( 276359 )  2025/03/20 06:18:46  
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1990年代から2000年代の雇用環境が厳しい時期に新卒が就職活動を行い、「就職氷河期世代」と呼ばれる世代が生まれた。

この世代には国の支援が必要だとの声が高まっており、厚生労働省や各種窓口で支援策が提供されている。

ただし、国の支援だけではなく、人口減少や企業数の減少といった日本の産業構造の問題も根本的に改革する必要がある。

就職氷河期世代が苦しむ背景には、人口減少や中小企業の業績低迷が関連しており、企業の成長や雇用の受け皿拡大が必要だと指摘されている。

(要約)

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「就職氷河期世代」が生まれた原因は? 

 

 1990~2000年代の雇用環境が厳しい時期に就職活動を行った、いわゆる「就職氷河期世代」に対して国がもっと支援すべきだという声が盛り上がっている。 

 

 分かりやすいのは、TBS系の報道番組『news23』が放映した『「初任給12万円」「内定取り消し」…“報われない”就職氷河期世代 どう支える? 若い世代に深刻な影響が…』(TBS NEWS DIG 3月14日)である。 

 

 VTRには47歳で転職活動中の人や45歳で無職になってウーバーイーツ(Uber Eats)の配達員などをして生計立てる人、50代で非正規公務員として週4日働いて手取り12万円の人などが次々と登場して、新卒からの現在に至る“報われない半生”を振り返っていた。同世代の人間(筆者)として、胸が締め付けられるような思いで視聴した。 

 

 これを受けて「TBS NEWS DIG」アプリの中で「就職氷河期世代」へ支援は必要かとアンケートを取ったところ「必要」(41.6%)と「事情を勘案し支援すべき」(42.7%)を合わせると、なんと8割以上の人が、何かしらの支援が必要だと考えていた。 

 

 この「就職氷河期世代に愛の手を」というムードは、実は2024年から盛り上がっている。例えば、厚生労働省では「就職氷河期世代の方々への支援」という特設Webサイトを開設し、ハローワークのほか、49歳まで利用できる「地域若者サポートステーション」「ひきこもり地域支援センター」など各種窓口を案内している。 

 

 ただ、個人的には就職氷河期世代が貧しいのは「国の支援」などで解決できるものではない、と考えている。 

 

 「はいはい、自己責任論ね。そうやって弱者を切り捨てる時代じゃないんだよ」というお叱りが飛んできそうだが、筆者が「国の支援」を否定しているのはそういう観点ではない。 

 

 もし仮に先ほどのニュース番組で取り上げられたような「報われない人生を歩んできた40~50代」に対して経済的支援、キャリアアップ支援、就職支援などの手厚いサポートをしたとしよう。今の日本にそんな財源はどこにあるのかという問題はあるが、潤沢な予算が就職氷河期世代対策に注ぎ込まれたとしよう。 

 

 それによって正社員になれたとか、収入が上がったという人も多少は増えるかもしれない。しかし、ほとんどの人は支援を受けた後も、今とそれほど変わらない人生を送るはずだ。この人たちの能力や努力が足りないという話ではない。 

 

 人口減少によって、日本の「働き先」もどんどん減少しているからだ。 

 

 経済産業研究所が公開しているコラム『企業も少産多死の日本 ~画一的中小企業政策の終焉~』で端的に説明されているので引用しよう。 

 

日本全体の企業数は、1990年を100とすると、2005年には82、2015年には74にまで減少した。(中略)2040年までの企業数、従業者数をシミュレーションした結果によると、企業数は、今後10年でさらに減少し、1990年を100とすると、2025年(予測)には58と半減する。 

 

 これだけ会社が減れば当然、雇用も減る。この状況を分かりやすく例えるなら、今の日本は「イス取りゲーム」で、プレーヤーの数に対してイスが圧倒的に少ない状態だ。座れないで途方に暮れている人を「一緒にイスを探しましょう」「イスに早く座れるように練習しましょう」と支えたところで意味はない。 

 

 つまり、国が本当に手を付けなくてはいけないのは、このイス取りゲームの環境を根本的に変えて「あぶれた人が座れるイスを増やす」ことなのだ。 

 

