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石破茂首相が2025年度予算案を再修正後に参院本会議で可決され、結果を受けて一礼する様子が記録されている。

過去に出版した著書では、自身の半生や政治信条、政策スタンス、政治の信頼回復策について語っており、政治家としての原点や石破氏らしさから逸れた言動が国民の支持低下に繋がったことが指摘されている。

石破氏は言葉を重んじつつも実際の行動がそれと合致しないことが多く、政治不信を助長しているとの意見がある。

(要約)

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参院本会議で2025年度予算案が再修正の上、可決され、一礼する石破茂首相(右端)ら=3月31日午後、国会内 

 

 石破茂首相は昨年8月に出版した著書「保守政治家―わが政策、わが天命」(講談社)で、自身の半生を振り返るとともに、政治信条や政策スタンス、政治の信頼回復策など、多くのテーマについて思いを吐露している。まさに、素顔の「人間・石破茂」を伝えたものだ。石破政権の半年の歩みからは、政治家としての原点、「石破氏らしさ」からかけ離れた言動を重ね、国民の支持を低下せたことがうかがえる。(時事通信解説委員長 高橋正光) 

 

 ◇昨夏に著書、素顔を語る 

 

 「政治不信とは、政治家の言葉を国民が信用しないということだ」。著書で首相は、政治の現状をこう断じた。しかし、昨年10月に就任した首相は、いきなり「言葉への信用」を低下させる行動に出た。 

 

 首相は同年9月の自民党総裁選で、不安定な国際情勢を踏まえ「直ぐに衆院を解散するとは言わない」と表明。解散の前提として、一問一答形式の予算委員会を開いて、野党と本格的な論戦を交わし、「国民に判断材料を与える」と約束していた。 

 

 ところが、首相に就任するや、予算委を開くこともなく、8日後に解散した。党幹部の「野党の候補者調整が進まないうちに解散した方が有利」との説得を受け入れた結果だが、数日前に発した言葉を、早速反故にした。この結果、国民から、与党過半数割れという厳しい結果を突き付けられた。 

 

 また、首相は衆院選の勝敗ラインを「自民、公明の与党で過半数(233)」に設定したが、獲得議席は215で届かなかった。与党の過半数割れは、主権者たる国民が、石破政権を信任しなかったことを政治的に意味する。 

 

 自民党が比較第1党を維持したとはいえ、石破政権は退陣し、新総裁の下、首相指名選挙に臨むのが筋だっただろう。しかし、首相は「国民の批判に適切に応えながら、現下の厳しい課題に取り組み、職責を果たす」と続投を選んだ。 

 

 首相指名選挙で野党がまとまらず、石破首相が再度指名され、第2次政権が発足した。とはいえ、自身が設定した勝敗ラインを割りながら、続投したことで、言葉の軽さが問われた。 

 

 これらを裏付けるように、時事通信社の世論調査で、石破内閣の支持率は発足直後の昨年10月調査以来、一度も3割に届いていない。政権維持の危険ライン以下に低迷したままだ。 

 

 ◇「言葉への信用」低下を助長 

 

 「言葉への信用」を低下させかねない最近の例としては、公明党の斉藤鉄夫代表に対する物価高に関する発言が挙げられよう。首相は3月25日、首相官邸で斉藤代表と約1時間会談。終了後、斉藤氏は、首相から「強力な物価高対策」を打ち出すと伝えられたことを明かした上で、「2025年度予算が成立すれば間を置かずにだと理解した」と述べた。 

 

 「強力な物価高対策」と発言すれば、補正予算案の編成を連想させるのは自明の理。参院で予算審議中とあって、与野党から「参院軽視」と批判された。首相は3月27日の参院予算委員会で「審議中に心配と迷惑をかけ、申し訳ない」と陳謝。「食料品、燃料費の高騰などにどう対応するか。予算とは関係ない分野でも対応可能。そういうことを含めて申し上げた」と釈明した。 

 

 仮に、予算成立を受け、政府が物価高対策を策定、25年度補正予算案の編成という展開になれば、「国民感覚」に合致した決断であっても、首相は「言葉への信用」低下を助長させたと指摘されるだろう。 

 

 

学校法人「森友学園」に格安で払い下げられていた国有地=2017年2月、大阪府豊中市 

 

