( 280676 ) 2025/04/06 04:09:08 0 00 県議会であいさつする斎藤知事(左奥)(3月26日午前、兵庫県公館で)
「全議案を議了いただき、厚くお礼を申し上げます」
兵庫県議会最終日の3月26日、登壇した知事の斎藤元彦はそう感謝の弁を述べた。その2日前、斎藤が提案した県立大の授業料無償化を含む新年度一般会計当初予算案は、一部議員を除く賛成多数で可決されていた。
公明党県議団の幹事長を務める越田浩矢は3月26日の県議会終了後、記者団に「混乱の収束には、(知事との)対立を深めるのではなく、歩み寄っていく必要がある」と話した。
議会の斎藤への向き合い方は、この半年間で大きく変わった。
斎藤がパワハラなどの疑惑を内部告発された問題を巡る県議会の動きは、「政局」と密接に関係していた。特に目立ったのが、最大勢力の自民党と、第2勢力の日本維新の会の駆け引きだ。
斎藤は2021年7月の知事選で自民と維新から推薦を受けた。ところが23年8月、維新の大阪での政策にならって県立大の授業料無償化を表明し、自民から「根回しが全くなかった」と怒りを買った。昨年3月には維新の党大会に初めて出席し、自民から「『維新の知事』になった」と反発を受けた。
内部告発があったのは、そんなタイミングだった。
斎藤は5月、議会の要請を受け入れて第三者委員会の設置を決定した。しかし自民は6月、「議会でも問題を調査する必要がある」として、維新などの反対を押し切って百条委員会の設置を主導。8月に始まった証人尋問で、他会派の議員とともにパワハラや贈答品の受領疑惑について斎藤を厳しく追及した。
当時、秋の衆院選が予想されていた。維新は当初、「反知事勢力の仕掛けた政争」と静観していたが、8月の大阪府箕面市長選で維新公認の現職が本拠地・大阪の首長選で初めて敗れるなど党勢に陰りが見え始めると、衆院選への影響を考えて斎藤をかばいきれなくなった。
8月末以降、各会派は競うように「斎藤おろし」の動きを加速させ、9月に全会一致で不信任決議を突きつけた。自民県議の一人は「当時は、どの会派が不信任を先に出してアピールするか、心理戦のようになってしまっていた」と振り返った。
斎藤は失職後、11月の知事選で約111万票を得て再選を果たした。
百条委は3月4日、「県の対応は公益通報者保護法に違反している可能性が高い」などとする調査報告書を公表した。しかし斎藤は翌日、「一つの見解」「逆に言うと、適法の可能性もある」と発言し、受け入れなかった。
百条委はその強力な調査権限から、地方議会が首長を追及する「伝家の宝刀」とされる。首長が報告書を受け入れなければ、議会は問責決議や不信任決議を検討するのが一般的な流れだ。
しかし、県議会では「知事は昨年の知事選で民意を得た」として、再度の不信任決議に慎重な声が相次いだ。百条委の結論が出る前の不信任決議が、「宝刀」の切れ味を失わせた。
自民県連幹事長で県議の黒川治は3月22日の県連会合後、記者団に「もう勢いに任せて(知事を)追い込むことはない。同じ轍(てつ)は踏まない」と述べた。
第三者委は3月19日、県の対応の違法性を認定する調査報告書を公表した。しかし斎藤は3月26日、「対応は適切だった」とする従来の見解を変えず、自身が設置を決めた第三者委の結論も受け入れなかった。
第4会派「ひょうご県民連合」の迎山志保は記者団の取材に「馬耳東風、糠(ぬか)にクギ。きちんと受け止めないのであれば、議会としては不信任(決議)をするしかない」と踏み込んだ。
それでも、自民や維新、公明の幹部が不信任決議に言及することはなかった。
背景にはまたも、選挙に向けた思惑が絡む。今夏には参院選があり、自民、公明は兵庫選挙区で公認候補を決めている。両党の関係者は「知事が失職し、再び知事選が行われたら、参院選に影響する。それだけは避けたい」と口をそろえる。
ある県議は自嘲気味にこう話す。「『議会は政局ばかり』と見られても仕方がない。混乱が今も収まらない原因は、議会にもあると言っていい」(敬称略)
河村和徳・拓殖大教授
百条委の調査結果が出る前に知事に対する不信任を決議するなど、一連の兵庫県議会の対応は「場当たり的」との印象を拭えず、県民の目には「斎藤潰し」と映ったのではないか。県議会はもっと慎重に対応するべきだった。議会の本来の役割はルール作りだ。今後は政争ではなく、パワハラの再発防止を制度的にどう担保するかなど、建設的な議論を期待したい。
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