( 275236 ) 2025/03/16 06:26:36 0 00 ネットの世界で「さす九」はどのように受け止められているのか(イメージ)
「さす九」という言葉が注目を集めている。「さす九」は「さすが九州」の略で、男尊女卑的な傾向が強いとされる九州の価値観と九州男児を揶揄的に表現した言葉。SNSなどではハッシュタグつきの「
」で拡散されることも多い。
西日本新聞は3月9日の朝刊一面で『男尊女卑やゆ「さす九」SNSで拡散 九州の住民から「地域差別だ」の声』という記事を掲載。同記事を紹介したX投稿の表示回数は、14日時点で2.9億に達するなど大きな話題となっている。ネットの世界で「さす九」はどのように受け止められているのか──佐賀県唐津市に在住するネットニュース編集者・中川淳一郎氏が、自身の身の回りの経験も踏まえて「さす九」の実態についてレポートする。
* * * 西日本新聞は「九州差別は良くない」の文脈で記事を出したのでしょうが、これに反応したXユーザー(女性中心)が、次から次に「さす九」の実体験を書き込む事態になりました。もちろん「私はこんなこと経験したことない。私の夫は家事をちゃんとやっている」といった声もあるものの、九州の一部女性からの不満の声が顕在化したわけです。目についたものをまとめると、以下のような感じです。
・自分では家事まわりのことを何もせず、簡単なことでも妻にやらせる。何かやらせても感謝しない。 ・親戚の会合やら祭の際、大広間で酒を飲むのはほぼ男。女は召し使い的な扱いで、台所で料理をしながら、女だけで喋っている(これはこれでウザい男の話を聞かないで済むのでいい)。 ・結局“九州男児”の価値観を作るのは「母」で、嫁いびりをするのは「姑」。つまり「女」が「さす九」を作る。 ・風呂に入る順番は父親が一番、次いで男の子供。女はその後。 ・女が大学に行きたい、と言うと「そげなもん行かんでよか」と言われる。 ・やたらと女の年齢を聞いてきて、未婚だと「早く結婚しろ」と言われる。しかも駅のホームを含めた知らない人からも。 ・九州人の男とは結婚したくないから東京へ行った。
西日本新聞が意図したところとは異なり、「さす九」の酷い実態が次々と明かされる事態になったのです。この反応を見る限り、「さす九に共感する女性続々」という記事が出てもおかしくないくらいです。私自身の経験からも上記の特徴については、納得できる面も多々あります。
私の母は北九州市八幡東区出身で、私は幼稚園の頃から小学6年生まで毎年夏休みになると、東京から八幡に帰省していました。毎回2週間~1ヶ月ぐらいだったのですが、家で両親から言われてきたことと、八幡の祖父母から求められる行動が違うのです。帰省先の家には祖父・祖母・叔父(母の弟)・叔母(嫁)・いとこの女性2人(私より年下)の6人が住んでいました。たとえば私が一人で行った時の場合はこうなります。
食事の時間は祖父が指定した時間となり、配膳は祖父→叔父→私の順番で、その後に祖母といとこ2人が席に着きます。序列としてはとにかく「男が上」となっていました。仮に私がいとこより年下だったとしてもこの順番でしょう。
叔母は給仕係のように忙しなく動き、祖父と叔父が「お茶!」と言ったらすぐ注ぎます。ご飯や味噌汁をおかわりする時も叔母がよそいますし、ご飯が少し余った時にウニの瓶詰やら高菜漬けを冷蔵庫から持って来るのも叔母の仕事。食事が終わったら祖父と叔父はテレビを見に居間へ行く。私は母から教えられたように、食べ終えた食器を流しに運んだのですが、初日の夕食後に祖母からこう言われた。
「アンタ、男はそげんことせんでよか! 嫁女(よめじょ)にやらせりゃよか! はよテレビ見に行きんしゃい」
私の母は食べ終えたら食器は流しに置き、テーブルを拭くように姉と私に指導していました。当時、私の父親は海外赴任していて、我が家は実質3人家族でした。そこで普段やっていることをやっただけですが、祖母からはそれはやらないでいいと言われる。叔母は他の6人の食器を洗い終えた後、残ったものを一人で食べるのです。
