( 281056 ) 2025/04/07 06:25:38 0 00 横浜DeNAベイスターズが今季から発売している「AKT エグゼクティブBOX」。上段3席、下段5席の合計8席で20万円から - 筆者撮影
プロ野球横浜DeNAベイスターズの親会社であるDeNAの2024年3月期決算は、スポーツ事業の売上収益が累計273億円で過去最高となった。野球離れといわれる中、なぜ観客数が増え続けているのか。スポーツライターの内田勝治さんが球団を直撃した――。
■座席に電源や暖房器具までつく贅沢ぶり
プロ野球球団の横浜DeNAベイスターズは昨季、セ・リーグ3位から1998年以来、26年ぶり3度目の日本一に輝いた。チームの成績に比例して、集客も右肩上がりだ。DeNAが球団を取得する直前の2011年シーズン、主催試合の観客動員数は110万人まで落ち込んでいたが、昨季は球団史上最多となる235万8312人を記録。ビジネス面でも過去最高の盛り上がりを見せている。
27年ぶりのリーグ優勝、そして日本一連覇を目指す2025年シーズンも歩みを止めることはない。今季から本拠地・横浜スタジアムのバックネット裏席最上段に、上質なラグジュアリー空間の中で試合観戦ができる「AKT エグゼクティブBOX」を新設した。
エグゼクティブBOXは、昨季まで売り出されていたBOXシートをリニューアル。中央のテーブルを挟み、上段3人、下段5人の最大8人まで利用することが可能だ。設備も充実しており、電源タップのほかに、送風機や暖房器具を完備するなど、屋外でも快適に観戦できる環境を実現。座席後方にある簡易物入れの取っ手には、実際に選手が使っていたバットのグリップエンドが使用されるなど、ファンにとってはうれしい仕掛けも施されている。
■「1人2万5000円」強気な価格が生まれた背景
さらに、球団オリジナル醸造ビール「BAYSTARS LAGER」10リットル、樽ハイ倶楽部レモンサワー10リットル、お弁当(8個)を付帯サービスで提供。重厚なオリジナルチケットホルダーも配られるなど、まさに至れり尽くせりのサービスが受けられる。
8枚1組での購入で、価格は20万円〜(一人当たり2万5000円〜)。法人利用を目的としているが、個人での利用も可能だ。担当を務めるビジネス統括本部チケット部の小林元春さんが、設置に至った経緯を説明する。
「横浜スタジアムバックネット裏のスタンド上部には『NISSAN STAR SUITES(日産スタースイート)』(8人部屋33万円〜。一人当たり4万1250円〜)と呼ばれるVIPエリアがありますが、スタンドレベルでのVIP座席がこれまでありませんでした。スタジアム内の座席の単価、販売価格を整理していく中で、ちょうど抜けていた価格帯である『1人当たり2万5000円』程度で、エグゼクティブなラグジュアリー空間を作りたいなとなり、企画いたしました」
■イメージしたのは「六本木のクラブ」
双方とも高額チケットに変わりはないが、エグゼクティブBOXは3月11日の正午から一般販売が開始されると、3日間で約160席の申し込みがあったという。昨季7月以降は完売状態だったスタースイートに続き、新たな顧客層の獲得が見込まれている。
企画・立案に携わったチケット部部長の前田健太さんは、「六本木のクラブ」からヒントを得たという。スタースイートよりも下段に設置されているため、VIP席にいながら、よりスタンドやグラウンドの熱気が体感できるのが特徴だ。
「六本木のクラブへ視察に行き、メンバーと実際にVIP席に座ることで、一緒になって盛り上がる楽しさを感じてもらう体験をしました。『あの席は何だろう』と見られている優越感や、逆にこちらは全体が見渡せている特別感も重要になるので、あえてバックネット裏の一番高い場所に作ることになりました」
ラグジュアリー席だけでなく、三塁側の内野指定席に2人向けの観戦シート「千代一工業プライベートツインシート」(2枚1組で1万6000円〜)も新設。どの座席も通路からすぐにアクセスでき、ソファ型のシートでプライベートな空間を楽しむことができる。
さらに、昨年からテスト販売を実施していた「ハマスタ入場券」(1枚1000円〜)を本格導入。スタンドに入ることはできないが、コンコース内で球場グルメに舌鼓を打ちながら、雰囲気を楽しむことが可能だ。
■「8度のリーグ最下位」から生まれ変われた理由
このように、さまざまな施策を講じながら、2024年のスポーツ事業は前期比30%増の273億円と過去最高の売上収益を達成。観客動員数も過去最多を記録した。親会社のDeNAにとっても、ベイスターズの経営を中心とするスポーツ事業は、大切な収益の柱となっている。
