( 278934 ) 2025/03/30 05:47:21 1 00 会社の休憩時間の使い方について、労働基準法や労働者の権利について解説されています。 |
( 278936 ) 2025/03/30 05:47:21 0 00 写真はイメージです Photo:PIXTA
休憩時間にパチスロに行くのは、いけないことでしょうか?飲酒や喫煙、政治活動はしてもOK?会社が、従業員の休憩時間の使い方を制限できるのか、意外と知らない勤務中の休憩時間ルールについて解説します。(特定社会保険労務士、大槻経営労務管理事務所 永野奈々)
● 昼休みにいつもパチスロに行くAさん
メーカーの営業部門で勤務をしているAさん(30代後半)は、昼の1時間休憩になると、自宅から持ってきたおにぎりを数分で食べ終えるとすぐ、いつも1人で外に出て行きます。実は、Aさんは職場から数分歩いたところにあるパチスロに入っていく姿を、他の従業員から何度も目撃されているのです。
休憩時間中の外出自体は何ら問題ありません。しかし、同僚からは「いくら昼休みとはいえ、会社からパチスロに行って戻って来るのはどうなのか」という声が上がっています。B部長も、顧客や取引先に見られる可能性を考えると、昼休み中のパチスロを控えてほしいと思っていました。
ある日、B部長はAさんに「昼休み中によくパチスロに行ってるよね?仕事の合間に行きたくなるほど、やりたくて仕方ないのか?」と聞いてみました。するとAさんは「休憩時間なんだから、何をしても自由ですよね?」と言い返し、全く問題を感じていない様子です。
このやりとりを偶然見ていた同僚が、一部始終を職場メンバーに伝えたことから、大きな話題に。とはいえAさんの主張も一理あり、原則として昼休みの過ごし方は自由であることは否定できません。
別の日にB部長はAさんに「できれば仕事の休憩中にパチスロは控えてくれないか」とお願いしてみました。が、「休憩時間中にパチスロを禁止するルールはないと思います」とAさん。B部長はそれ以上何も言えず、しばらくAさんの行動を見守ることにしました。
ところがその後、Aさんが休憩時間内に職場に戻ってこない事案が発生。きっとパチスロに夢中になって切り上げるのが遅くなったに違いないと思ったB部長は、ついに職場内ルールとして「休憩時間中のパチスロ禁止」を決めました。このルールは、あり/なし、どちらでしょうか?
労働基準法を解釈する上で、まず重要なのは、休憩時間の定義です。1日の労働時間が6時間を超える場合には少なくとも45分間、8時間を超える場合には少なくとも1時間の休憩時間が必要です(労基法第34条)。
そして、休憩時間とは「労働者が自由に過ごす権利が保障されている時間」であり、具体的には「休憩時間は単に作業をしない時間ではなく、労働者が労働から離れることが保障された時間」と解釈されています。
この視点に立てば、従業員が昼休みを自分の好きなように過ごすのを会社が制限することは、難しいでしょう。
しかし一方で、労働基準法の施行に関する件(昭和22年9月13日 発基17号)では、「事業場の規律を維持するために必要な制限を加えることは、休憩の目的を害さない限り認められる」とされています。この点を踏まえると、どうでしょうか。
● 休憩時間中の行動を制限できるケースとは
B部長は、Aさんが休憩時間内に戻ってこなかったので、職場内ルールを策定しました。Aさん個人に対して、「時間内に戻れないならパチスロに行ってはいけない」と注意することは何ら問題ありません。ただし、職場全体のルールにするのは、やはり行き過ぎだと考えられます。
また、顧客や取引先に見られる可能性がある点も懸念されていましたが、原則として休憩時間中の従業員の行動は自由です。「パチスロをやっていると思われたら印象が悪くなる」という見解は、偏見でもあるため、これを理由に行動を制限するのは正当とは言えません。
しかし、制服がある職場の場合は別です。「制服を着用している際のパチンコは禁止」とするのは、制服が会社から貸与されていることや、周囲から目立つことを考慮すると妥当なルールといえます。
それでは他に、休憩時間の行動を制限できる場合の具体例として、飲酒や喫煙はどうでしょうか?また、最近は「財務省解体」などのデモに参加する人がニュースで取り上げられていますが、政治活動は問題ないのでしょうか?