 「いやいや、確か今の日本は人手不足だったろ」という人も多いだろうが、それは介護、建設、農業などのいわゆる「不人気業界」に限定した話だ。給料が安くて体力的にもハードなので、40~50代の就職氷河期世代も足が遠のいている。だから「外国人労働者」を拡大せよという話になっているのだ。 

 

 ちなみに、この問題も「イスを増やす」という視点で考えればやるべきことは見えてくる。介護、建設、農業など「人手不足業界」の最低賃金をしっかりと引き上げ、外国人労働者への依存度を低下させるのだ。ハローワークの紹介やリスキリングより、低賃金と苦しむ就職氷河期世代にとってはそちらのほうがよほどありがたい。 

 

 

 そういう日本の産業構造が抱える問題に手を付けず、「就職氷河期世代はかわいそうだから税金で手厚いサポートを」なんてやっても「焼け石に水」で、毎度おなじみの税金の無駄使いになってしまうだけだ。 

 

 では、なんでこのようなピントのズレた解決策が令和の日本で盛り上がっているのかというと、そもそも日本人の「就職氷河期世代」というものへの認識がズレているからではないかと思っている。 

 

 就職氷河期世代関連のニュースを読むと分かるが、この言葉には必ず「バブル崩壊によって」とか「景気低迷による」という枕詞が付く。 

 

 つまり、この世代が新卒時に自分の望む企業に就職できなかったのは「日本経済の失速が原因だ」という認識だ。しかし、これはミスリードだ。確かにバブル崩壊や景気低迷も無関係ではないが、今の40~50代が「就職氷河期世代」になることは、ある意味で分かりきっていた。 

 

 日本に人口減少の弊害が表れてくるタイミングであり、なおかつ「社会に巣立つ人口」の多い世代だったからだ。 

 

 先ほどから言っているように、人口が減れば企業は減る。当たり前だ。従業員も消費者も減る。人口が減っているのに、会社の数だけが増えていくなんてことはあり得ないのだ。 

 

 「日本の人口が減少し始めるのは2008年だから、就職氷河期はそこまで影響がないのでは」というご指摘もあろうが、それはあくまで高齢者も含めた全人口である。 

 

 会社経営に影響があるのは、15~64歳という「生産年齢人口」であることは言うまでもない。これは1995年をピークに減少。全人口に占める生産年齢人口比率も、1990年の69.5%をピークに低下しているのだ。 

 

 15~64歳の現役世代がじわじわと減れば、企業の数もじわじわと減っていくことは言うまでもない。実際、事業所数は1989年をピークに減少している。 

 

 「我が国の事業所数の推移」を見ると、東京五輪前年の1963年は全規模で390万事業所だったが、高度経済成長期に右肩上がりで増え、1989年の662万事業所をピークに減少していくのだ。 

 

 1996年には650万事業所、1999年は618万事業所、そして2004年は571万事業所まで減った。バブル期から就職氷河期にかけて日本では「働く場所」が90万近くも自然減しているのだ。 

 

 

 もちろん、これにはバブル崩壊もある。しかし、その中には生産年齢人口の減少のせいで、「会社を立て直そうにも働き手が確保できない」「客が減ってこれまでの商売が成立しない」という形での廃業・倒産もかなりあった。 

 

 このような「企業大激減時代」が、1990~2000年代に社会へ巣立った世代に、どれほどの影響を与えたかは容易に想像できる。 

 

 さらに、この世代を追い討ちをかけたのは「他の世代よりも人口が多い」ことである。 

 

 企業数は1989年にピークを迎えたが、その後も子どもの数は増え続けた。 

 

 企業数の減少が始まる1989年の翌年、1990年の大学卒業者数は約40万人だった。それが1995年になると約49万人、1998年には約53万人、2005年には約55万人まで増える。 

 

 要点をまとめよう。日本の企業数は、1989年から2004年までにおよそ90万社が減っている。一方、大学卒業者数の同じ時期を見ると、15万人も増えている。 

 

 「雇用の受け皿」が減少しているのに、新卒は増えていく。しかも、新卒が就活で狙う企業というのは、建築作業、農業、介護などの不人気業界は少ないので、限られた企業の求人に多くが殺到する。そうなれば「内定ゼロ」の学生が大量生産されるのは当然だろう。 

 