ただ、ここまでの道のりは決して平坦なものではなかった。ベイスターズはDeNAに経営母体が変わる以前のTBSホールディングス時代、2002年からの10年間でAクラスはわずか1度のみ。8度のリーグ最下位を味わうなど低迷した。チームの不調は収益へとダイレクトに反映され、2011年は売り上げが50億円に対し、赤字が約25億円。厳しい経営状況の中で、DeNAはオーナー企業として再建を担うことになる。
まず目指したのは、本拠地である横浜スタジアムの経営権取得だ。それまでの契約では、球場における広告収入や飲食、グッズ収入のすべては、ハマスタを運営している「株式会社横浜スタジアム」に譲渡しなければならなかった。加えて球場使用料も高額で、仮に全試合で観客が満員になったとしても赤字という状況に陥っていた。
■赤字体質からわずか5年でV字回復
そこで、段階的に契約内容を見直していき、赤字額を減らしていくと、2016年1月に友好的TOB(株式公開買い付け)が成立。球団と球場の一体経営により、その年のシーズンの売り上げは100億円を超え、わずか5年で黒字化を達成することに成功した。
これまでは時間のかかったスタジアムの大規模改修も、迅速に意思決定がなされるようになった。そして、球場に集まった人たちが野球をきっかけにコミュニケーションを育むような、地域のランドマーク的存在になるべく、「コミュニティボールパーク」化構想に基づくさまざまな施策を実施。チームの勝敗に関係なく、野球に興味のない人でも観戦体験を楽しんでもらうことにフォーカスした。
まずはターゲット層である20代後半から40代の「アクティブ・サラリーマン層」に来場を促すため、球場でしか飲めないオリジナル醸造ビールを販売することで特別感を演出。そして、右翼、左翼スタンド上段に「ウィング席」を設けるなど、約6000席を増設し、プロ野球開催時における収容人数を約3万4000人まで拡張することで、受け入れ態勢を整えた。
■観客増→収益増→選手補強→人気増の好循環
また、試合後のグラウンド内にテントを張ってキャンプや天体観測を行うなど、家族やカップル、女性向けのイベントも数多く実施することで、アクティブ・サラリーマン層以外のファン層獲得に成功。観客動員数は2018年に球団史上初の200万人を突破するなど、コロナ禍の2020〜22年を除き、右肩上がりに推移してきた。
球団経営のV字回復に伴い、チームの成績も上向いてきた。2016年、11年ぶりに3位となり、球団初のクライマックスシリーズ進出を果たすと、2017年には昨季と同じく3位から日本シリーズに進出。ここ10年で6度のAクラス入りを達成している。
選手補強費も着実に増え、2023年には、メジャーリーグ投手最高の栄誉であるサイ・ヤング賞を受賞した経験を持つトレバー・バウアー投手を推定年俸300万ドル(当時のレートで約4億円)で獲得。今季、2年ぶり復帰の際には600万ドル(約9億3000万円)で契約を結び、周囲を驚かせた。
営業努力で観客が増え、球団経営が黒字化。補強費に回るお金が増えたことで、チームの成績も上がり、結果としてさらに観客が増えるという好循環が生まれている。
2026年春には関内駅前の横浜市旧市庁舎跡に大規模複合施設「BASEGATE(ベースゲート)横浜関内」が開業する。常設型のライブビューイングアリーナでは、ホームゲームのみならず、ビジターゲームも放映。横浜スタジアムや横浜公園方面とはデッキでつながるため、新たな人流が予想される。
■今後は試合以外の“体感価値”がカギに
球団も改革の手を緩めることはない。前田部長は、スタースイートやエグゼクティブBOX以上の高額な席も「潜在的なニーズがあると感じています」と今後の見通しを語る。
「例えば送迎サービスであったり、飲食物を運んでくれるサービスなどがデフォルトでついているような席があってもいいですよね。あとは、手に入りづらい人気グッズが最初から付帯していたり、席についたら名前入りのユニホームが置いているといった体感価値のようなものを付加した上で、今よりもさらに高単価なチケットを今後検討したいなと思っています。
これは私見ですが、推し活の方のニーズを満たすような、BtoCに思い切り振った席も一案としてあります」
1998年以来のリーグ優勝に向け、横浜の街とともに盛り上がりを見せるDeNAが、次にどのような一手を打つのか。ファンの楽しみは尽きない。
---------- 内田 勝治(うちだ・かつはる) スポーツライター 1979年9月10日、福岡県生まれ。東筑高校で96年夏の甲子園出場。立教大学では00年秋の東京六大学野球リーグ打撃ランク3位。スポーツニッポン新聞社ではプロ野球担当記者(横浜、西武など)や整理記者を務めたのち独立。株式会社ウィンヒットを設立し、執筆業やスポーツビジネス全般を行う。 ----------
スポーツライター 内田 勝治
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