( 275249 )  2025/03/16 06:45:40  
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トランプ政権の批判で波紋を広げている「日本のコメの関税は700%」という問題に関連し、日本の「ミニマム・アクセス(最低輸入量)」制度が注目されている。

この制度は関税ゼロで77万トンのコメを輸入し、コメ価格の安定につながっているが、政府はこれを縮小しようとしている。

農水省は政府備蓄米の放出を検討しているが、コメ価格高騰が続いている中、農林水産相の江藤氏が食糧法に関する失言を繰り返し、政府のコメ政策の問題点が露呈した。

自民党と農水省は、ミニマム・アクセス米の廃止や供給量の減少を訴えているが、これは消費者のコメ価格上昇に対する無関心や競争力の欠如を示しており、農業政策の見直しが求められている。

(要約)

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国会 参院予算委員会で発言する江藤拓農林水産相(写真:つのだよしお/アフロ) 

 

 トランプ米政権が「日本のコメの関税は700%もある」と名指しで批判した問題が日本でも波紋を広げている。発言そのものはトランプ政権特有の「ディール」と推察されるが、ここで急速に注目を集めているのが「ミニマム・アクセス(最低輸入量)」というキーワードだ。日本は関税ゼロで77万トン輸入しており、(主に加工用や飼料用で使われることが多いものの)コメ価格の安定にもつながっている制度と言える。実はこれを縮小しようという動きが直近あったのをご存じだろうか。米価の上昇に苦しむ消費者を前に、なぜ政府はコメ供給を「減らす」方向へ進もうとするのか。その背後にある政策の実態を探る。 

 

 農林水産省(農水省)は、3月3日に政府備蓄米の放出に向けた入札を10日から12日に実施すると発表したが、コメの価格高騰は続いている。 

 

 そんな中、自民党と農水省の迷走ぶりを象徴するかのようなある事件が起きた。 

 

 2月28日の衆院予算委員会分科会で、日本維新の会の徳安淳子議員が政府備蓄米の放出について質問した。コメの店頭価格が高騰し、国民が購入しづらい状況を指摘したが、江藤拓農林水産相は「価格の安定なんて書いてありません、食糧法には」と4回繰り返した。 

 

 食糧法の正式名称は「主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律」であり、条文にも「価格の安定」の文言が20カ所近く明記されている。野党議員から「書いてある」とのやじが飛び、官僚も慌てて指摘したが、江藤氏は「はいはい。分かりました」と述べるにとどまった。徳安氏が「書いてあるのか、ないのか」と追及すると、「大変失礼しました。書いてありました」と訂正した。 

 

 江藤氏は1月31日の記者会見で「国会議員になってから目を通していたが、これほど隅々まで読んだことはない」と発言し、2月7日には「第3条2項、49条、1条を読み込んだ」と述べていた。しかし、実際の答弁では法律の基本的な内容を理解していないことが露呈するような失言であり、閣僚の資質を問う声が上がった。 

 

 

 農水省関係者は匿名を条件に、この江藤氏の失言をこう庇った。 

 

「江藤大臣は、自民党の中では自他ともに認める<政策通>とされていて、この失言は本人にとっても恥ずかしいものだろう。しかし、あえて江藤大臣の失言を庇うのであれば、これまでの自民党のコメ政策は、供給の問題でしか捉えてこなかったという経緯がある。自分の仕事をコメの供給をしっかりとしたものにすることとしか捉えていなかったことから、『価格の安定』という文言がすっぽりと抜け落ちてしまっていた。ここ数年、日本ではコメの不作が続いていたが、対策を取るどころか、自民党や農水省は価格が上がるとしてポジティブに受け止めていたのですから」 

 

 自民党と農水省の農業政策は、農家の自由を制限し、供給力を抑える減反政策を続けてきた。食料安全保障を確保するには、自給率100%を維持するのではなく、120%や140%といった余剰分を確保し、飢饉や不作の際に国内供給を安定させるほうが合理的である。 

 

 農家に自由を与え、競争力を高めることで、日本の農業全体の生産力向上につながる。しかし、政府は依然として規制を続け、農家の成長を阻害し、食料安全保障を脆弱なものにしている。 

 

