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2025年3月24日から27日に大阪で開催された第9回北太平洋漁業委員会(NPFC)では、サンマやマサバなど身近な魚種について議論された。

漁獲枠やTAC(漁獲可能量)について、科学的根拠に基づく資源管理や国別に漁獲枠を設定する必要性が強調された。

これには過去の欧州での漁業失敗事例も指摘され、資源管理の重要性が訴えられた。

日本のサンマ漁獲についても、漁獲枠の設定や海洋状況などが詳細に述べられ、資源管理の難しさと重要性が示唆された。

(要約)

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サンマ(筆者提供) 

 

 2025年3月24日から27日にかけて大阪で、第9回北太平洋漁業委員会(NPFC)が開催されました。そこで議論された魚種は、サンマ・マサバといった私たちにとって身近な魚種です。 

 

 漁獲枠、TAC(漁獲可能量)といった言葉が、ようやく報道されるようになってきました。筆者は10年以上前、この会議が始まる前から、サンマ・マサバをはじめ日本の漁獲枠制度が、ノルウェーなど漁業を成長産業にしている国々とは似て非なるものであることを、微力ながら発信し続けてきました。   

 

 筆者の主張は、科学的根拠に基づく資源管理とTACの設定、そしてサンマに関しては、それを国別に漁獲枠を分けることです。この対策なくして、資源の回復は「あり得ません」。その答えは、北欧・北米・オセアニアなどの国々の結果を見れば明白です。 

 

 そうした国々は、今では成功例ばかりですが、1970〜1990年代前後の始めたころにはいくつか失敗例もありました。アイスランド南西にあるイルミンガー海域のアカウオや、オランダやアイルランドなどのアジです。価格が安いアカウオの粕漬や開きアジの原料として日本は万トン単位で輸入してきました。 

 

 前者のアカウオは好漁場だった同海域に漁獲枠がありませんでした。ロシア、アイスランドをはじめ各国が大量に漁獲しました。 

 

 後者のアジは当初は漁獲枠がありませんでした。途中で漁獲枠が設定されたものの、欧州連合(EU)とノルウェーで折り合いが付かず、獲り切れない枠が設定されて資源が枯渇しました。しかしながら、禁漁も含む資源管理強化で資源がようやく回復してきました。 

 

 筆者は、アカウオもアジも欧州の最前線で買付しており、残念ながらそれらの減少を目の当たりにしてきました。ちなみにアカウオは主要輸入先のアイスランドから00年の2.6万トンから24年はわずか900トン(かつこれは漁場が違うので実質ゼロ)。アジは主力のアイルランド・オランダ・英国から同3.3万トンからわずか4000トンです。必然的に供給減で価格は大幅に上昇し、我々の生活にも影響しています。 

 

 欧州の場合は日本と異なり失敗例はあまりないのですが、そういった例も拙著(『日本の漁業が崩壊する理由』ウェッジ)などで紹介しています。サンマに限らず、国際的な資源管理が機能しない水産資源は例外なく崩壊します。そしてその回復には長い年月がかかります。 

 

 

 みなさんはサンマがどこで漁獲されているかご存じでしょうか? 下の図をご覧ください。サンマが獲れない原因としてよく挙がっているのが、海水温上昇、そして暖水塊(左下)や黒潮大蛇行です(右下)。これに外国漁船(中国・台湾)が加わってきます。 

 

 上の図をよくご覧ください。水色が日本の排他的経済水域(EEZ)でピンクが公海の漁場です。境目がほぼ日本EEZとご理解ください。中国や台湾漁船は日本のEEZ内で漁はできません。 

 

 年によってサンマの漁場は異なりますが、北海道の厚岸などの漁港から片道2〜3日、年によっては3日以上かかる公海が日本の漁船の主要漁場になっています。つまり、水色とピンクの境目の海域が主要漁場なのです。 

 

 サンマ漁は夜、煌々と明かりを付けてサンマをおびき寄せて掬い獲る棒受け漁が主体です。このため、公海上での漁では、日本・中国・台湾などの漁船がお互いに見える範囲で入り混じって漁をしているというのが現実です(下の写真)。 

