( 278951 ) 2025/03/30 06:06:41 0 00 (c) Adobe Stock
コメの価格がいまだ下がらない。政府は備蓄米放出を決定し、3月下旬から店頭に並ぶとの見通しを示していたが、直近のコメ価格は5キロあたり4172円と統計開始以来で最高値となっている。慌てた石破茂首相は「強力な物価高対策」を打ち出すと言及したものの期待薄だ。経済アナリストの佐藤健太氏は「政府対応はあまりに遅く、規模もショボい。国民の感覚とはかけ離れている」と指弾する。一体、「令和のコメ騒動」はいつになれば解消されるのかーー。
「流通で停滞したものが出てくることを期待したい」。全国農業協同組合連合会(JA全農)は3月25日の記者会見で流通円滑化に向けて期待を示した。政府は計21万トンの備蓄米放出を決め、初回の15万トン分の入札を3月10~12日に実施。そのうち94%はJA全農が落札した。引き渡しは3月18日から始まり、3月下旬から店頭に並ぶスケジュールを描いてきた。JAは落札金額に輸送費や事務経費など必要なコストだけを加えた額で販売するというが、実際にスーパーなどに並ぶのは4月以降になる。2回目の入札は同26日から始まるものの、店頭販売の際は消費者の混乱回避を目的に「備蓄米」と表示しないよう取引先に要請している。
だが、3月9日までの1週間はコメの平均価格(全国のスーパー)が5キロあたり4077円と初めて4000円台を突破。3月10~16日の平均価格は前年同期の2倍を超える4172円となった。コメの価格上昇は外食産業などに幅広く影響している。大手牛丼チェーン「すき家」は3月18日から全体の5割の商品を値上げすると発表。看板の牛丼は「並盛」が450円から480円(税込み)になり、20~50円値上げされている。 筆者も3月下旬にスーパーで10キロのコシヒカリを購入してみたが、9000円超という価格に驚いた。とはいえ、食生活においてコメが欠かせないという家庭も多いことだろう。1日でも早く価格が下降してほしいのが国民の切なる願いだ。
ただ、石破政権の対応はあまりに遅い。そもそも政府が説明してきたコメ価格高騰の理由は次のようなものだった。2024年産米の生産量は679万トンと前年産より18万トン増えたものの、JAなどの集荷業者が買い入れたコメは今年1月末時点で前年同期比23万トン少なかった。
コメは生産者からJAなどの集荷業者が買い、卸売・小売業者を通じて消費者に流れるのが一般的だが、流通に「目詰まり」が生じているのだという。
最近はJAを介さずに生産者が直接販売したり、高値で売ることができるタイミングを見定めたりする業者も存在する。ネット直販の普及に加え、新規参入者などがJAよりも高価格で生産者から買い取るなど流通経路の多様化が進んでおり、政府はコメの「在庫抱え込み」を解消するため備蓄米の放出を決めた。
林芳正官房長官は「生産量が前年より多いにもかかわらず、大規模な集荷業者にコメが集まっていない。供給に滞りが生じている」と指摘。その上で「円滑なコメの供給が行えるよう政府備蓄米の買い戻し条件付き売り渡しを実施する」と説明していた。
ただ、集荷量が前年同期比23万トン少なかったにもかかわらず、備蓄米の放出を予定するのは21万トンである。江藤拓農林水産相は「正直なところ、15万トンを出してしばらく様子を見ることも必要かと思っていたが、2万トンが集荷業者に集まっていないというエビデンスが揃ったので、早めに追加する方が正しいだろうと判断した」と語り、残る約7万トンについても3月26日から入札を実施することにした。
経済原理からすれば、商品の供給量が需要よりも増えていけば価格下落が起こるはずだ。だが、直近の価格動向を見れば、いまだ見合ったものには至っていないということだろう。流通の停滞が影響している面はたしかにあるとはいえ、それと同時にそもそもコメの供給量が不足していると見る必要がある。