 首相は著書で、政治の信頼回復策にも言及、「国民の共感が得られる改革を進める」必要があるとし、1989年に自民党が党議決定した「政治改革大綱の精神に立ち返れ」と訴えている。そして、大綱が冒頭で、頂点に達した国民の政治不信を「深刻かつ率直に認識し、国民感覚とのずれを深く反省」することや、「自らの出血と犠牲を覚悟し、国民に政治家の良心と責任感を示すときである」と記していることを紹介している。 

 

 この関連で言行不一致なのは、衆院当選1回議員15人に対する各10万円の商品券の配布だ。自民党旧安倍派の裏金事件などで、国民の政治不信が頂点に達する状況下、家族への慰労が目的であっても、新人議員に10万円の商品券を配ることが、物価高に苦しむ国民の感覚と、大きくずれているのは明白。配布発覚後、報道各社の世論調査で、内閣支持率が3割前後に急落したことが、それを裏付けている。 

 

 首相は「大綱の精神に立ち返れ」と言いながら、自身は立ち返らず、「国民感覚とのずれ」に気付いていなかったことを露呈した。 

 

 首相は1986年の衆院選に出馬する前、田中派の事務局員を務めた。著書では、田中角栄元首相の政治家へのカネの渡し方として(1)お願いして受け取ってもらう(2)相手の欲しい額の倍を出す―ことを知り、「それが生きるカネの使い方だと理解できた」「私が真似したくても、とてもできない」と語っている。 

 

 違法性の有無は別にして、商品券配布をこれに照らし合わせれば、「できない真似」をした結果の失敗。贈られた1年生議員は当惑し、一部議員は即座に返却したことからも「生きるカネの使い方」とは到底言えまい。 

 

 高額療養費の負担上限額の引き上げを巡る迷走も、「国民感覚とのずれ」を裏付ける。政府ががん患者団体から意見を聴取せず、引き上げを決めたことがそもそもの間違い。手続きの出発点で誤りながら、凍結を求める野党に対し、首相は引き上げにこだわり、小出しで譲歩を重ねた。その結果、予算案の衆院通過直後に、参院選への影響を懸念する参院側の圧力に屈し、予算修正につながる凍結に追い込まれた。 

 

 闘病中のがん患者の命に係わることを考慮すれば、引き上げに固執しても、国民多数の理解を得られないことは、容易に判断できたはずだ。ここでも、首相は、「国民感覚とのずれ」を示した。 

 

 ◇森友問題では有言実行 

 

 一方、著書での言葉通り、「らしさ」を貫いたものもある。学校法人への国有地売却で、財務省が決裁文書を改ざんした森友学園問題への対応だ。首相は「どうしてあんなに安く、国有地が払い下げられたのか。素朴な疑問への回答はない」と指摘した上で、「この事件もまた、行政の信頼性を著しく貶めた」と断じた。 

 

 この関連で、改ざん業務の末端を担わされ、自責の念から手記を残して自殺した赤木俊夫さんの事件に触れ「この文言の重さを私たちは決して忘れてはならない」と強調した。関連文書の不開示を違法と認めた大阪高裁判決を受け、首相は上告見送りと関連文書の一部開示を加藤勝信財務相らに指示。財務省で開示の準備が進められている。 

 

 首相就任後、国民感覚に沿った政治決断で、「石破氏らしさ」を示した数少ない例と言えよう。 

 

 首相は3月31日、25年度予算の成立にこぎ着けた。引き続き、企業・団体献金の扱いに関する与野党協議や選択的夫婦別姓の問題への対応など、判断を迫られる場面が控えている。一方で、内閣支持率が低迷した状況では、参院選での勝利はおぼつかない。 

 

 どうやって国民の政治不信を解消し、政府・与党への信頼を回復させるのか? まずは、素顔の「石破茂」に立ち返り、著書で語ったことをぶれずに実行することが必要だろう。既に手遅れかもしれないが。 

 

 高橋 正光(たかはし・まさみつ) 1986年4月時事通信社入社。政治部首相番、自民党小渕派担当、梶山静六官房長官番、公明党担当、外務省、与党、首相官邸各クラブキャップ、政治部次長、政治部長、編集局長などを経て、2021年6月から現職。 

 

 

 
 

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