( 277909 )  2025/03/26 06:27:45  
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日本では、財務省解体デモが話題を呼んでおり、国民の給料が上がらない中で物価や国民負担が増えていることに対する不満が背景にあるかもしれない。

元プレジデント編集長で作家の小倉健一氏は、元財務官僚の発言を引用し、財務省が経済成長を妨げる足かせである可能性を指摘している。

高所得層への減税が経済活性化につながり、最終的には低所得層にも恩恵をもたらすことを説明しています。

また、財政の観点から減税を否定する姿勢や、増税のみを提唱する姿勢には疑問を呈しています。

経済の活力は国民の自由な投資と消費によって生まれるとし、国民を単なる課税対象として見なす姿勢が問題だと述べています。

(要約)

( 277911 )  2025/03/26 06:27:45  
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(c) Adobe Stock 

 

 財務省解体デモが話題を呼んでいる。国民の給料が上がらない中で、物価や国民負担が増加していることに対する怒りなどが起因しているものなのかもしれない。経済誌プレジデントの元編集長で作家の小倉健一氏が解説するーー。 

 

 私はいわゆる「財務省=悪玉」論者ではない。決してそうではない。だが、ある元財務官僚の発言をたどると――もしそれが財務省の認識と一致しているのであれば――どう考えてもこの省庁は、日本の健全な経済成長にとって足かせでしかないと思わざるを得ないのである。 

 

 その元財務官僚とは、森信茂樹氏である。元財務省主税局国際調整官であり、現在は東京財団政策研究所の研究主幹でもある。彼の主張と自民党税調会長である宮沢洋一氏の動向がしばしば一致している点から見ても、財務省の主流的な思考を反映している可能性は高い。以下に紹介する発言は、その典型例である。 

 

「財務省が言ってるのは、もしこれ(年収の壁)を178万円に上げれば、機械的に試算すれば7兆、8兆(の減収効果)になりますよと」 

 

「だから、私がいいたいのは、これ財源だけの問題ではないんですよ。もし本当に減税をするんだったら、なんで1000万、2000万の人にまで減税する必要があるんですか?」 

 

*2024年3月16日、テレビ朝日「ビートたけしのTVタックル」での発言より 

 

 この発言には、もはや経済の初歩すら理解していないという恥ずかしさがにじみ出ている。「なぜ年収1000万円、2000万円の人にまで減税する必要があるのか?」という問いかけは、完全に感情的なポピュリズムに迎合したものであり、経済的事実や成長戦略から目を背けた妬みと偏見に満ちている。 

 

 まず、高所得層への減税がもたらす経済効果について、まったく理解していない。年収1000万円を超える層は、生活の基礎的な消費をすでに満たしており、可処分所得の増加分を日用品や娯楽に浪費することは少ない。代わりに、その資金は投資に回される傾向が強い。実際、金融庁の『家計の金融行動に関する世論調査』(2023年)によれば、年収が高くなるほど、株式・投資信託・不動産などへの投資比率が高まる傾向が明確に示されている。 

 

 さらに、日銀の『資金循環統計』(2023年12月速報)でも、高所得世帯によるリスク資産へのシフトが進み、株式・投資信託保有額が拡大していることが明らかとなっている。 

 

 

 これらの投資は、企業の資本コストを下げ、成長投資や人材採用につながる。結果として、雇用が創出され、労働需給が引き締まり、低所得層や中間層にも賃金上昇の恩恵が波及する。つまり、年収1000万や2000万円の層に減税することは、最終的に貧困層や若年層にとっても「プラス」となるのである。 

 

 この基本的な経済構造を無視し、「上の奴らに減税するなんてけしからん」という情緒的反応しかできないのは、視野狭窄の極みである。とりわけ問題なのは、「7兆~8兆の減収になる」という一見もっともらしい数字を振りかざして、減税を否定しようとする姿勢である。国家財政をまるで家計簿のように捉えるこの発想は、きわめて幼稚である。国家の税収は静的な総額ではなく、経済活動によって変動する動的なシステムである。減税によって経済が活性化すれば、法人税、所得税、消費税のいずれも増収となる。この“税収の自動回復メカニズム(automatic stabilizer)”は、アメリカやイギリスの減税政策でも一定程度観察されており、決して理論上の話ではない。 

 

 森信氏は「財源だけの問題じゃない」と語ったが、では一体何が問題なのか。結局のところ、「金持ちに減税=悪」という短絡的な倫理観に縛られ、それをさも中立的な財政論に見せかけているに過ぎない。これは経済学ではなく、道徳主義的な演説である。そして、そうした道徳を振りかざす者が、自由市場のダイナミズムや個人の経済活動を抑圧しようとする構図こそが、日本経済の停滞の元凶なのである。 

