( 275566 ) 2025/03/17 06:45:26 0 00 2022年10月31日撮影、東京都内の自動車ショールームに掲げられたトヨタのロゴマーク(画像:AFP=時事)
電気自動車(EV)市場には賛否が渦巻いている。一般的にEVは環境性能が高いとされるが、その評価はどの基準で測るかによって大きく変わる。「Tank to Wheel」、つまり駆動用バッテリーからホイールまでのエネルギー効率やCO2排出量の観点では、EVの環境性能は高く評価されがちだ。
しかし、「Well to Wheel」、すなわち
・化石燃料の採掘から輸送 ・燃料の生産 ・発電 ・送配電
までを含めたエネルギー効率やCO2排出量を考慮すると、状況は異なる。原油の供給源や燃料の種類によってエネルギー消費量やCO2排出量が変動するため、必ずしもEVが環境に優しいとはいえないという指摘も多い。さらに、EVはエンジン車に比べて部品点数が約3分の1に減ることで、産業構造の大きな変化をもたらす。この点を懸念し、経済的観点からEVに異を唱える声も少なくない。
こうしたなか、トヨタ自動車は3月12日、欧州で2025年に新たに3車種のEVを発売すると発表し、米国のテスラや中国メーカーに対抗する姿勢を明確にした。この発表を受け、国内の「EV批判派」の反応が鈍っている。
これまでEV批判派、特に熱烈なエンジン車支持者たちは、上記などの理由を含め、ネット上でEVを感情的に批判する傾向が強かった。しかし、今回のニュースに対しては、その勢いが極端に弱まっている。コメントを見れば明らかだ。その行動は一貫性を欠いているようにも見えるが、なぜなのか。
なぜ彼らはトヨタのEVへの批判を緩めているのか。本稿では、その背景や構造について掘り下げる。
購入したいEVのメーカーに関する調査(画像:モニタス)
筆者(北條慶太、交通経済ライター)は長年にわたりEVの動向を追い続けてきた。その経験から、日本のEV批判派の実態は「EV批判」ではなく、むしろ
「外国車批判」
に近いと感じている。そう考えれば、今回の矛盾もつじつまが合う。
モニタス(東京都港区)が2022年8月に公表した「電気自動車に関する調査」によると、全国の20~60代の自動車保有者を対象に実施されたインターネット調査(対象者3000人)で、今後購入したいEVのメーカー1位は「トヨタ」(29.4%)、2位が「日産」(23.4%)、3位の「テスラ」は5.7%にとどまった。このことからも、日本車に対する支持が圧倒的に高いことがわかる。国産EVを選ぶ理由としては、
「信頼・安心感がある」 「環境に優しそう」 「メーカー・ブランドが好き」 「国産だから」
といった声が上位に挙がっている。筆者がかつてさまざまな事業者にヒアリングを行った際、彼らの多くが
「国産EVが登場すれば導入を検討する」 「海外製EVはあくまでつなぎで、国産EVを待ちたい」
と回答した。国産EVへの期待は高く、業界内でも好意的な反応が目立つ。こうした現場の声からも、日本のユーザーが国産EVに強い関心を寄せていることがわかる。一方で、
・乗用車市場:テスラ ・商用車市場:BYD
といった外国製EVが急成長し、日本市場に影響を与えている。この状況に対する不満も根強く、
「日本の自動車業界がEV開発で遅れを取っている」
ことへの悔しさが、EV批判という形で表れている構図が見えてくる。いわば“自動車ナショナリズム”とも呼べるだろう。
自動車産業は日本経済を支える基幹産業であり、その成功は「ものづくり大国・日本」の象徴とされてきた。日本メーカーが海外市場で評価されることは国の誇りにつながりやすく、逆に批判を受けると「日本への攻撃」と捉えられることもある。
特に、日本車の品質や技術力は長年にわたり世界的に高く評価されてきた。そのため、海外EVメーカーの台頭に対してナショナリズム的な反発が生じやすい。「日本車は世界一」という意識が根強く、EVや新たなモビリティの潮流が進むなかで「日本の自動車産業を守れ」という
「感情的な議論」
が起こりやすいのも特徴だ。もしトヨタが国際EV市場で先行していたなら、EV批判派の勢いはとっくに収束していただろう。
「C-HR+」(画像:トヨタ自動車)
もう一度前述のデータを見てみよう。将来購入したいと考える電気自動車のメーカーで、国内では「トヨタ」が29.4%の支持を集めている。つまり、100人中30人はトヨタのEVを購入したいと考えている計算だ。
トヨタは約30年前の1997(平成9)年にプリウスの第1弾を市場に投入しており、ハイブリッド車の先駆者として、電動化技術の研究が長年にわたり蓄積されてきた。この結果、プリウスはモデルチェンジを重ね、社会から一定の評価を得てきた。トヨタの参入は、まさに
・日本の自動車業界への信頼 ・日本の自動車電動化技術への信頼
を象徴するものである。
2025年後半から欧州で発売予定の「C-HR+」は、改良されたふたつのリチウムイオンバッテリーを搭載し、バッテリー容量57.7kWh仕様で航続距離455km、77.0kWh仕様で600kmを実現するとしている。急速充電時間も約30分を目指して開発されており、十分な競争力を備えている。
トヨタが発表したこのEVの仕様は、国際的に優れた競争力を持ち、走行距離や充電速度の向上は、日本の技術力を世界に示す絶好の機会となるだろう。この技術開発と仕様のデータは、日本の自動車技術をアピールする要素となっている。
前述の調査結果には、もうひとつ注目すべき傾向がある。3年以内に車を買い替える予定のある人のうち、84.4%がEVに興味を持っているものの、そのうち41.5%が「購入したいと思う」と回答し、42.9%が「興味はあるが購入したいとは思わない」と回答。購入意向が分かれる結果となった。日本人の日本車志向が強いことから、
・適切な国産EVの選択肢がない ・「Well to Wheel」の観点でまだ魅力を感じない ・メンテナンス体制に関して海外製主流である
への不安が、購入に消極的な理由となっていると考えられる。日本国内でのEVに対する消費者の受け入れ態度は長年二分されてきた。しかし、今回のトヨタの動きが
「日本の自動車業界がEV開発で遅れを取っている」
という感覚を解消するかもしれない。
トヨタ自動車の本社(画像:AFP=時事)
日本人には内向きな傾向があり、海外製品に対して懐疑的であり、日本製を重視する文化が根強い。これは自動車だけでなく、電気製品にも共通する傾向である。
しかし、国内でEV市場を拡大するためには、国際市場でEV技術をアピールし、日本の技術が内外で確立されていることを示すことが重要だ。テクノスケープ(テクノロジーのシステムによって人間が作り出した構造物が生み出す環境)を創出し、日本人の納得感を引き出すことが最も効果的だと考えられる。
EV批判は技術的な問題だけではなく、政治的・文化的背景にも起因している。EVの開発や普及に関する財政的措置や政治面での課題、日本製に対する価値観の改善、さらには教育改革など、複数の社会的課題が絡み合っている。
今後、トヨタの動きが国際EV市場に与える影響や、日本の自動車業界への信頼回復に繋がる効果を冷静に見守る必要がある。
北條慶太(交通経済ライター)
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