( 276294 )  2025/03/20 05:03:25  
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大阪・関西万博の会場で、木製の大屋根「リング」の下で海水による地盤の浸食が発生していることがわかった。

海に囲まれた人工島の夢洲で開催される万博会場では海水が注入され、水面が広がっているが、会場内で海水に浸食された護岸が発生しており、対策が必要となっている。

降雨時には駐車場が水浸しになるなど、会場の地盤の問題も指摘されている。

(要約)

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空から見た万博会場。円形の「リング」の左外側の水面が「つながりの海」。リングの内側の水面が「ウォータープラザ」 

 

 大阪・関西万博で、また新たな不安要素が出てきた。万博の最大の目玉とされている木製の大屋根「リング」の足元で、海水による地盤の浸食が起きていたことがわかった。 

 

 万博は、海に囲まれた人工島の夢洲(ゆめしま)で開催される。この立地を生かそうと、万博会場の一部には海水が注入され、水面が広がっている。海水が入れられたのは、大屋根「リング」の外側にある「つながりの海」と、「リング」の内側にあり水中ショーなどが予定されている「ウォータープラザ」だ。 

 

 ところが日本国際博覧会協会は3月10日、会場内で海水と接する護岸の一部の盛り土が、海水に浸食されていると発表した。「つながりの海」と「ウォータープラザ」の護岸あわせて約1100メートルのうち、半分以上の約600メートルの護岸が海水に浸食されたという。水を入れるために造った場所に、実際に水を入れたら護岸が崩れてしまったという、おそまつな話だ。 

 

■「崩落が日ごとに拡大していった」 

 

 護岸が浸食されているのを見たという現場の作業員Aさんは、こう証言する。 

 

「私がおかしいと思ったのは、2月末か3月初めでしたね。海岸通りと呼ばれている、万博で人気になりそうなパビリオンが集まっている場所から見たところ、護岸の土が崩落していて、日ごとに拡大していきました。現場からも『大丈夫なのか』と声があがっていた。3月5日か6日には、海岸通りあたりにけっこう多くの関係者が集まり、写真を撮ったり、相談したりしているのを見たので、ヤバイんじゃないかと感じました」 

 

 協会によると、浸食の原因は、「風の影響により水面の波が高かったため」と「ウォータープラザとつながりの海の水位差により水の流れの発生」があったことだとしている。会場内に入れた海水には波も流れも起きず海水に浸食されることはないと想定していた、ということのようだ。 

 

■注水の2日後には浸食を確認していた 

 

 3月13日の参議院内閣委員会で、立憲民主党の石垣のりこ議員がこの問題をとりあげて質問した。まず浸食がいつ、なぜ発生したのかを問うと、経済産業省幹部は、 

 

「護岸の浸食を確認したのは2月19日」 

 

 と答弁。ポンプで海水を注水し始めたのは2月17日なので、わずか2日後には浸食を把握していたことになる。 

 

 浸食の原因については、 

 

「波の高さが想定以上に高くなってしまった」 

 

 などと答えた。これに対して石垣議員が、 

 

「風が吹いて波が立つことを想定できなかったのか。想定できなかったのは問題ではないか」 

 

 と、さらに追及すると伊東良孝万博担当相は、 

 

「私も現場の視察をしてきた。なぜコンクリートか何かで(護岸を)固めなかったのかと思う。ごくごく当たり前の波がきたら崩れてしまうように思った」 

 

 と、想定すべき波への対応ができていなかったと問題を認めた。 

 

 建築エコノミストの森山高至氏はこう話す。 

 

「海水で土砂が取られる『洗掘』という現象ではないか。一般的には、盛り土の上をコンクリートで固めるなどして補強をする。なぜ補強していないのか不思議でならない。それでなくとも、万博会場は地盤が弱いことが指摘されており、どんなアクシデントがあるかわからない。夏場に台風が来ればもっと波は高くなる。開幕前からこんなことで、半年間、無事に開催できるのか」 

 

■雨が降ると池になる駐車場 

 

 AERA dot.では、これまでも万博会場の地盤の問題を指摘してきた。 

 

 昨年4月には会場予定地の水はけが悪く、雨が降ると池のように水がたまってしまう状況をリポートした(記事)。朝から断続的に雨が降った日、それほどの豪雨でもないのに、万博会場の北に位置する駐車場には水がたまり、車が出入りするたびに波打ち、長靴で歩く作業員の姿があった。 

 

 当時、話を聞いた作業員のBさんは、こう話していた。 

 

「雨が降ると池かと思うほど水浸しになるので、車にはいつも長靴を積んでいます。それほど水はけが悪い地盤なんです。万博会場の北側、大手ゼネコンが請け負っている区域の駐車場はとりわけ水がたまりやすく、雨が降るとポンプを設置して、排水をしてなんとかやっている。工事にも影響しています。万博期間中に豪雨が降ったらどうなるんでしょうか」 

 

 

■会場の地盤は「底なし沼」 

 

 また、地盤の脆弱さも報じてきた。 

 

 協会が2022年9月に開場予定地で実施したボーリング調査のデータを見ると、一部の場所では20メートル過ぎまで強度が乏しいゆるゆるの地盤が続いていた。一般的なマンション建設の場合、鉄骨を地中に打ち込み「支持層」と呼ばれる固い地層に届くまで10~20メートルとされているが、万博会場には地中、20メートルまで深く打ち込んでも、支持層がない部分があるのだ。 

 

 今回の護岸の浸食を受けて改めてBさんに聞くと、こんな話をする。 

 

「会場の地盤は、地中のある地点までくるとズルズルと沈み込むような感じ。現場ではみんな、『底なし沼だな』と言ってました。盛り土をしたところでも、強度があまりない地盤なので浸食したのではないかと思います。私が去年、現場にいた時、『盛り土では無理でコンクリートなどを打たないとダメではないか』という声を聞いたこともあります」 

 

 護岸だけでなくリングを支える地盤自体に影響はないのか。協会はホームページでこう説明している。 

 

「約2mの盛土の下に約1.5mの地盤改良層があり、基礎構造は杭基礎となっています。杭は地中約60m付近の固い地盤で支持しており、杭の上部に基礎を設け、基礎と基礎を連結する基礎梁でリングを支える構造となっています。浸食の影響を受けず大屋根リング自体の構造は安定しています」 

 

 60メートルも下の地盤まで杭を打って支えているため、安全性に問題はないという。 

 

 今後は浸食した護岸を砕石で覆うなどの対策を検討しているというが、護岸を補強する工事費用はどうなるのか。 

 

 万博の建設費は、当初1250億円だったのが、最大2350億円まで膨れ上がった。そのうち災害や物価上昇などに備える「予備費」が130億円あったが、すでにメタンガスの爆発事故対策費用や予定されたパビリオンが減ったことによる土地の転用費用などに半分ほど支出されることが決まっている。それだけに、護岸工事でさらに予備費が使われ、開幕前から予備費が乏しくなってしまうのではないかという懸念がある。 

 

 これについて協会副会長でもある大阪府の吉村洋文知事が報道陣の質問に答えて、 

 

「予備費を支出しなくても、予算の執行の差で対応できると思う。(工事は)大掛かりなものではないと聞いている」 

 

 と説明した。 

 

 さまざまな問題が噴出しながらも、協会は「問題はない」「安全だ」と繰り返し、万博はもう開幕直前だ。失態を万国に博覧されることにならなければいいのだが。 

 

(AERA dot.編集部・今西憲之) 

 

今西憲之 

 

 

 
 

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