( 275839 )  2025/03/18 06:37:30  
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商品券問題における石破氏の対応で問題があった点は、法的解釈だけでなく倫理観が求められる時代であることと、石破氏特有の「ねっとり構文」が不適切であったことです。

商品券問題に関して、石破氏はポケットマネーから支出したことは法的に問題がないと主張しましたが、倫理的な観点から見て適切であったかどうかが問われています。

石破氏の対応は適切ではなかったと指摘されており、時代の変化や国民の感情に即した誠実な対応が求められています。

(要約)

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商品券問題をめぐる石破氏の対応は、何がマズかったのか(写真:© 2025 Bloomberg Finance L) 

 

 石破茂首相の事務所が、自民党の新人議員に対して、10万円相当の商品券を配布したことが問題視されている。受け取った議員は全員返還し、石破氏はポケットマネーからの支出で、法的には問題がないと話しているが、野党などは攻勢を強めている。 

 

 ネットメディア編集者として長年、著名人の「失言による炎上」を見てきた筆者からすると、大きく2つのポイントから悪手であると感じた。「法解釈ではなく倫理観が求められる時代」であることと、持ち味でもある「ねっとり構文」が不祥事対応に適さないことだ。 

 

 いずれの要素も、受け取る側が「言い訳」に感じてしまう可能性があり、SNSで感情ベースのやりとりが増えている現代社会においては、むしろ避けるべきなように感じられる。そこで今回は、商品券問題をめぐる石破氏の対応について、何がマズかったのかを考えたい。 

 

■「ポケットマネーで」法的問題ないとの認識 

 

 商品券問題は、2025年3月13日に各社から報じられた。 

 

 2024年10月の衆院選で初当選した1年生議員に、会食の土産代わりに1人10万円相当の商品券を配布したとの内容で、後に配られた15人全員が返却したとの続報が流れた。 

 

 石破氏は報道直後に自ら、報道陣の取材に応じた。 

 

 そこでは、商品券はあくまでポケットマネーで用意したものであり、政治活動に関する寄付にはあたらないため、政治資金規正法違反などには抵触しないとの認識を示している。 

 

■「政治と金」で揺れる自民党 

 

 自民党はここ数年、「政治と金」で揺れている。政治資金パーティーをめぐる「不記載」問題により、ほとんどの派閥が解散し、総裁だった岸田文雄氏は、党再生を理由に首相を辞任。 

 

 後任となった石破執行部は、不記載と認定された衆院議員を非公認として、先の総選挙を戦った。 

 

 石破氏は、長年にわたる党内での冷遇などから、自民党改革の旗頭となるようなクリーンなイメージが付いていた。 

 

 しかし今回、党をめぐる問題の根幹にある「金まわり」でのスキャンダルが明らかになったことにより、SNS上では失望する声が多々出ている。 

 

 野党議員も、ここぞとばかりに、倒閣や政権交代に向けて躍起になっている。 

 

 

■たとえ違法性がなくても「倫理的に適切かどうか」 

 

 「炎上ウォッチャー」である筆者からすると、こうした不祥事の際、うまく乗り切れる対応には、いくつかパターンがある。 

 

 まずは、「すぐさま自らの声で説明する」ことだ。その点において、報道当日にコメントした石破氏は、評価に値すると言えるだろう。加えて、報道内容を認めた点もプラスに働く傾向にある。 

 

 しかし、石破氏がマズかったのは、その後に「私費であるため法的に問題はない」と、自らの認識をもとに、正当性を主張した点だった。 

 

 今回問題視されているのは、「法的にOKかNGか」以上に、「時代背景に沿った行為だったのか」だ。たとえ違法性がなくても、倫理的に見て、適切かどうかが判断基準となる。 

 

 その点において、報道後初めてとなるコメントは、その要求を満たせるような回答ではなかった。せめて、違法性の見解に加えて、「時代にそぐわない行為だった」と認めていれば、国民の印象も変わっていただろう。 

 

 石破氏は「熟議型」のスタイルで知られ、首相就任後も論理的かつ慎重に議論を進める姿勢が評価されてきた。その原動力が、絡みつくような口調の、いわゆる「ねっとり構文」だ。 

 

 微に入り細をうがつような話し方は、かつての「国民人気は高いが、党内支持は低い」といった評価にもつながる。 

 

