011年の東日本大震災で被災した後、復旧ではなくBRTへの移行を決断した。島根県と広島県を結ぶJR三江線は18年に廃線となり、代替バスが運行している。 

 

バスは鉄道よりも維持管理にかかる費用は安いものの、自治体からの支援がなければ経営が難しいことに変わりはない。住民の足に加えて、観光や子育て施策など、交通インフラを維持するためにはさまざまな視点での議論が求められる。(桑島浩任) 

 

 

国の姿勢が見えない 島根大・関耕平教授 

 

芸備線の再構築協議会の結果によって、赤字ローカル線を廃線にするのか維持するのか、その流れが決まってしまう恐れがある。 

 

自治体はJR西日本の「内部補助」で維持してほしいという考え方だが、民間企業である以上、他の路線の黒字で穴埋めするのは客観的に見て限界がある。ここで考えないといけないのは、国が赤字ローカル線についてどういう姿勢で対応するかだ。 

 

大量輸送だけでなく、地域社会の維持や防災などの観点で鉄道を道路と同じインフラととらえるのか否か。再構築協議会では国がこの点について全く回答しておらず、議論が進んでいない。 

 

2018年に廃線となった三江線は代替のバスが観光客の周遊ニーズに対応できず、トイレがないので高齢者が利用しづらいなどの問題がある。欧州では上下分離などの方式で税金を投入して維持していく考え方が広がっている。廃線となった後の地域がどのような影響を受けるかを検証し、日本の鉄道網をどう維持していくかを国ぐるみで考えるべきだ。 

 

 

 
 

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