( 280296 ) 2025/04/04 06:50:10 0 00 (c) Adobe Stock
4月は自動車ユーザーが重税感を抱く時期だ。4月1日時点の所有者に自動車税が課せられるためで、高止まりするガソリン価格も追い打ちをかける。石破茂首相(自民党総裁)はガソリン税に上乗せされている暫定税率に関し「(廃止されて)消費者の手取り増につながることは望ましい」と意欲を見せるものの、動きはあまりに遅い。経済アナリストの佐藤健太氏は「『暫定』『当分の間』という名の下に自動車ユーザーの負担は重すぎる。もっと国民は怒っても良いのではないか」と指摘するーー。
「暫定税率を廃止するためには、税法を改正しなければならない。夏までに入れ込んでいくのは簡単な話ではない」。3月27日に行われた自民・公明両党と日本維新の会による税制協議で、維新側は今夏をメドにガソリン税の暫定税率を廃止するよう求めた。これに対し、自民党の宮沢洋一税制調査会長は代替財源の必要性などを念頭に難色を示した。
年収103万円を超えると所得税がかかる「103万円の壁」見直し議論と同様に、こうした与党側の煮え切らない姿勢に辟易とする人は多いだろう。与党と国民民主党の幹事長は昨年12月、ガソリン税に上乗せされている暫定税率を廃止することで合意した。合意文書には「いわゆる『ガソリンの暫定税率』は廃止する」と明記されている。
ガソリン税とは、揮発油税・地方揮発油税の総称だ。1リットルあたり53.8円が課せられ、そのうち25.1円は本来の課税額に上乗せされている暫定税率分となっている。道路整備の財源不足などを理由に1974年から上乗せが始まったが、なぜか道路財源の確保などを理由に続いてきた。暫定税率が廃止されれば、1リットルあたりの税金は28.7円にまで縮小する。
資源エネルギー庁の調査によれば、3月24日時点の店頭小売価格(現金)はレギュラーガソリン1リットルあたり184.5円で依然高止まりしている。全体は前週から0.1円の値下がりとなったが、都道府県別に見ると24道府県で値上がり。横ばいは6県、値下がりは17都府県だ。ガソリン価格高騰の背景には、石破政権が2022年1月から石油元売り各社に支給してきた「ガソリン補助金」の縮小を昨年11月に決定したことがあげられる。
つまり、政府は価格抑制策を打ち切りにする一方、ちゃっかり「暫定税率分」も維持しているわけだ。加えて、ガソリン税に消費税が課されるという不可解な二重課税問題も解消されてはいない。
誤解を恐れずに言えば、日本は本当に「平和な国」と感じる。最近は「財務省解体デモ」なるものが注目を浴びつつあるが、「暫定」だったはずの課税も「二重課税」の問題にも国民は耐え続けているのだ。元々の課税根拠だった道路特定財源の一般化により、すでに理由が喪失されていても「即刻廃止せよ!」との声が高まるわけでもない。その意味からも本当に「不可解」な状況なのである。自動車ユーザーの重税感は決して軽くない。
さて、ここで1つ問題を出したい。皆さんは自動車に対する税金を何種類払っているのか把握しているだろうか。答えは、なんと「9」もある。自動車メーカーでつくる一般社団法人「日本自動車工業会」(会長・片山正則いすゞ自動車会長)の資料によれば、自動車関係諸税は1954年度に道路特定財源が創設されて以来、増税や新税創設が繰り返されてきた。もはや驚くほかないだろう。
大切なポイントなので詳しく説明すると、環境性能割の自動車税・軽自動車税から始まり、種別割の自動車税・軽自動車税、自動車重量税、揮発油税・地方揮発油税、軽油引取税、石油ガス税、そして車体課税分の消費税と燃料課税分の消費税がある。2024年度の当初予算でみると自動車ユーザーが負担する税金の総額は国の租税収入117兆円の7.7%にあたる約9兆円に上っているという。
つまり、自動車ユーザーは取得・保有・走行の各段階で課税されまくっている。「取得時」に車両価格に対して消費税10%に加え、地方税の自動車税(環境性能割)が課せられる。環境性能割とは、自動車を取得した時に環境負荷の低減程度などに応じて課される税金で、最大3%(軽自動車は最大2%)だ。つまり、車両価格が200万円ならば消費税の20万円と環境割の6万円(最大)で合計は226万円だ。