共同通信は3月18日に元農水事務次官の奥原正明氏のインタビュー記事を配信した。奥原元次官は「本来ならスーパーの店頭でコメの品薄が顕著になった昨年夏の時点で放出しなければいけなかった。そうしておけば、ここまで異常な価格高騰を招くことはなかった。農政の失敗だ」と指摘した。
石破政権の対応が遅れた理由に関しては「放出するとコメ価格が下がると、農水省は農協や政治家から批判されることを意識したのではないか」とした上で、「農政の最大の目的は食料の安定供給であり、消費者のために備蓄米制度がある。供給に支障があるときに使わなければ意味がない」と厳しい見方を示している。農政官僚のトップに立った人物が「失敗」と断じた点は極めて重い。
石破首相は3月24日の自民党役員会で「必要ならば、躊躇なくさらなる対応を行う」として備蓄米の追加放出も辞さない考えを示した。ただ、江藤農水相は「21万トン放出して政策効果がないということであれば意味がないので、政策効果を見極めるまでは放出方針は変えるつもりはない」と説明とした上で「2回目の放出状況を見た上で3回目は考える」と述べている。要諦は「戦力逐次投入せず」であると言えるが、政府はいまだ“小出し”にこだわっているのだ。
しかも、卸売業者には「流通の混乱」を避けるため備蓄米表示をしないよう要望したというのだから驚く。江藤農水相は「注意を払って見てもらえれば、判断できる材料があると思う」「隠そうとか、それで利益を出そうという意図を持っているわけではない」としている。たしかにコメの袋に記載されている銘柄などを見れば判別できるのかもしれないが、どれだけ不親切なのかと思いたくもある。消費者としては「備蓄米」なのかどうかを知った上で購入したいと思うのが心理だろう。
石破首相は3月25日に公明党の斉藤鉄夫代表と会談し、強力な物価高対策を検討する考えを伝達した。コメ価格抑制などについても検討するという。ただ、問題は具体的な予算措置をどうするつもりなのか怪しい点にある。林芳正官房長官は記者会見で「首相の発言は新たな予算措置を打ち出すということを申し上げたものではなく、2024年度補正や2025年度予算に盛り込んだあらゆる政策を総動員し、物価動向やその上昇が家計や事業活動に与える影響に細心の注意を払いつつ、物価高の克服に取り組んでいくという『決意』を申し上げたものと承知している」と語っている。
何のことはない。今さら、首相が「決意」を示したということなのだ。自民党の衆院1回生議員たちに1人あたり10万円分の商品券を配布しておきながら、物価高に苦しむ国民には「決意」だけというのは呆れてしまう。林官房長官は「物価上昇に負けない賃上げの実現に向けて、日本全体で賃金が上がる環境を作っていくことを基本と考えている」と強調するが、賃金アップの恩恵を得られているのは大企業で働く人々など一部にすぎない。一体、石破政権はどこを向いて仕事しているのかと疑問を抱いてしまう。
もちろん、元農水次官がインタビュー記事で指摘しているように供給量が過多になれば値崩れが生じ、関係者に与える影響も大きいだろう。ただ、それをバランスよく調整するのが政府の責務ではないか。少なくとも「小出し」政策の効果は限定的となるだろう。企業が自主的に決定する賃上げが実施されれば良いというものではなく、政府として責任ある対応をすべきだ。
備蓄米放出によって、たしかに4月以降のコメ価格は下がるかもしれない。それでも3800円前後までにとどまるのではないか。すでに2倍超となった価格からすれば下落したように思えるが、コメだけでなく、あらゆる物価が上昇している。その解消策を「賃上げ」だけに求めるのは無理だ。
石破首相は「政治とカネ」にクリーンとみられてきた。だが、商品券配布問題でそのイメージを失い、国民感覚とかけ離れていると批判されている。コメ価格の高騰対策にしても同様だろう。僭越ながら、首相に問いたい。あなたは何のために、誰のために総理大臣になりたかったのですか、と。物価上昇と反比例するように「石破株」は下落し続けている。
佐藤健太
|
![]() |