( 280779 )  2025/04/06 06:11:47  
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建築エコノミストの森山高至氏のSNS投稿や報道により、大阪・関西万博の建設遅延や混乱が浮き彫りになっている。

海外パビリオンの進捗状況も深刻であり、開幕直前の現在でも建設の遅れや計画変更が相次いでいる。

また、未来技術のeVTOL(電動垂直離着陸機)の実現が困難となり、予算管理や事業の関連費用に疑義が持たれている。

経済効果も疑問視されており、「成功」の定義や評価基準が不明確であることから、万博の是非について懸念が高まっている。

(要約)

( 280781 )  2025/04/06 06:11:47  
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(c) Adobe Stock 

 

 建築エコノミスト森山高至氏のSNS投稿が話題を呼んでいる。「万博パビリオン工事の状況。1階部分はまったく未完成。 これで2週間後にオープンは不可能だろう」。4月13日から開かれる大阪・関西万博についてのことで、3月30日に投稿していた。共同通信も3月12日に「万博・海外館、建設完了は2割弱 開幕まで間に合うか懸念」という記事を配信しており、不安が募る。経済誌プレジデントの元編集長で作家の小倉健一氏は開催にむけて「秘策がある」と語る。一体どんな方法なのだろうかーー。 

 

 大阪・関西万博の混迷は深まるばかりだ。 

 

 報道は連日、建設の遅れや計画の変更、費用の増加を伝え、もはや「問題山積」という表現では済まされない。主催者が「未来社会の実験場」と位置づけたこの国家的大事業は、実態としては杜撰な予算管理、建設遅延、展示計画の不透明さにより、現場が崩壊寸前の様相を呈している。特に海外パビリオンの進捗状況は深刻である。開幕を目前に控えた現在(4月1日)の時点で、多くの国が建設の遅延や計画変更を余儀なくされている。 

 

 日本国際博覧会協会は3月28日、4月4日から開始される大阪・関西万博のプレオープン「テストラン」について、独自にパビリオンを建設する「タイプA」の海外参加館のうち、参加を表明したのは3月27日時点で全体の約半数にあたる29カ国24館にとどまっていると明らかにした。さらに、このテストランを報道陣には公開しないのだという。この非公開の理由について万博関係者は、こう語る。 

 

「テストランを非公開にしたのは現場の混乱を見せられないためです。パビリオン周辺では今でも工事音が響き、資材を積んだトラックが絶えず行き交っています。外壁工事が未完で骨組みがむき出しの建物もあります。外観が完成していても内装が未了の施設が多く、消防設備の点検も追いついていない。さらには、報道されていないが運営スタッフへの研修すら始まっていないパビリオンも少なくない」 

 

 注目を集めてきた技術の一つが、「空飛ぶクルマ」と称されるeVTOL(電動垂直離着陸機)の運用実験である。だが、2024年10月にスカイドライブ社が発表した声明により、デモフライトの中止が正式に発表された。 

 

 

 国土交通省航空局による安全審査が長引き、技術的検証のめどが立たなかったことが理由とされる。さらに、ANAホールディングス傘下で運航を担うはずだったANA AAV社も、商用運航の断念を明言している。これにより、万博会場で空を飛ぶeVTOLは一機も存在しない見通しとなった。華々しく喧伝された未来技術の象徴は、実現の困難さを露呈し、プロジェクトの信頼性を大きく損ねた。 

 

 健康寿命を伸ばすための名目で、大阪府が公開した「健活10ダンス」動画に吉村知事が登場しSNSで話題となったが、動画制作を含む関連事業の総費用は万博関連予算から2年間で計1億2000万円が投じられていた。吉村知事は「動画制作費は200万円」と強弁したが、それは本人出演分に限られ、曲の作詞・作曲代、ケント・モリ氏の振付、複数の映像制作費など、本来、制作費に含めるべき多くの支出への説明が不十分なままだ。そもそも健活10ダンスの普及と万博に何の関係があるのだろうか。「健活10ダンスと健康寿命の検証は行わない」(筆者の質問に対する大阪府担当者の回答)という支出は、税金の使い道として到底容認できない。 

 