 

 例えば、2024年12月5日付のダイヤモンド・オンライン寄稿では、森信氏は次のように述べている。 

 

「筆者は、103万円は『晴れて一人前の納税者(タックスペイヤー)となることができた誇り高い日』と考えている。英国の作家兼詩人のアーサー・ウィリスは、自らの墓碑に『妻を愛し、税金を払った』と刻み、納税し社会に貢献したことを誇っている」 

 

 もはや喜劇である。納税を制度的義務ではなく「誇り」と語る時点で、経済合理性を完全に放棄している。税とはあくまで財源調達の手段であり、それ以上でも以下でもない。特定の価値観を納税に付与し、美徳として語るのは、議論のすり替えである。 

 

 

 とりわけ、国家と個人の関係性を冷静に捉えるべき元官僚の立場にある者が、こうした主観的な道徳観で制度を正当化しようとするのは、知的誠実さを欠いた態度と言わざるを得ない。 

 

 しかも引用されたアーサー・ウィリスなる人物は、英国文学史上ほとんど無名であり、その墓碑銘とされる言葉「He loved his wife and paid his taxes」も、アメリカの市民墓地などで一般的に見られるフレーズであり、固有性は乏しい。典拠も不明確で、事実性すら怪しい。このような曖昧なポエムを持ち出して、納税を神聖視しようとする姿勢は、滑稽を通り越して危険ですらある。近代民主主義の根幹は「国家は納税者のために存在する」という主権者原理にある。納税者が国家に仕えるのではなく、国家が納税者に奉仕するという立場が本来である。 

 

 次に森信氏は、減税政策に対しても次のように述べている。 

 

「『減税すれば増収になる』という理論は、後に『フリーランチ理論』とも『ブードゥー(呪術)・エコノミクス』とも揶揄されることとなり…」 

 

 ここでも、ラッファー曲線や供給側経済学の成果を、感情的なレッテル貼りで一蹴している。 

 

 実際、レーガン政権期の1980年代や、トランプ政権下の2017年の税制改革(TCJA)では、法人税率引き下げと経済成長によって一定の税収回復が確認されている(米議会予算局CBO 2019年報告など)。すべての減税が必ずしも増収につながるわけではないが、「呪術」と片づけるのは、科学的議論の放棄である。 

 

 加えて、2024年11月22日の取材記事(ABEMA TIMES)では、森信氏は以下のようにも述べている。 

 

「財源は結局“増税”になる。医療・介護の負担見直しや、高所得者の社会保険料引き上げなどは、損する人がいるため容易でなく、『歳出改革は困難』。無駄な事業はすでに削減されて『公共事業の削減は困難』であり、金融所得課税の強化でまかなうことになる」 

 

 この発言は、財政再建に対する根本的な努力放棄の表明である。「歳出改革は困難」と言いながら、一方で「増税は当然」と言い切る態度には、財政責任の所在をすべて国民側に転嫁する傲慢さすら感じられる。 

 

 

 現実には、特別会計の温存や、天下り法人への資金流用、非効率な地方交付金制度など、依然として改革の余地は大きい。会計検査院の報告書(令和4年度決算検査報告)でも、毎年数千億円規模のムダが指摘されており、「ムダはすでに削減済み」とする主張は事実に反する。 

 

 また、「金融所得課税の強化」についても、単に「余裕のある者から取ればいい」という発想に基づいており、資本市場への悪影響や資金の国外流出リスクといった副作用への配慮がまるで見られない。日本証券業協会によると、金融所得課税が強化されれば、個人投資家のリスク回避行動が加速し、国内の資本形成力が低下するとの警告が出されている(2022年政策提言書)。 

 

 森信氏の発言に共通しているのは、「自由市場への信頼の欠如」と「官の失敗への自覚のなさ」である。だが、真にこの国を豊かにし、次世代に誇れる日本を残すには、民の力を信じる以外に道はない。経済の活力とは、国家の指図によってではなく、国民一人ひとりの創意工夫と自由な投資・消費によって生まれる。国家がそれを抑え込み、国民を単なる課税対象としか見なさないのであれば、繁栄も誇りも取り戻せるはずがない。 

 

 日本には、本来、勤勉を尊び、努力による成功を称える精神がある。その健全な価値観をねじ曲げ、成功者を罰し、分配だけに偏る思想は、日本の国柄をも傷つけるものだ。経済の自由、個人の自律、そして日本的保守主義の再興を実現するためには、この国の活力を削ぐ思考を温存する勢力を、正々堂々と批判し、言論によって退けていくことが不可欠である。国の未来を担うのは霞が関ではない。民の力であり、現場の知恵であり、自由を信じる国民の志である。 

 

小倉健一 

 

 

 
 

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