 しかし今回の報道対応においては、これが裏目に出たように感じられる。おそらく石破氏は、政治家として「法解釈」を説明することが、この場にとって最善な対応だと考えていたのだろう。 

 

 ただ、それは「キッパリとした謝罪」を求めるネット時代の世論には、あまり適した手法ではない。「言い訳がましい」「開き直りだ」などと受け取られ、逆効果になってしまったのではないか。 

 

■「永田町の当たり前」を「国民の当たり前」にできず 

 

 宰相に重要な要素は「一般国民とのギャップ」を、いかに機敏に感じ取るかだ。石破氏は「冷や飯」の過去から、自民党内での異端児としてのイメージが定着しているが、一方では「昭和に初当選した自民党の世襲議員」でもあることを忘れてはいけない。 

 

 鳥取県知事や参院議員を歴任した父の死後、田中角栄元首相から背中を押されて、政界入りした。もちろん世襲議員であっても、それがプラスになる部分もある。地盤(支持者)、看板(知名度)、カバン(資金)を開拓しなくていい立場ゆえに、目先だけではない長期的なビジョンのもと、政策重視の活動ができるのは、2世・3世の強みだ。 

 

 

 自民党内にありながら「スレていない誠実な政治家」といった印象が作られていったのも、まさにこうした「世襲ゆえの余裕」があったからだろう。しかし、国のトップである首相の立場は大きい。国民から向けられていた同情は、権力者に対する鋭い目に変わっていく。その変化にどこまで対応できていたか、今回の対応では疑問が残る。 

 

 首相就任から、すでに半年近くが経過している。時代に合わせて感覚をアップデートするには、それなりに十分な準備期間だろう。もちろん40年近い議員人生で育んだ「永田町の当たり前」を、わずか数カ月で一変させることは難しい。ならば、事務方がしっかりコントロールして、令和の時代に合った「国民の当たり前」に引き戻すべきだった。 

 

 筆者は総裁就任時に、石破氏が「イジられ宰相」のポジションを確立できれば、長期政権も想定されるとの見立てを示した。それと同時に「どこか『古い政治』の面影がちらつく」「『昭和の自民党』の系譜にあることは間違いない」との警鐘も鳴らしていた。結果的には、悪い予想が当たったと言えるだろう。 

 

■「古い自民党」×「ねっとり構文」で全て悪い方向へ 

 

 ネットの反応を見る限り、これまで石破氏に政治改革を期待していた人々は、今回のことで「石破さんも結局、古い自民党議員だったのね」と失望している。繰り返すようだが、国民は法的見解ではなく、「私がどう感じたか」の道徳や倫理観を物差しに見ている。 

 

 今後もし、商品券について司法判断に委ねて、石破氏側の勝訴で確定したとしても、「あの時に言い訳をした人だ」との認識は拭えない。 

 

 かつては可視化されなかった「有権者のお気持ち」が、SNSによって共有されるようになった。少しでも「納得できない余地」を残してしまうと、そこから不信感が広がり、ネット空間で増幅される。 

 

 昨秋の衆院選は、自民党にとって苦しい戦いとなり、結果として30年ぶりの少数与党政権となった。今回、商品券が渡されたとされる新人議員は、いずれもそんな逆風を乗り越えて、永田町にやってきた。つまり、「時代に合った風を吹き込んでくれる」といった期待を背負って、議席を託された人々だ。 

 

 

 彼ら彼女らは、旧態依然とした自民党、そして政界を変えるために送り込まれた。そんな新人議員に商品券を渡せば、どう見られるか。せっかく派閥を解体したにもかかわらず、「派閥の領袖(りょうしゅう)から渡される餅代」だと感じさせてしまえば、親分・子分の関係性に逆戻りしてしまう。党再生から遠ざかるおそれがある行為だと、石破氏も周囲も、気が回らなかったのだろうか。 

 

 こうして考えてみると、今回の対応からは、発想も事後対応も「古い自民党」から脱却できていない現状が見受けられる。そこに石破氏の「ねっとり構文」が掛け合わさった結果、全てが悪い方向へと傾いてしまった。世間とのズレを認めて、一言だけ「時代に合わなかった。申し訳ない」で終わらせていれば、まだ傷は浅かっただろう。 

 

城戸 譲 :ネットメディア研究家・コラムニスト・炎上ウォッチャー 

 

 

 
 

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