( 272791 ) 2025/03/07 07:20:36 0 00 観光客のいないコロナ禍の京都・伏見稲荷大社(提供)姫田小夏
【変容するインバウンド】
#3
オーバーツーリズムによって観光地の住人の生活が大きく変わっている。京都市で、多くの外国人観光客を乗せたバスは“住民の足”ではなくなった。在住のAさん(30代女性)は「移動にものすごく時間がかかるようになった」と嘆く。「観光エリアに近づけないどころか、行きつけの店も予約が取れなくなった」とも。同じく京都市民のBさん(60代男性)は「大声で騒ぐ傍若無人な観光客が増えた。知人の誰もが迷惑がっている」と訴える。
鎌倉(神奈川県)の「受け入れ能力」も限界に近づいている。「鎌倉駅はホームの幅が狭い。落ちないように観光客を避けながら必死の思いで歩いています」とCさん(50代女性)は言う。鎌倉は狭い範囲に観光客が集中する町で、海も近い。「災害や津波が起こったときのことを考えると本当に不安です」(同)
金沢(石川県)にも外国人観光客がどっと押し寄せる。「JRのみどりの窓口は外国人観光客も並んで2時間待ち。特急券の払い戻しには金沢駅から30分以上かけて宇野気駅まで行った」(Dさん.60代男性)
一方、外国人観光客の誘致に必死だという自治体もある。和歌山県在住のEさん(60代男性)は「和歌山県も誘客に熱心だが、地元にはホテルもなければ、人もいない。ドッと来られても対応できない。それどころか来れば来るほど物価が上がり、庶民の生活はもっと苦しくなる」と嘆く。
■安全、安心を切り売り
政府は「2030年に6000万人の訪日観光客」を数値目標に据える。「日本の津々浦々を外国人観光客が訪れれば、地方創生になる」という目算だが、マクロの試算と現場の実情は乖離する。松山に観光客が集中する愛媛県では、他の地域も「観光で町おこし」を狙うが、Fさん(40代男性)は「それをする力が町や村にはもう残っていません」と語る。
外国人観光客の訪問先が高齢者ばかりの村だとしたら、商機は外国資本の手に落ちる。残念ながら「彼らの“やりたい放題”を止められるほど、自治体には対応能力がない」(元自治体職員Gさん)。
京都や鎌倉などの神社仏閣は、日本人(住人でさえ)が容易に訪問できなくなった。Eさんは「日本人が守り続けてきた文化や、納税者が築いた都市インフラ、あるいは目に見えない安心・安全という価値。それを切り売りしているのが今のインバウンドだ」と失望を隠さない。
(姫田小夏/ジャーナリスト)
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