( 275816 ) 2025/03/18 06:06:42 0 00 (c) Adobe Stock
共同通信によると、「ホワイトハウスのレビット報道官は11日の記者会見で、貿易相手国と同等の関税を課す『相互主義』を唱えるトランプ米大統領の主張に言及する中、『日本がコメに700%の関税を課している』と語った」。なぜこんなことになっているのか。経済誌プレジデントの元編集長で作家の小倉健一氏は「この問題についてはアメリカが悪いというのは一方的で、客観的にみて、悪いのは日本の農水省と自民党である」と指摘する。一体どういうことなのかーー。
トランプ政権がまたおかしなことを言い出したとでも言いたげな、日本の報道があった。引用のあとに、詳しく述べるが、この問題についてはアメリカが悪いというのは一方的で、客観的にみて、悪いのは日本の農水省と自民党である。
<トランプ米政権は11日、日本はコメに対する関税が「700%もある」と名指しで批判した。引用した数字は国が一定量を無税で輸入する仕組みを考慮せず、関税率も10年以上前の古い水準をベースにしているとみられる。日本国内から反発を招く可能性がある。/レビット大統領報道官が記者会見で、貿易相手国が高関税を設定している代表的な品目として「日本のコメの関税は700%もある」と説明した。>(日経新聞電子版、3月12日)
<米ホワイトハウスのレビット報道官は11日の記者会見で、「日本を見てほしい。コメに700%の関税を課している」と批判した。カナダが米国産の農産物に課している関税を批判する文脈で、インドの関税に言及したうえで、日本のコメに一言触れた。レビット氏は「700%」という関税率の算定根拠については言及しなかった>(朝日新聞、3月12日)
しかし、2013年まで、日本の農水省と自民党は、国内に向けて「お米の関税は778%」だと虚偽の説明を続けてきた経緯がある。そうしたプロパガンダが功を奏したのか、チャットGPTなどでも間違った認識が起きていることを私は確認している。トランプ政権の報道官も、そうした経緯から誤認してしまったのであろう。ちなみに、民間企業が外国からコメを輸入する場合、1キロあたり341円の関税がかかるのがファクトであり、そもそも「%」を説明に用いるのは不適切であり、国民、農家、もしくは外国の交渉担当を騙す意図があったと断じる他ない。
日本の農業政策は、国際交渉の場で一貫して問題を引き起こし、特にアメリカには、日本の農家への隠蔽工作を依頼するようなことまでしてきた。米国との交渉の歴史を振り返ると、農林水産省と自民党が国民の利益ではなく、自らの政治的都合を優先し続けたことが明白である。
1993年、日本はコメの輸入を一部認めることを決めた。これは「ウルグアイラウンド」という国際的な貿易交渉の結果だった。1980年代後半から90年代前半にかけて、世界の100以上の国や地域が参加して進められた交渉の中で、日本はコメの市場開放をめぐり、アメリカと激しく対立した。日本は「自国の農業を守るためにコメの輸入を制限する」と主張し、アメリカは「それは不公平だ」と強く反発した。
1993年2月、渡辺外相とアメリカのクリストファー国務長官の会談で、日本側は「日本ではコメの輸入に国民が強く反対している。政治的に輸入を増やせば、選挙で負けてしまう」と説明した。アメリカ側は「日本の市場は不公平にコントロールされている」と批判し、開放を求めた。4月には宮沢総理とクリントン大統領の会談も行われたが、日本側は「過去に牛肉などの輸入を自由化したことで選挙に負けた」として、さらに市場開放を拒んだ。まるで「アメリカの要求を受け入れたせいで、自民党が弱くなった」と言わんばかりの態度だった。