● 飲酒や喫煙、政治活動はOK?
多くの職種において、飲酒はその後の業務への影響を考慮すると、全面的に禁止することが適切と言えます。
また、特に接客が重要な職種の場合は、従業員が喫煙することで服や髪に臭いが付き、それがその後の業務に大きな影響を与えると考える場合は、禁止が許容されるでしょう。臭いについてさらに言えば、焼き肉を食べることも同様に、禁止が許容されるでしょう。
ちなみに、コロナ禍で見られたような職場内の感染症対策の一環として、お昼休憩に複数人での食事を禁止するなどの措置については、理にかなったものとして認められることもあります。
そして、休憩時間中に従業員が政治活動をすることは、禁止しても問題はないと考えられています。職場の施設管理を妨げたり、従業員間の混乱や対立を引き起こしたり、他の従業員の休憩の自由利用を妨げたりする恐れがあると見なされるからです。最高裁判所の判例においても、「企業秩序維持の見地から、就業規則により職場内における政治活動を禁止することは、合理的な定めとして許される」とされています。
● 不適切な制限とは?雇用側の注意点
逆に、会社側の不適切な制限として注意すべき点があります。定められた休憩時間は従業員が実際に休憩時間を確保できるようにしなければならないので、例えば、休憩が終わる5分前に着席を求め、業務を気にするように仕向けるのは不適切な制限です。
また、正社員とパートタイムなど、同じ職場に異なる雇用形態の従業員がいる場合、休憩時間の行動に対する制限として差を設けることは、合理的な理由がない限り不適切です。そもそも、こうした差は法的な問題だけでなく、職場環境の平等性や公平性が損なわれることから従業員のモチベーションを低下させます。
最後に、飲食店や小売店で意外と多い職場内ルールについて解説しましょう。
店舗が混雑してきたらいつでも呼び出せるよう、「休憩中の従業員は店内で待機し、外出は禁止」といった暗黙のルールは、休憩の本来の主旨と照らし合わせると、ほぼ黒に近い“グレー”です。急に来客が増えてスタッフが足りなくなった時に、たまたま休憩室にいた人にお願いをして手伝ってもらい、中断となってしまった休憩時間分はまた別で取ってもらうならぎりぎりOKですが、そもそも待機を強いることはNGです。
他方、「外出するのであれば制服から私服への着替えをすること、もしくは制服が見えないようにすること」というルールは、妥当と見なされる可能性が高いです。
● 休憩時間の行動制限を設ける場合は慎重に
休憩時間は従業員にとって大切な権利であり、自由に過ごすことが保障されています。企業はこの権利を尊重しながら、秩序や生産性を保つためにバランスを取ることが求められます。
もし、休憩時間の過ごし方に制限を設ける場合は、正当な理由を説明できることが重要です。パチスロに行くAさんの事例からも分かるように、従業員は自由に休憩時間を活用する権利を持っていますが、その行動が業務や職場の雰囲気に影響を与えることもあります。だからこそ、企業は必要に応じて行動に関するルールを設けることが大切です。
制服を着用している際の行動制限や、業務に支障をきたす行動の禁止などは、適切な理由に基づいたルール作りが求められます。従業員の権利を侵害せず、かつ職場環境を整えるために慎重に考えましょう。
人事や総務関連の人はもちろん、管理職も休憩時間の使い方について理解を深め、かつ企業のポリシーと整合性を持たせた運用を心掛けることが、働きやすいホワイトな職場につながります。
永野奈々
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