また、「保有時」には地方税の自動車税・軽自動車税と、国税の自動車重量税がかかる。登録車は総排気量に応じて2万5000~11万1000円の自動車税(軽自動車税は1万800円)、新規登録時や車検時には自動車重量税として0.5トンごとに4100円(非エコカー、軽自動車は3300円)の税金を払う必要がある。
これらの「取得時プラス保有時」(車体課税)の合計租税収入は4兆7997億円(2024年度当初)で、「走行段階」にかかる燃料課税の合計は4兆2062億円(同)。これ以外にも自動車ユーザーは高速・有料道路料金や自動車保険料、リサイクル料金、点検・整備費などを負担している。
もう1つ問題を出そう。皆さんはガソリン税以外にも「暫定税率」が課せられていることをご存じだろうか。最近の価格高騰で何かとガソリン税ばかりに注目が集まるが、実は他にも「暫定税率」は存在している。それが自動車重量税の上乗せ分である「当分の間税率」だ。つまり、自動車重量税とガソリン税には「当分の間」としながらも特例的に税率が上乗せされている状況が続く。
一般社団法人「日本自動車連盟」(JAF)は昨年10月、自動車重量税とガソリン税に上乗せされている「当分の間税率」に関し、論理的な説明もなく追加負担を求めているものであると廃止を求めた。自工会も昨年9月の要望書で「現行の自動車税制の税体系や課税根拠は、社会の変化スピードに適応できておらず、抜本的な見直しが急務である」と指摘。課税標準が異なる自動車税と自動車重量税を結合し、「50年以上継続している当分の間税率廃止」で負担軽減することを求めている。
自工会が開いた今年3月19日の記者会見では、松永明副会長が「暫定税率という問題はそもそも言えば、車体課税である自動車重量税についても暫定税率が残存している状況だ。ユーザーとしては、これまでずっと過重な負担を強いられていた。これの議論についても暫定税率というのであれば、しっかりと議論いただきたいと考えている」と語っている。自動車税負担の国際比較で言えば、日本は英国の約1.4倍、ドイツの約3.4倍、フランスの約9.5倍、米国の約23.4倍に達しているという。
昨年12月に決定された与党税制改正大綱には、「自動車関係諸税の課税のあり方の検討」という項目がある。日本の自動車戦略やインフラ整備の長期展望などを踏まえるとともに、脱炭素化に向けた取り組みに積極的に貢献すると説明。「自動車関係諸税全体として、国・地方を通じた安定的な財源を確保することを前提とする」とした上で、中長期的な視点から車体課税・燃料課税を含め「総合的に検討し、見直しを行う」と明記している。
取得時における負担軽減など課税のあり方を見直すとともに、「自動車の重量および環境性能に応じた保有時の公平・中立・簡素な税負担のあり方などについて関係者の意見を聴取しつつ、2026年度税制改正において結論を得る」とした。自動車重量税を減免するエコカー減税は2026年4月に終了予定であり、政府として今年の年末には抜本的な見直し策を決めようという意思を一応は感じさせる。
ただ、ガソリン税や自動車重量税の「暫定税率」は今も国民に打撃を与え続けている。加えて、米国のドナルド・トランプ大統領は輸入自動車に25%の追加関税を課すと表明し、日本の自動車メーカーが負担増をユーザーに求める可能性も懸念される状況だ。
「日本の自動車ユーザーの負担が重すぎる」。これは、国家として“失敗”の烙印を押されても仕方ないのではないか。自動車税(種別割)は毎年4月1日時点の所有者に支払い義務が生じ、1年分が課税される。多くの場合は5月末日が納付期限だ。何ともやり切れない思いを抱くユーザーもいるとは思うが、国民の義務である納税は忘れないよう願いたい。
佐藤健太
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