( 280024 )  2025/04/03 07:02:37  
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筆者は、安倍政権がデフレ脱却を試みたものの不十分であったとし、その後の石破政権では適切な経済政策ができないと懸念している。

財政政策においては緊縮的な方向に進んでおり、個人消費や経済成長を抑制していると指摘している。

欧州が財政政策を拡張する中、日本は教科書通りの政策を実現できず、他国の成功を見習わない政治リーダーの下では国民の生活が貧しくなると警告している。

(要約)

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筆者は「石破首相には教科書どおりの経済政策も期待できない」と手厳しい(写真:ブルームバーグ) 

 

 自らの失敗を学び、他者の成功を参照することは、人生を豊かにする基本的な知恵だろう。多くの日本の政治家や政策当局者は、こうした知恵を持っていないのだろうか。 

 

■第2次安倍政権誕生までデフレを放置してきた日本 

 

 先進国の中では、日本だけが1990年代半ばから約20年にわたってデフレを伴う低成長に見舞われた。 

 

 「デフレの番人」だった日本銀行の組織を変えたのは2012年に誕生した第2次安倍政権だった。2013年の政策転換によって、デフレが少しずつ和らぎ雇用が増えた。そして、低賃金・長時間労働の代名詞であった「ブラック企業」などという言葉はいつの間にか聞かれなくなり、失業率が2%台まで低下する経済正常化を通じて、日本の社会はかなり安定した。 

 

 実際のところ、金融政策を変えた安倍政権下においても、緊縮的な財政政策が続いたため、デフレ完全脱却は実現しなかった。緊縮財政政策を志向する政治勢力が強かったことは、故・安倍晋三氏の回顧録などで明らかになっている。ということは、不十分だった財政政策を働かせれば、経済成長を高めてインフレを安定させ、そして失業率を2%付近までさらに低下させることは可能だろう。 

 

 1990年代からの「日本の失敗」の教訓は、①デフレは人災であり経済物価安定のために経済政策が適切に行われるべき、②財政政策は経済成長を高めてインフレを安定させるために金融政策と整合的に発動した方がいい、ということだ。標準的な経済学の教科書が教える理論だが、日本ではそれが実現しない極めてまれな状況にあった。 

 

 安倍政権で起きた政策転換によって、ようやく日本経済は異常な状況から脱した。ただ、時を経て2024年に石破政権が誕生、日本のマクロ安定化政策(金融財政政策)は、再び機能不全に陥りつつある、と筆者は懸念している。 

 

 マクロ安定化政策を適切に発動しなければ、経済的な豊かさ高められない教訓を理解できない政治家らが迷走しているようにみえるからだ。 

 

■政府の財政は「緊縮政策」で急速に改善中 

 

 少数与党となった石破政権となってから、適切な金融財政政策は行われていない。財政政策については、総選挙で躍進した国民民主党が掲げていた7兆円規模の所得減税策は、与党と日本維新の会との協議が合意に達したことにより、1兆円程度の小規模な所得減税まで大きく縮小した。その一方で、自民党は、2026年からの、法人税とたばこ税による同規模の増税を打ち出している。 

 

 

 そもそも、1兆円規模の減税では、インフレによって税率負担が高まる、いわゆるブラケット・クリープ問題への対応として不十分だろう。石破政権では、事実上の増税策が強まり、日本の財政政策は経済成長を抑制、緊縮する方向に作用している。 

 

「国民民主の要求が実現しないなら日本は後進国だ」(2024年12月10日配信)でも述べたように、インフレ率の上昇に応じて、所得税などの税率を変えるのは世界の常識だが、日本では通用しないようだ。1990年代からデフレを長年にわたり事実上放置してきた、日本の「ガラパゴス金融財政政策」が復活しつつある、ということではないか。 

 

 実際、緊縮的な財政政策になっていることは、日本の急速な財政収支の改善が明確に示している。日本銀行の資金循環統計によれば、一般政府部門の資金過不足は2024年10〜12月期にプラスに転じたが、同統計がさかのぼれる2005年以来の出来事である。これは政府の財政収支に相当するが、税収が大きく増え続ける一方で政府歳出を抑制しているので、政府の財政収支が2024年にかなり均衡に接近していることを意味する。 

 

 この数字は推計値であり実際の財政収支とは完全に一致しないが、2022年から財政収支が持続的に改善しているのは明白である。インフレを伴う名目GDPの拡大によって、税収が大きく増えているためである。つまり、いわゆるインフレ税が、民間部門に強く課せられている(それを和らげるのが、所得税の基礎控除の引き上げ政策である)。 

 

 税収は公的部門の「所得」に相当するが、法人所得とともに大きく増えている。一方で消費は停滞している。 

 

■石破政権下では「教科書どおりの政策」もできない 

 

 消費が増えない1つの理由は、食料品価格の上昇で実質所得が目減りしていることだが、そもそも名目ベースでの家計所得が十分伸びていないことが、2024年から個人消費にブレーキがかかっている根本的な理由である。家計所得が増えるためには、雇用・賃金が増える、あるいは税・社会保障負担を減らせばよい。 

 

 2024年も個人消費はほとんど伸びずに終わり、日本経済はいまだ自律的な回復には至っていない。このため、安定的な景気回復を実現するために、家計の可処分所得を引き上げる財政政策が望ましいが、石破政権下では「教科書どおりの経済政策」は残念ながら実現しないのだろう。 

 

海外に目を転じれば、「ついに目覚めた欧州、日本はまだ眠り続けるのか」(2025年3月18日配信)でもふれたとおり、長年緊縮的な財政政策を続けたドイツも、ついにこの2月、財政政策は拡張方向に転じた。 

 

 自国の失敗の教訓からは目を背け、成功している他国を見習わない。基本的な振る舞いができない政治リーダーの下では、国民の生活は再び貧しくなるのが当然である。 

 

(本稿で示された内容や意見は筆者個人によるもので、所属する機関の見解を示すものではありません。本記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています) 

 

村上 尚己 :エコノミスト 

 

 

 
 

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