( 277904 ) 2025/03/26 06:20:57 1 00 日本の年金制度において、年金保険料を10年間以上納めないと、国民年金を受給できない「無年金」の状態になることがあります。 |
( 277906 ) 2025/03/26 06:20:57 0 00 (※写真はイメージです/PIXTA)
年金保険料が10年(猶予・免除期間含む)に満たないと、国民年金も受け取れない無年金になります。その数、100万人以上。貯金があれば年金ゼロ円でも生きていけますが、貯金もなければ絶体絶命……もう、諦めるしか方法はないのでしょうか。
――60歳で死ぬと思っていました
斉藤進さん(仮名・77歳)は、若い頃から「国なんか信用できるか」と、年金保険料を納めてきませんでした。
――昔は、25年払わないと年金がもらえなかったんです。「そんな話があるか」「国なんて信用ならねえ」と思って、払わなかったんです
その後、年金支給の最低ラインは10年に短縮されました。それでも斉藤さんは、「9年11ヵ月だと年金がゼロになるなんて、バカげている」と、国の制度への不信感を拭えませんでした。その不信感は根深く、幼少期の複雑な家庭環境で「国は何もしてくれなかった」という経験が、強い拒否感につながっているということです。
これまで日当制の仕事を転々としてきましたが、現在は交通誘導員として週3〜4日勤務しています。夜間帯が多く、時給は1,450円です。月収は約18万円、手取りで約15万円になります。厳しい夏の暑さや冬の寒さは体にこたえますが、「月15万円もあれば十分」と考えていました。
しかし、75歳を超え、後期高齢者となった今、斉藤さんは誤算を感じています。
――いつの間にか70代も後半になっていました。まさか、こんなに長く生きるとは……私が子どもの頃は平均寿命は60代だったんですよ。今までいい加減に生きてきたから60歳前には命は尽きる、だから「年金なんて意味ない」と思っていたんです。それなのに、人は簡単には死なないものなんですね
2023年の日本の平均寿命は、男性が81.09歳、女性が87.14歳です。1950年には男性が59.57歳、女性が62.97歳でしたが、1986年には男女ともに75歳を超え、現在は男女ともに80歳を超えています。
また、平均余命を見ると、60歳男性で23.68年、65歳で19.52年、70歳で15.65年、75歳で12.13年、80歳で8.98年です。実際にその年齢になってみると、平均寿命よりも長く生きられるのが実情です。
誤算は続きます。体力には自信があった斉藤さんですが、年齢には勝てず、次第に仕事が辛くなってきました。持病の腰痛が悪化し、歩くたびに鈍痛が走ります。巡回にかかる時間は以前の2〜3倍になり、警備室を離れる時間が長くなったため、利用者からのクレームも増えました。その結果、「契約を更新しない」と会社から告げられ、失業しました。
――他に仕事を探さないといけません。でも、体がこんな状態では何もできません
収入がなくなり、3万円の家賃も滞納し始めました。わずかな貯金も底をつき、絶体絶命の状況に陥った斉藤さんは、最悪の事態も考えるようになりました。
誰にも頼ることができませんでした。昔から一人で生きてきたんです。今さら、誰かに頼るなんて考えられませんでした
そんなとき、近所に住む若い夫婦が斉藤さんのことを心配し、役所に相談しました。夫婦はソーシャルワーカーとともに斉藤さんを訪ね、生活保護の申請を勧めました。
国なんて信用ならないといってきたし、生活保護なんて絶対に受けたくなかったんです
しかし、わらにもすがる思いで、斉藤さんは生活保護の申請を決意しました。それでも、役所へ向かう足取りは重かったのです。そんな不安と諦めを吹き飛ばしたのは、役所の窓口で担当者からかけられた言葉でした。
大変でしたね。頼ってくれてありがとうございます
斉藤さんの不信感を事前に聞いていたのでしょうか。その優しい言葉に、これまで誰にも頼れなかった孤独と、ようやく差し伸べられた救いの手に、思わず涙がこぼれました。
まさか、こんなことをいってもらえるなんて。これまで「国なんか信用できるか」といってきたのに
厚生労働省の『生活保護の被保護者調査』によると、2024年12月時点で生活保護を受けているのは200万7,364人(保護停止中を含む)です。保護率は1.62%になります。世帯数では164万3,111世帯で、高齢者世帯が90万2,810世帯と半数以上を占めています。昨今は物価高の影響もあり、高齢者の生活は厳しさを増し、生活保護受給者も増加傾向にあるといわれています。
生活保護は年金とは無関係の制度です。憲法第25条の「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」に基づき、生活に困窮した国民に対して最低限度の生活を保障します。斉藤さんのように年金保険料を納めていない人も対象です。資産や働く能力などを活用しても最低限度の生活を維持できない場合に、生活保護を受給できます。
一般的には、まず福祉事務所に相談し、申請書類を提出します。その後、調査や審査を経て、受給の可否が決定します。生活保護を受給すると、生活扶助、住宅扶助、医療扶助など、さまざまな扶助を受けることができ、受給開始後は担当のケースワーカーと相談しながら自立に向けた支援を受けることになります。
[参考資料]
厚生労働省『令和5年簡易生命表』
厚生労働省『被保護者調査』
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