( 272686 ) 2025/03/07 05:16:31 0 00 写真=竹井 俊晴
日産自動車の内田誠社長兼最高経営責任者(CEO)の退任が濃厚になった。日産の指名委員会が後任を選定し、来週にも発表する見通し。業績不振が続く中、内田氏は就任して5年を過ぎ、経営責任を明確化して新体制で再建を加速させたい考えだ。
日産は2月、日産の子会社化を提案したホンダとの統合協議の打ち切りを決めた。だが、厳しい経営状況を打破するために態度を一転。日産関係者は、「完全子会社か分からないが、ホンダの出資を受け入れる方向で協議が進むだろう」と話す。さらに台湾電機大手の鴻海(ホンハイ)精密工業や日産が筆頭株主の三菱自動車を加え、4社での協業も視野に入れている。
関係者によると、ホンダとの協業を選択する場合、内田氏の退任が条件となっており、「次期トップ候補の意見は割れている」(関係者)ようだが、指名委の大半が内田氏の続投を認めない方向だ。
「トップも含め人事が大きく変わる時期に差し掛かっている」。ある日産関係者はこう明かす。3月6日開催予定の指名委でトップ候補や人材育成について協議され、3月中旬の取締役会で決定する。次期トップを巡っては、ジェレミー・パパン最高財務責任者(CFO)が暫定的なトップとして内部昇格する案が浮上している。ホンダが再交渉を受け入れれば、日産側はパパン氏が再交渉を先導すると見られる。
自身の進退について、内田氏はホンダとの経営統合協議の破談を発表した会見で「指名委、取締役会、株主が最終的に判断することだが、日産の業績低迷に歯止めをかけ、混乱を収束させることが私の責務だ。私の気持ちとしては、きちっとこの会社のターンアラウンド(再建)の方向を出せるようにやりたい。ただ、『もう内田は必要ない』と言われれば、(社長に)しがみつくことはない」と述べ、指名委の判断に委ねる姿勢を示していた。
日産の指名委は取締役の5人。委員長でソニー(現ソニーグループ)出身のアンドリュー・ハウス氏、ENEOSホールディングス名誉顧問の木村康氏、株主で仏ルノー会長のジャンドミニク・スナール氏、元レーシングドライバーの井原慶子氏、みずほ信託銀行出身の永井素夫氏だ。社外取はスナール氏以外の4人だ。
関係者によると、内田氏の退任はメインバンクであるみずほ銀行の意向が影響したようだ。ホンダとの経営統合協議の破談について、みずほ銀側の意見に近い指名委のメンバーでもある社外取締役が内田氏の退任を強く求めており、「指名委の議論を主導している」(関係者)。
みずほ銀はホンダとの再交渉を求めているとされ、社外取は内田氏に対してホンダとの経営統合が進まなかった経営責任と不十分なリストラ策を追及しているようだ。「この社外取はホンダとの経営統合について賛成の立場だったので、反対の意見をした人が皆敵に見えているのだろう」と前述の関係者は見る。
これまで内田氏の姿勢に理解を示していたスナール氏は、ホンダや鴻海との協業が保有する日産株の株価を引き上げる好材料になると見ており、内田氏の退任に賛同の意を示している模様だ。ただ、内田氏については「本人は会見で述べた意思は変わっていない。しかし、周囲の見る目が変わってきた。それをどう受け止めるかだ」と関係者は語る。
●「手のひら返し」の経営陣の責任は
一方、日産を混乱させた責任を内田氏1人に負わせるだけでは本質的に組織は変わらないという批判もある。仮に内田氏が退任するならば、内田氏以外の取締役の責任をどう取るかという問題も出てくる。
ある関係者が語る。「内田氏が退任したとしても、社外取締役は誰一人変わらない見通しだ。経営責任を考えると、本当にそれでいいのか。一度、取締役会としてホンダとの経営統合協議の破談を決めたのだから、責任は1人ではなく、全取締役にあるはずだ。今回、社外取は内田氏1人に責任を負わせる形で保身にきゅうきゅうとしている」
関係者によると、12人いる取締役のうち、日産の子会社化を求めるホンダとの協議に反対したのは10人。賛成は2人だった。ホンダとの新たな経営統合の形態を模索するとはいえ、日産の経営陣は1カ月も経たないうちに手のひらを返す形になりそうだ。
日産の一連の混乱への責任が明確になっていないことに対して別の関係者も疑問を呈する。「取締役の大半がホンダとの協議打ち切りに賛同したのに、その責任の論点をすり替えている。そもそもホンダとの経営統合協議は、執行側が決めて監督側の取締役会に諮った。それを最終的に取締役会が否決した。ホンダとの経営統合協議の破談が内田氏の退任理由になるならば、他の取締役も相応の責任がある」
問題は指名委そのものにもある。
日産は2019年、ガバナンス(企業統治)強化のため「指名委員会等設置会社」に移行した。設置された指名委が内田氏をトップに選んだが、今の指名委メンバー5人は全員、当時の指名委を務めている。「内田体制」を長く容認し、混乱を長引かせた責任が全くないわけではない。指名委の任命責任が霧散しているように見えることへの批判も根強い。
ガバナンスにも詳しいある自動車関係者は「指名委は5人中4人が社外であり、形式は立派。だが、ここまでの経営不振を見過ごしてきた。本来ならば株主が『株主利益を毀損させた』として社外取を訴えていいほどだ」と語る。
この関係者はさらに指摘する。「純粋な株主利益を求める大株主ならば業績や株価を上げる経営者を選ぶ。今の日産を見ると、そうなっていないことは『利益相反がある』と言わざるを得ない。そうした状況に陥らせている取締役会、各委員会は他の株主の負託に十分応えられておらず、構成メンバーや組織形態は不適切だ」
今日の日産の経営課題は北米の業績不振だ。解決するには、北米で売れる車をすぐに準備して販売を強化することしかない。そのための要素技術、開発力、生産能力はまだある。それを推進する身軽な経営体制を構築し、スピーディーに取り組むべきだ。他社との協業は解決に向けた手段の一つにすぎない。
ある自動車アナリストは再建策についてこう指摘する。「まずはホンダに頭を下げて協力を要請する。ホンダ、三菱自とのアライアンスを深化させ、プラグインハイブリッド車(PHV)のパワートレーンを三菱自から、ハイブリッド車(HV)のパワートレーンをホンダからそれぞれ供給してもらい、北米で日産らしいミッドサイズSUV(多目的スポーツ車)を価格の割には大きなサイズで売れば高い確率でヒットするだろう。過去、ヒット車が瀕死(ひんし)状態の車メーカーを救ってきたことを忘れてはならない」
未来の日産を妨げているのは異常な数に増え、リスクと責任を取らない経営陣だ。自分たちの未来を切り開けるのは自分たちしかない。そのために身を切る決意を示すこと。他社とのアライアンスはその先にある。
その「覚悟」を多くの日産社員が見ている。
小原 擁
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