 何より、消費者がコメ価格の高騰によって苦しめられていることにあまりに無関心であることは、江藤大臣の失言でもわかる。そして、この令和の米騒動のどさくさに紛れて、自民党と農水省は、まだまだコメの統制を続け、価格を上げようとしている。 

 

 それはミニマム・アクセス米の廃止だ。 

 

 ミニマム・アクセス(MA)米とは、1993年のウルグアイ・ラウンド合意に基づき、日本が一定量のコメを輸入することを義務付けられたものである。国内需要の割合に応じて段階的に輸入量が増加し、加工用、海外援助用、飼料用として利用されている。輸入により減反政策が進み、国内生産が縮小したと指摘されている。輸入量の多くが米国産であり、対米依存の象徴と批判されてきた。 

 

 その批判は多岐にわたる。ミニマム・アクセス米の流通を支配する多国籍企業(豊田通商、丸紅、三井物産、三菱商事、住友商事)を名指しし、「対米追随の農政」と結びつけたもの。ミニマム・アクセス米が日本の食料自給率を低下させているというもの。ミニマム・アクセス米の受け入れを「屈辱的な譲歩」と捉えて、国際経済における交渉の現実を無視した単純な発想に陥るもの。過去にあった不正転売事件をミニマム・アクセス米と強引に結びつけたもの。 

 

 いちいち、このレベルの低い批判に答えるのも面倒だが、職業作家としてこれらに向き合ってみたい。 

 

 まず、商社がコメの流通を担っているのは、当然のことであり、コメをたくさん作って海外へ売り込む際も、商社を使う機会が増えるだろう。小規模も多い農家が、商社を経ずにどうやってものを売ろうとするのか。 

 

 日本の食料自給率が低下している主因は、国内消費の減少と農業の競争力低下であり、ミニマム・アクセス米の存在の責任にするのは、八つ当たりに近い。不正転売事件や転売ヤー批判にも同じことが言えるが、問題の本質は、政府の検査体制の不備と業者の不正行為であり、これらはすべて論点をすり替えようとする悪質な印象操作に過ぎない。 

 

 そして今、自民党と農水省は、このミニマム・アクセス米の廃止を訴えている。 

 

 共同通信(2月12日付)の報道によれば、 

 

江藤拓農相は(2月)12日の閣議後記者会見で、日本が年間約77万トンを受け入れているお米のミニマム・アクセス(最低輸入量)について、縮小を求めて関係国との議論を始めたことを明らかにした。財政負担の軽減が目的。 

という。 

 

 

 ミニマム・アクセス米がダメな制度だったとしても、なぜ、コメの値段が高騰して、消費者から悲鳴があがっているこのタイミングで、コメの供給を減らす政策を開始するのか、誰もが疑問を持つことだろう。 

 

 これは冒頭の江藤大臣の失言にもあったように、コメの価格を下げようなどとこれっぽっちも思っていないという決定的証拠である。コメの減反政策に代表されるような供給量を規制するのをやめ、供給量を増やすことに専念すべきだ。 

 

 農政においては、「守る」(海外産の米を輸入するな)ということばかりが強調されるが、日本の農業品質は世界的に極めて高い。輸入も輸出も自由にすることで、「攻め」(海外輸出)に転じることができる。 

 

 国内の規制に縛られるのではなく、積極的に海外市場を開拓し、高付加価値農産物の輸出を拡大すべきである。 

 

 保護主義政策は中長期的に見れば産業の衰退を招くことは明らかであり、いずれにせよ競争力を高めるしかない。「生きがい農業を守る」のような感傷的なスローガンでは農業の再生の実現は難しいだろう。合理的な農政改革を断行し、持続可能な農業へ転換すべきである。 

 

 米の供給を増やし、貿易自由化を進めることで、農家の収入を向上させ、消費者には安定した価格で提供できる。現在、農水省が行っている政策はその真逆である。農家の収入を固定化し、長期的には下落させ、補助金依存を強める一方で、消費者にとっては米価の高騰を招く亡国の政策を続けている。 

 

 日本人にとって大切な稲作文化を、自民党や農水省は本当に守る気があるのか。むしろ、破壊しようとしているのではないかと疑わざるを得ない。 

 

執筆:ITOMOS研究所所長 小倉 健一 

 

 

 
 

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