この後、日本では細川政権が発足し、交渉が続いた。最終的に、GATT(関税及び貿易に関する一般協定)のドゥニ議長が「調整案」を出した。この案は、日本がコメの全面自由化をしない代わりに、一部の輸入を義務付ける「ミニマムアクセス」という仕組みを取り入れるというものだった。しかし、この案は事前に日米の間で話し合いが行われ、GATTに発表させる形で進められていた。国内の反発を抑えるために、日本政府は「国際機関の提案」という形を取った。
交渉の中で、日本政府は何度も国民を欺くような発言をした。例えば、宮沢総理は「コメの話はなかったことにする」と言い、交渉の内容を隠そうとした。さらに、細川政権では、与党の一部である社会党が強く反対し、交渉はますます混乱した。政府は「決まったことはない」と繰り返し、国民には何も説明しなかった。
交渉の終盤、日本は「非貿易的関心事項」という文言を交渉に盛り込むことを求めた。これは「貿易のルールだけでなく、各国の食料事情も考えながら進める」という内容で、国内向けに「これでコメの輸入が急増することはない」とアピールするためのものだった。羽田外相はこの条件を最後まで主張し、結果的に「ミニマムアクセス」を受け入れることで交渉は決着した。
しかし、日本はこの交渉の後も農業政策を大きく変えることはなかった。EU(ヨーロッパ連合)は自ら農業改革を進めたが、日本は「国内の反発を恐れて」何も手を打たなかった。減反政策の結果、日本の農業の競争力は弱まり、消費者にとっても不利益となった。農林水産省は、日本の農業を守るのではなく、政治家や役人の都合を守るための政策を続けた。
農水省と自民党は、ウルグアイラウンド交渉で「お米の関税は778%」と発表し、「関税化しても米は入ってこない」と主張したが、これは国内の農家の反発を避け、票を失わないための発言だった。同じように、近年のTPP交渉では「お米の関税は280%」と説明し、「将来関税をゼロにしても影響は少ない」と言ったが、これも国内農家を怒らせないための対応に過ぎなかった。こうした対応は、典型的な二枚舌と言える。
農業保護政策は本来、農家を守るために存在する。しかし、長年にわたり日本で続けられてきたコメの保護政策は、実際にはコメ農家に大きなダメージを与えてきた。農林水産省と自民党は、農業を支えるという名目のもとに非効率な制度を維持し、結果的に農家の競争力を削ぎ、国際市場での成長機会を奪ってきたのだ。
2010年のデータを用いた分析(農林業問題研究第54巻第3号『農業保護政策の国際競争力に対する効果分析』2018年)では、農業保護が強くても国際競争力が高くはないことが明らかになっている。日本の名目助成率は0.82と世界でも最高水準。一方、国際競争力を示すRTA(Revealed Trade Advantage)は−1.02。農業補助がほとんどないアメリカやオーストラリアはRTAが正の値を示し、輸出競争力を維持している。
農林水産省と自民党は、高い補助金と関税を維持すれば日本のコメ農家が守られると主張してきた。しかし、実際には国内市場に閉じ込められたコメ農家は、経営についての自由を失った。
農水省と自民党は、国際交渉の場でも農業保護を口実に妥協を繰り返してきた。
日本のコメ市場は外部と切り離され、技術革新が進まず、コメ農家の自立を妨げた。農業保護政策が長期的に農家にダメージを与えてきたことは、国際的なデータからも明らかである。農業保護が強化された場合、貿易量は減少し、経済効率が損なわれる。輸出を増やし、農家が自立するための環境を整えるのではなく、国内市場の保護を最優先し、結果的に農家を国際競争から遠ざけた。農水省と自民党の政策は、農業を守るどころか、農家の未来を奪うものだった。
農水省と自民党は、農家のためではなく、自らの政治的利益のために農業保護政策を利用し続けてきた。その結果、コメ農家は競争力を失い、消費者は高い価格を負担し、日本の農業は衰退した。二枚舌まで使って騙し続けた政策の失敗が、今もなおコメ農家と消費者を苦しめている。
小倉健一
|
![]() |