 

 一方で左下の写真を見ていただくと、実際の漁場とは遠く離れていることがわかります。さて暖水塊が、サンマが獲れない大きな理由の一つなのでしょうか? また同じく原因とされている右下の黒潮大蛇行(右図の3のパターン)はさらに実際の漁場から遠く離れているのがわかります。 

 

 24年の日本のサンマの漁獲量3.9万トンは、全盛期の20万〜30万トンに比べて少ないとは言え、前年の23年の2.6万トンの5割増です。一方で黒潮大蛇行は25年で7年目に入っており変わらないそうです。 大蛇行はそのままなのに漁獲量が増えている。黒潮大蛇行は、本当にサンマの漁獲量に関係があるのでしょうか? 

 

 今回の会議で、資源管理の効果が出てきたとはまだ言えません。昨年(24年)に科学者から出ていた、サンマ資源を持続的にしていくための漁獲枠は7.6万トンでした。しかしながら22.5万トンもの漁獲枠が設定されてしまいました。 

 

 公海での漁獲量は14.5万トンという枠に対して107.6%オーバーしていました。そのまま獲り続けていた状態から、漁が止まったことには意義があります。 

 

 台湾・中国といった国々、そして日本にとっても一番困るのは、サンマを獲り過ぎて資源がなくなって獲れなくなってしまうことです。つまり獲り過ぎを防ぎたいという点では、利害は一致しています。 

 

 

 さて最後に今年(25年)のサンマの漁獲枠とその問題の本質についてお話しします。科学者が計算したサンマの漁獲枠(25年)は7.6万トン。これに対して合意した漁獲枠は「前年比10%減」の20万トンとなっています。 

 

 さらに変動幅は、昨年(24年)来、対前年比1割以内という規則になっています。これでは資源が悪化してしまっていても、本来あるべき漁獲枠に制限されません。 

 

 マスコミの報道では「10%減」といった「前年比減」が強調されることが少なくありません。しかしながら、科学的根拠に基づいて設定されるべき漁獲枠の約3倍の枠が依然設定されています。 

 

 筆者にはマスコミから拙WEB記事やユーチューブをご覧になって、この「前年比減」が実態を伴っていないことに気づかれての問い合わせがいくつも来ます。 

 

 さてここから、今回の漁獲枠設定の問題の本質についてお話しします。先に一応24年の公海では漁獲枠が少し機能してそれ以上の過剰漁獲がストップしたとご説明しました。 

 

 今年(25年)は、昨年(24年)の全体の漁獲枠22.5万トンに対して「10%減」の20万トンで決着しています。この中で公海は10%減の12万トンとなっており、昨年の漁獲量(14.5万トン)より約2割少なく、いくらか効果が期待できます。 

 

 ところが、この枠は公海とEEZ(実質日本のEEZ内)で2重構造になっています。昨年(24年)の計算をすると、22.5万トン(全体枠)―13.5万トン(公海枠)=9万トンが実質的な日本のEEZ内での漁獲枠です。同じ計算をすると日本のEEZ内で公海とは別に漁獲できる枠(公海でも操業可)として、日本が漁獲できる数量は約8万トン(=20万トンー12万トン)となります。 

 

 ところで24年の日本のサンマの漁獲量は約4万トン(3.9万トン)です。つまり、日本だけが昨年(24年)実績の倍の漁獲枠を持っていることになります。 

 

 国益としては頑張った交渉です。しかしながら、資源管理というもっと大きな観点からすると我が国だけで、科学者が計算した漁獲枠(7.6万トン)を超えてまっています。 

 

 すでに日本のサンマの漁獲量は全体の2割程度で推移してしまっています。かつての台湾・中国のサンマ漁進出前の8割前後ではありません。 

 

 今後、資源管理のために国別の漁獲枠の設定が不可欠となっていきます。この日本のサンマの漁獲枠が多すぎると、海外から指摘されることが予想されます。 

 

 そして何より懸念されるのは、サンマが減ってもっとも困る日本が、そのサンマを獲り過ぎてしまう漁獲枠になってしまっていることではないでしょうか。 

 

片野 歩 

 

 

 
 

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