( 273309 )  2025/03/09 06:03:03  
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フジテレビの月9ドラマ『119エマージェンシーコール』に人気声優がゲスト出演し、視聴者の間で出演シーンに対する賛否が分かれている。

作品は消防局の指令管制員たちの活躍を描いており、通報者との声のやりとりが重要な要素となっている。

声優たちがゲスト出演する中で、視聴者からは声優と俳優の演技トーンの違いが浮き彫りになり、違和感を抱く意見がある。

声優の起用がミスマッチな結果を招いた理由について解説されている。

(要約)

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月9ドラマに人気声優が出演し、出演シーンが賛否を呼んでいる(出所:フジテレビ公式YouTube)  

 

 119番の緊急通報に対応する、消防局の指令管制員たちの活躍を描いたドラマ『119エマージェンシーコール』(フジテレビ系)が終盤に近づいている。 

 

 通報者との声のやりとりが重要な本作は、人気声優が毎週ゲスト出演していることでも話題に。しかしそんな声優の出演シーンに対して「俳優と演技のトーンが違いすぎて浮いている」といった視聴者の感想がたびたび見受けられる。 

 

 そのような反応が集まるのはなぜか。キャストへの批判は適切ではない。本稿では、本作における“声優の起用”がなぜミスマッチな結果を招いたのかを掘り下げる。 

 

■「声」のやりとりで見せる職業ドラマ 

 

 まず物語について触れておこう。舞台は横浜市消防局の通信指令センターだ。主人公・粕原雪(清野菜名)ら指令管制員の使命は、通報者の状況を的確にヒアリングし、1秒でも早く消防車・救急車の出動手配を行うこと。 

 

 通報のケースは千差万別で、必ずしも火災現場からの通報や、事故・ケガといった内容ばかりではない。 

 

 中には緊急性の低い通報や、SOSではあるが消防管轄外の通報──自殺志願者からの通報や、刑事事件に巻き込まれた被害者からの通報など──が119番宛てにかかってくることもある。 

 

 ときに悪質ないたずら電話(作中では通称「ジャンクコール」)が紛れることも。指令管制員たちは、姿形の見えない相手に対して想像力と知識を総動員し、情報を見極めて臨機応変に対応する必要がある。 

 

 そのため本作の見せ場は必然的に、指令管制員と通報者が掛け合う「通話」のシーンとなる。そこで登場するのが、通報者たちを声で演じるプロの声優というわけだ。 

 

■有名声優が多数ゲスト出演 

 

 初回には、『進撃の巨人』エレン・イェーガー役などの梶裕貴や、『呪術廻戦』虎杖悠仁役などの榎木淳弥が登場。火災に巻き込まれた通報者と、遊び半分でかけてきた虚偽の通報者、それぞれ正反対な役柄を演じた。 

 

 

 さらに別の回では『銀魂』神楽役などで知られる釘宮理恵や、『名探偵コナン』工藤新一・怪盗キッド役などを務める山口勝平、『ドラえもん』でスネ夫役などを演じる関智一といった、錚々たる面子が登場。一部の例外を除いて、基本的に声優は声のみで出演し、多様な通報者を演じている。 

 

 声優の実力については言わずもがなだが、そんな声優たちと俳優の演技がなじまなかったのはなぜなのか。 

 

 その理由には、演技以外の要素が少なからず影響しているように見える。 

 

■演技の違いが目立ちやすいフォーマット 

 

 まず一因として考えられるのは、「指令管制員」と「通報者」という対照的な配役が、演技のちぐはぐさをより際立たせてしまったこと。 

 

 俳優が演じる指令管制員は通報者を導く仕事だ。危機迫る状況であってもプロとして冷静な対応が求められるため、俳優は当然落ち着いた態度で演じることになる。一方、声優たちが演じるのは緊急事態の渦中にいる通報者。パニック状態や危機感を表現する激的な芝居が求められる。 

 

 個人の経験の違いはさておき、俳優と声優はそれぞれ種類の異なる専門職のようなもの。演技の性質に元々の違いは存在するため、対照的な配役によってその差異がより強調されてしまったのではないか。  

 

 また、声優が「声だけで俳優として演じる」ケースはそもそも珍しく、どちらに転ぶか未知数な企画だったこともあるだろう。「洋画の吹き替えみたいなものでは」と思う方もいるかもしれないが、『119』で求められるのは吹き替えではなく、あくまで“俳優”だからややこしい。 

 

 これまで声優がドラマで「声の出演」をする場合は、キャラクター役など本来の声優業と近い仕事が多かった。 

 

 昨年放送されたドラマ『ACMA:GAME アクマゲーム』(日本テレビ系)では、VFXの悪魔キャラクターの声を声優が演じている。現在放送中の『まどか26歳、研修医やってます!』(TBS系)も同様で、作中に登場する人形劇の人形に声優が声をあてている。 

 

 そんな中で『119』のように、声だけで俳優の役割を担うケースは珍しい。このような声優の起用パターン自体は新鮮だ。しかし実際には、このキャスティング手法が作品にとって果たして最適だったのか、どこか惜しいような印象が否めない。 

 

 

■「週替わりのゲスト声優」が必要だった背景  

 

 そもそも『119』が、ドラマでありながら毎週ゲスト声優を迎える、現行のような形に至ったのはなぜか。プロデューサーのオフィシャルコメントによると、指令管制員という「声」の役割が大きな職業を扱うにあたり、声優の起用は初期段階から決まっていたようだ。 

 

 指令管制員は業務の性質上、デスクからほとんど動かない仕事である。そのためドラマの題材としては圧倒的に「静」の職業といえる。それが作品にとって必ずしもマイナスに働くわけではないが、視覚的な変化の少ない舞台設定でどのようにエンターテイメントを盛り上げるか。制作陣にとって工夫が必要となる部分ではある。 

 

 そのための策として用いられたのが本来「週替わりの声優出演」だったはずだ。けれど結果としてはその演出がハマりきらず、視聴者からの“違和感”を呼んでしまった。企画当初から想定された「声の仕事をドラマでどう見せるか」というハードルはやはり高かった印象が拭えない。  

 

 決して見応えがないドラマではない。丹念な取材の跡を感じる多様な緊急通報のディティールは、職業理解を促進するリアリティを充分に含んでいる。救急の現場ならではのシリアスなテーマを扱う手つきも堅実で、まじめな姿勢が見られる。そんな魅力があるからこそ、ミスマッチな演出に視線が集中した部分もあるだろう。 

 

 物語もいよいよ終盤に近づいている。これまでは1話完結のエピソードが多かった『119』だが、ラストにはどのような締めくくりが見られるのか。 

 

 これまで積み重ねたエピソードが発展する展開にも期待しつつ、最後まで見守りたい。 

 

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白川 穂先 :エンタメコラムニスト/文筆家 

 

 

 
 

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