 主催者や日本維新の会は、こうした現場の混乱や予算の膨張を無視し、「万博を成功させよう」「経済効果は2兆円を超える」と主張し続けている。根拠としてしばしば引用されるのが、一般財団法人アジア太平洋研究所が発表した経済効果試算である。だが、この数字はあくまで理論上のモデルに基づいた推計であり、実際にどれだけの経済活動が新たに生み出されるかについては、多くの専門家が疑問を呈している。 

 

 経済学において経済効果を測定する際に不可欠な視点が「代替効果」と「機会費用」である。代替効果とは、ある支出が別の支出を押しのけることで、全体としての消費や投資の増加にはつながらない現象である。例えば、神戸の住民が沖縄旅行を取りやめて万博に行った場合、消費の場所が移動しただけであり、経済効果としてカウントするのは誤りである。さらに、万博会場の飲食店で使われたお金が、通常であれば大阪市内の商店街で使われていたかもしれないと考えれば、それもまた地域間の付け替えに過ぎない。このような代替効果を考慮せずに経済効果を計上することは、二重計上や過大評価につながる。 

 

 

 機会費用の観点からも、万博が持つ負の側面は無視できない。万博関連のインフラ整備や警備体制の強化に投入された予算は、他の行政課題に充当可能だった資金である。大阪府では近年、保健所の統廃合や公立学校施設の老朽化対策の遅れが顕著になっている。 

 

 万博の正当化に使われる「経済効果2兆円」という数字は、政府支出や来場者支出による波及効果を産業連関表に基づいて機械的に算出したものである。だが、その前提となる来場者数や一人当たり消費額が極めて楽観的であることは、試算を確認すれば明らかである。2025年の万博では約2,800万人の来場が見込まれているが、2020年のドバイ万博でさえ訪問者数は約2,400万人にとどまっており、会場建設すらままならない現状では、来場目標の達成は極めて困難である。 

 

 さて、そんな中でも万博の”一発逆転”を信じている人たちもいる。 

 

「万博が開催されれば、大阪では毎日のようにトミーズ雅氏らを始めとする吉本芸人たちが生中継で万博を紹介していきます。一度は行っておかないとという空気が、大阪のお茶の間を支配するのは間違いないです」(万博関係者) 

 

 万博の本質的な問題は、「成功」とは何かを主催者が明確に定義しない点にある。来場者数か、経済効果か、あるいは単なる「盛り上がり感」か。いずれも曖昧なままであり、終了後には「一部では成功だった」「新技術が紹介された」などと、都合の良い評価だけを切り取って主張される懸念が強い。こうした情報操作は過去のメガイベントでも繰り返されてきた。総括なき「成功」が、失敗の責任回避を目的とした政治的レトリックであることは歴史が証明している。トミーズ雅氏らによって大阪の人が万博に殺到したとしても、万博関連費用13兆円を取り戻すことは不可能だ。 

 

 こうした状況を踏まえ、欧州の研究者らはメガイベントの経済効果評価に厳格なチェックリストを求めてきた。代表的なのが、ミラノ万博の評価に際してJ. Massianiが提唱した32項目の評価指標である。透明性、現実性、地域的整合性、費用評価の妥当性などを細かく検証し、主催者による数字の操作を防ぐ目的がある。 

 

 

 これを大阪万博に当てはめた場合、経済効果の前提条件、計算根拠、対象地域、費用便益分析の全てが不十分または非公開であり、独立した第三者機関による評価が求められる状況である。 

 

 現時点で明らかなのは、万博の開幕前から建設遅延と費用膨張が確定しており、期待された未来技術の多くが姿を消し、世界各国の参加も当初の計画から大きく後退しているという事実である。この状態を「成功」に仕立て上げようとすること自体が、納税者への裏切りである。主催者と維新が責任ある政党としての矜持を持つならば、開幕前にプロジェクトの全体像と費用対効果を精緻に開示し、国民に提示すべきである。これ以上の責任回避は、政治不信と行政不信をさらに深刻化させる結果となる。 

 

 大阪万博は、未来社会の縮図ではなく、行政の不透明さ、政治の無責任、公共事業の暴走という現代日本の構造問題を露呈させた象徴である。国民と府民の貴重な税金を賢く使うためにも、冷静な検証を行うべき時である。 

 

小倉健一 

 

 

 
 

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