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企業の内部留保が600兆円を超え、賃金アップの要望が高まっているが、内部留保を簡単に賃金に回すことは難しいとの指摘もある。

内部留保は企業の体力を示し、その増加は投資への転換が必要とされるという。

日本の賃金水準は他国に比べて低く、賃上げの構造的な問題も指摘されている。

雇用調整の難しさやリスク、正規・非正規雇用の問題などが複雑に絡み合っており、企業の成長や社会の健全な経済発展を考える上で、内部留保の活用方法や賃金政策が重要である。

(要約)

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企業の内部留保 

 

 物価上昇が続き、実質賃金が上がらない中、ネット上では「内部留保を賃上げに回せ」「経済が回らないのは内部留保のせい」という声が見られるようになった。「内部留保」とは、企業の利益から税金や配当、役員報酬などを差し引き、社内に蓄積されたものを指し正式には「利益剰余金」という。この企業の内部留保が2023年度に600兆円を超え、12年連続で過去最高を更新。これを受けて、労働者の賃金などに回せないかという声が高まったという流れだ。 

 

 ただし「内部留保は単純な利益ではない」「勘違いしている人が多すぎる」と、安易に賃金に転嫁することに対して異を唱える人も見られている。石破茂総理も国会で「内部留保がどんどん増えることは決していいことだと思っていない」と述べる中、「ABEMA Prime」では、経済の専門家らとともに、この内部留保600兆円の正しい捉え方、本当に賃金に回せるのか、活用を促すにはどうすればいいか考えた。 

 

名目賃金と実質賃金 

 

 今年の春闘では賃上げについて高水準の回答が相次いだ。労働組合(3577組合)が要求した賃上げ率は平均6.09%で、6%を超えるのは32年ぶり。大企業を中心に満額回答が見られ、中には要求額を超える額を示した企業もあった。ところが2025年1月時点では、名目賃金こそ2.8%アップしているものの、実質賃金は1.8%のダウン。進む物価高の傾向に追いつけていない状況だ。全労連の事務局長を務める黒澤幸一氏も「結局、実質賃金は上がらず、昨年よりも物価の方が上がり幅として大きい。内部留保が増えているということは、企業の体力がついたということ」と、内部留保から労働者の賃金への転嫁を求めた。 

 

 千葉商科大学教授で経済ジャーナリストの磯山友幸氏は「内部留保が600兆円あるが、資産は必ずしも全部が現金ではなく、(現金・預金は)半分くらいだ」と説明。内部留保は、税金を払った後に企業が積んでいるお金。単純にそれからお金を配るのは簡単にはできない。内部留保を増やさないということは、逆に言うと利益を出さず、分配しましょうということになる。これだけ安全資産があるなら、そんなに儲けなくても労働者にもっと分配しましょうというタイミングに来ているというのはある」と解説した。 

 

 また、リーマンショックが起きた2008年度でも、300兆円に届かなかった内部留保が600兆円を超えた背景を説明。「時代性がある。ずっとデフレが続いてきたので、現預金でポンと置いておく方が、企業経営としてはある意味、正しかった。デフレだとお金の価値が高まるからだ。ただ、これからインフレで、その中でどうやっていくか。ちゃんと投資をしてリターンを取ることをやらなければならず、内部留保の増え方は鈍化すると思う」とも述べた。 

 

 

ひろゆき氏 

 

 実質賃金を国際的に比較した場合、1997年を「100」と基準にすると韓国が158.7、イギリスが133.6などに対し、日本は87.8と低い。内部留保600兆円という額を見ても、もう少し労働者の賃金に回せそうな印象を受ける人もいる中、構造的に簡単ではないと語るのは、近畿大学情報学研究所の所長を務め、経営者でもある夏野剛氏だ。「これは完全に構造的な問題。韓国、イギリスなどで業績が悪くなった時に何で調整するかといえば雇用だ。具体的に言うとレイオフもするし賃下げもする。その代わりに儲かっている時はものすごく払う。だから、ちょっとでも金融危機が起こると会社も簡単に潰れる。会社は潰れることが前提で、その代わりに役員も何十億、何百億ともらうし、IT企業なんかだと、普通の従業員がもう10億円とか20億円とかもらっているケースもある」。 

 

 しかし日本では雇用を守り、賃金を下げることにもハードルが設定されているため、雇用での調整がききにくいという。「不利益変更、例えば給料を下げるのは10%以上できないし、解雇規制もある。どんな状況でも、絶対に雇用を守らなきゃいけないということは、内部留保を貯めておかないといけない」。その上で会社の業績に基づいて賃上げを求めるのであれば「会社の業績が悪い時は賃下げも認めなきゃいけない。雇用調整もすることを認めないと、それは無理だ。また、内部留保が投資に回らない方がもっと深刻な問題。投資ですらリスクを伴うし、サラリーマン経営者だと現状維持ができるからと、投資をしなかったりする」と、企業が成長する上で必要な投資ですら、控えがちになっている現状を憂いた。 

 

 2ちゃんねる創設者のひろゆき氏も、内部留保を賃金に回すことについてのリスクを訴える。「内部留保が積み上がり過ぎという根拠はなんなのか。例えば今は、トランプ大統領がいきなり関税を25%にすると突然言い出す社会。そうしたら、その年の利益が全部吹っ飛ぶ可能性もある。それでも給料を全部出します、赤字になりました、不渡りですとなれば、大企業がいきなり倒れ、取引先も連鎖倒産する」。実際にもトランプ氏は4月から、アメリカに輸入される自動車に25%の関税をかけると発表したばかり。日本経済にも大きな影響が出るものと見られている。 

 

 また、雇用や賃金との関係にも改めて指摘した。「経済の状況は、予想通りには動かないし、何が起こるかわからない。会社が傾いて倒産しないように、他の国だったらクビを切ることができるが、日本はできないので、正社員を雇うのがリスクになった。だから非正規雇用や派遣を使うという、いびつな社会になってしまった。正社員を切れるようにしないと、正社員になれないような派遣の人たちにも厳しい。今のように正社員だけは守られるけど、他の人たちは切られるし、給料も上がらないという構造の、どちらを選ぶのかという話だ」。 

(『ABEMA Prime』より) 

 

ABEMA TIMES編集部 

 

 

 
 

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