 つまり、就職氷河期というのはバブル崩壊うんぬん以前に、先ほども触れた「イス取りゲーム」で、プレーヤーの数に対してイスが圧倒的に少ない状態がスタートした時期なのだ。 

 

 それは、1985年の経済企画庁の報告書にある、こんな記述からも明らかだ。 

 

結局、団塊ジュニア世代は大学を卒業しても、非正規雇用を余儀なくされるのではないか(出典:『21世紀のサラリーマン社会-激動する日本の労働市場 経済企画庁総合計画局編』東洋経済新報社) 

 

 当時の予測では、いわゆる「団塊ジュニア」が就職活動をスタートする1992年には、132万人が新卒就職するとされ、この水準は1990年代まで続くことが分かっていた。そうなれば、企業は1980年代に比べて11%増の採用を12年間続けなければ、新卒者を吸収できない。しかし、採用がそんなに右肩上がりで増えることなど、あり得ない。 

 

 つまり、今の40~50代の多くが社会に出た後に困難に直面し、非正規労働や低収入に苦しむということは、バブル景気に入る前1980年代前半から、かなり正確に予測されていたのである。 

 

 

 「ふざけるな! じゃあこのまま貧乏クジを引き続けなくてはいけないのか」と絶望する就職氷河期世代もいらっしゃるだろうが、今の状況を変える手がないわけではない。それは、この人口動態に応じた産業構造の改革だ。 

 

 先ほど、「会社が減れば雇用も減る」と申し上げたが、このような事態を避ける方法が一つある。企業が従業員数を増やしていく。つまり、「企業規模の拡大」だ。 

 

 例えば、これまで従業員10人規模の零細企業が、生産性向上や吸収合併を進めることで、50人規模の企業へと成長する。そういう企業が増えていけば、全体数が減ったとしても雇用は維持される。 

 

 もちろん、どうしても求人で優先されるのは新卒や働き盛りの若者たちだろうが、この世代は大企業の獲得競争が激しい。そうなると、企業規模を拡大した中小企業が狙うのは、これまで転職市場では不人気とされてきた40~50代、つまり就職氷河期世代だ。 

 

 これは人口減少ニッポンで生きる、われわれが唯一残された「勝ち筋」でもある。 

 

 本連載で繰り返し述べているが、日本経済の最大の問題は「成長しない小さな会社が多い」ことだ。日本企業の99.7%を占める中小企業の多くは「倒産もしないし、成長もしない」という現状維持を何年、年十年も続けている。 

 

 これは「家業」にしている経営者とその家族的には、幸せの一つの形なのだが、日本の労働者的に見るとマイナスでしかない。現状維持のために、賃金を低く抑えなくてはいけない。しかも、いつまでも成長しないので、新しい仕事や求人も生まれない。 

 

 もちろん、中小企業経営者たちに悪気はない。自分とその家族が平和に豊かに暮らせるように「ファミリービジネス」を守っているだけだ。 

 

 このように日本には、中小企業の安定と平和のため、国の経済成長に不可欠な「賃上げ」と「産業の新陳代謝」が犠牲になっている、という構造的な問題がある。 

 

 人口が右肩上がりで増えていた時代は、イケイケドンドンでうまくごまかせた。しかし、出生率が低下して生産年齢人口が減少していくと、この構造的な問題が一気に表面化する。そのマイナス面が直撃したのが、第2次ベビーブーマーも含む就職氷河期世代だったというワケだ。 

 

 こういう本質的な議論にならない原因の一つに、「就職氷河期」というネーミングがあると思っている。氷河期というのは基本、人智の及ばない天災みたいなものだ。だから、「就職氷河期世代」を被災者のように考えて、国が被災者支援をするのと同じように、支援をしてあげるべきだと考えている人がたくさんいる。 

 

 しかし、これまで述べたようにこの世代が就職できなかったのは、天災などではなく、「国民の数」が引き起こした科学的な現象なのだ。だから、この問題も科学的に解決するしかない。 

 

 貧乏クジばかりを引いてきた、われわれ世代に本当に必要なのは、その場しのぎの「支援」などではなく、この国が人口増時代に築いた産業構造を、根本的に見直す改革なのではないか。 

 

(窪田順生) 

 

ITmedia ビジネスオンライン 

 

 

 
 

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