どうやら私の母は、九州のこういった空気感と風習がイヤで東京へ進学したようです。時は1964年、女子の大学進学率が11.6%の時に東京の大学へ。そこではウーマンリブの活動家に傾倒したと言います。
母が祖父母宅に行った時は、叔母を手伝おうとします。すると祖母は「あんたはそげんことせんでよか」と言う。やはり「嫁女」を使い倒すもので、我が娘、そして孫娘はあまり働かせないで良い、と考えているようでした。叔母も「お義姉さん、いいですよ~」と言うのですが、母は「2人でやった方が早い」とやり取りしていたのを覚えています。
子ども時代のこうした経験は強く記憶に残っています。その後、東京やアメリカでの生活を経て、2020年に佐賀県唐津市に移住したのですが、「祝い事・祭りの時、男は大広間、女は台所」は毎度経験しています。女性でも客は大広間にいてOKですが、親戚の女性や手伝いで来た女性は台所です。「こっちで一緒に飲みましょうよ~」と誘うと「いいですよ~」と笑顔で遠慮される。そして、全員で今年の抱負を述べたりする時、女性陣は大広間に出てきますが台所に一番近い一角を彼女達で固め、控えめに座っている。中にはいつでも立てるように、膝立ちをしている人さえいます。
さすがにマンションでこのようなことはあまりないかもしれませんが、昔ながらの大きな一軒家・親戚が多い家ではこのような習慣は一部残っているのです。
東洋経済オンラインに掲載された《トップは46%!「離婚率」47都道府県ランキング》(2021年1月22日)の結果は、興味深いものでした。離婚するのには様々な事情があるでしょうが、「さす九」に愛想を尽かした女性の意向も影響しているのかもしれません。
1位は高知県の46.15%、2位は沖縄県の45.87%、3位は和歌山県の44.54%。最も低いのは東京都の27.45%で46位は石川県の29.59%です。九州はといえば、4位・宮崎(43.82%)、12位・大分(40.2%)、14位・鹿児島(40.06%)、18位・熊本(38.89%)21位・福岡(38.09%)、22位・長崎(38.01%、25位佐賀(37.11%)で佐賀以外の6県が上半分に入っています。
そうした中で、積水ハウスが2020年9月に発表した「イクメン白書2020」で紹介された「イクメン力全国ランキング2020」は“別の意味で”興味深い結果でした。ここでは1位・佐賀、2位・熊本、3位・福岡となっているのです。指標は「夫の普段の家事育児実践数」「妻が評価する夫のイクメン度」「夫の育休取得日数」「夫の家事・育児時間」「家事・育児に幸せを感じる夫」の5つで、2つ目の「妻が評価する夫のイクメン度」で佐賀が1位、熊本が2位となり、これが総合順位に寄与した格好です。「九州男児は家事をやらない」というイメージが根強い人にとっては驚くべき結果かもしれません。
この結果について九州の友人たちと語り合ったところ、こんな指摘がありました。
「妻が父親から酷い九州男児っぷりを見せつけられたから、さすがに時代が変わって自分の夫が『お父さんと比べれば夫は優しいし、家事も手伝ってくれる』ということで評価が高いのでは」
これには皆「確かにそれはあるかも……」と黙り込んだのでした。
【プロフィール】 中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう):1973年生まれ。ネットニュース編集者、ライター。一橋大学卒業後、大手広告会社に入社。企業のPR業務などに携わり2001年に退社。その後は多くのニュースサイトにネットニュース編集者として関わり、2020年8月をもってセミリタイア。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『縁の切り方』(小学館新書)など。最新刊は倉田真由美氏との共著『非国民と呼ばれても コロナ騒動の正体』(大洋図書)。
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